昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


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第1部 1970年の世界経済動向

第1章 1970年の世界経済-概観

2. 世界経済の拡大鈍化

(1)アメリカの景気後退と欧州の拡大鈍化

1967年上期の一時的停滞から立直った欧米諸国の経済は,68年,69年と急速な景気上昇をつづけたあと,70年にはいってから経済拡大テンポは鈍化した。これは69年秋頃から欧米景気の足並みがみだれ,アメリカが景気後退に突入したからであるが,西欧も拡大を持続したとはいえ,かなりの鈍化をみせた。

OECD全体の鉱工業生産は68年6.7%増,69年7.4%増のあと,70年上期には前年同期比3.9%増にとどまった。季節調整済み指数の前期比増加率でみても,69年上期の7.8%(年率以下同じ),下期の4.7%のあと,70年上期にはわずか2.8%にすぎず,しかも第2四半期の生産は横ばいとなった。

アメリカの鉱工業生産は,69年上期の前期比5.7%増から下期の2.0%増へ鈍化したあと,70年上期には3.5%減となり,工業国の経済拡大鈍化の一因となった。これに対して西欧の工業生産は70年上期になお前期比7.6%と大幅に伸びたが,四半期別にみると,西欧の鉱工業生産も70年第2四半期には前期比0.3%増と,これまたほとんど横ばいとなっている。これは,ストによるイタリアの大幅な減産(前期比7%減)のほか,イギリス,フランス,オランダなどでの生産も僅かながら減少,また西ドイツの生産がほとんど頭打ちとなるほど,多くの国で生産が停滞したからである。

第1図 OECD鉱工業生産

実質GNPも同様な動きを示している。OECDの推定(70年7月)によると,OECD主要7カ国の実質GNP(季節調整済み)は69年上期の前期比4.1%増(年率,以下同じ),下期の3.5%増のあと,70年上期には前期比1.75%の増加にとどまった。これは主としてアメリカのGNPが70年上期に1.5%減少したためである。またアメリカを除く6カ国のGNPは6.5%増であったが,これはイタリアのGNPが69年下期にストにより減少し,70年上期にはその反動で前期比約12%も増加したことがひびいており,これを除くと,GNPの伸び率は70年上期にやや鈍化したと推定される。

第1表 OECD諸国の鉱工業生産

このような70年に入ってからの拡大鈍化をもたらした要因は,国によって必ずしも一様でなかった。アメリカやイギリスのようにミニ・リセツションに見舞われた国では需要不足が原因であり,フランスでも消費需要の弱さが最近の鈍化の原因となっている。またイタリアではストという特殊事情があった。しかし西ドイツ,オランダ,スエーデン,オーストリアなどのように,フル操業による設備や労働力の隘路が生産の拡大を妨げていた国も多い。

第2表 主要国の実質国内総生産の成長率

(2)雇用の動き

アメリカ,イギリスと欧大陸諸国の景気のずれは生産のみならず,雇用面にも明白に現われており,アメリカ,イギリスでは70年にはいって失業が著増したのに対して,欧大陸諸国では失業数がさらに減少し,労働力需給の逼迫の一層強まった国が多い。すなわち,アメリカの失業率(季節調整済み)は,69年下期の平均3.6%から70年上期の平均4.4%へと高まり,7月以降は5%を超え,9月には5.5%と,65年はじめ以来の高率となった。イギリスでも70年上期の失業率は平均2.8%で,69年上期の2.5%を上回った。

これに対して,西ドイツ,オランダ,ベルギー,スエーデン,その他の欧大陸諸国では,70年上期の失業率が69年上期より低下した。フランスは例外であって,70年上期にはいって求人数は減少する一方求職者がかなり増加して労働力需給は緩和する傾向をみせている。これはフランスの景気情勢が慎重ながらも引締め緩和を必要とするにいたったことの背景でもある。ただしごく最近の数字でみると,西ドイツでもやや失業の増加や求人の減少など,労働力需給の若干の緩和がみられ,引締め政策の効果浸透を物語っている。

第3表 欧米諸国の失業率

(3)堅調であった輸出と設備投資

こうしたなかで需要別にみて1つの大きな特色は,とくに西欧の場合,輸出と設備投資が69年にひきつづいて拡大したことであった。輸出は後述するように,欧大陸ではイタリアを除いて70年上期に15~20%という大幅な増加を示し,69年につづいて輸出景気をもたらした。いま一つの経済拡大の主柱である設備投資は,第4表のように,多くの欧大陸諸国で前年比20%余という大幅な増加が見込まれている。ただしこれには物価の大幅上昇分も含まれているが,それを差引いた実質増加率でみてもかなり高い(たとえばフランスは名目27%増,実質21%増)。設備投資が69年にひきつづき70年も活発であった理由は,①68~69年の急速な経済拡大により多くの産業設備がフル操業となって設備拡張の必要が生じたこと,②労動力不足や賃金上昇から省力投資がふえたことなどの事情によるものと考えられる。しかしこの投資ブームも,70年下期になると,西ドイツなどでは引締め政策の持続や賃金上昇による利幅の縮小などで衰えることが予想されている。

第4表 1970年の設備投資予測

他方,アメリカの設備投資の伸び率は6~7%で,欧大陸諸国よりは小幅であるが,景気後退下における伸び率としては意外に好調であったといえる。実質でみるとほとんど横ばいであるが,それでも過去の景気後退時のように大幅に低下せず,後退幅を小幅にする下支え要因として働いたことが注目される。これはおそらく67年上期の一時的中断を除いてアメリカの好況が60年代はじめから長くつづき,企業が景気の長期的な見通しに自信をもつようになったことと,インフレ心理の浸透によるものであろう。

これに対して,イギリスの設備投資は,ごく最近の調査によると,70年はわずか2~3%増(実質),71年は全く横ばい予想で,イギリスの企業の投資マンドは相変らず低調である。


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