昭和44年
年次世界経済報告
国際交流の高度化と1970年代の課題
昭和44年12月2日
経済企画庁
第2部 世界経済の発展と国際交流の増大
第1章 商品・サービスの国際的依存度の上昇
このように戦後の輸入依存度の上昇は,主として先進国における工業製品貿易の拡大によるものであり,とくに工業製品の輸入依存度は戦後において顕著に増大したが,次にさらにすすんでこの工業製品の中でどのような品目が貿易拡大の中核となっているかを検討してみよう。
輸出入品目を頭脳・技術集約製品,その他の工業製品および工業製品以外の商品の3つのタイプにわけて,主要国における輸出入を比較すると第22図のようになる。なおここでいう頭脳・技術集約製品とは化学品,一般機械,電気機械および航空機であるが,これらの部門の研究開発費は全産業の50%以上を占めていて,まさに技術,知識の集約製品であることがわかる。
この10カ国合計でみると明らかなように,輸出入とも,頭脳・技術集約製品の伸びがもっとも大きく,ついでその他の工業製品,そしてもっとも伸びの低か.ったのが工業製品以外の品目であった。
頭脳・技術集約製品の輸入増大が,各国の輸入依存度の上昇に大きく寄与していることがわかる。
つぎに,同様の傾向を,別の角度からみてみよう。近年技術が高度化し,生産工程の機械化が進み,また新製品や新しい生産方法の開発やマーケッティングが企業の発展にとって重要性を加えてきた結果,製造部門内においても,非熟練工,半熟練工など,直接的な生産労働者の割合は次第に減少し,管理者,技術研究者,販売要員など,いわゆるホワイト・カラーの比率が高まる傾向にある。たとえばアメリカの製造業就業者総数のうち,ホワイト・カラーの占める割合をみると,戦前(1937年)にはわずかに12%にすぎなかったものが,1947年には16.3%へ,さらに1966年には24.2%へとふえている。また,この比率は,産業別にみると大きな差があり,1966年についてみても,医薬品,通信機器,航空機などでは,全就業者の40%内外がホワイト・カラーで占められている一方,繊維品,衣類,皮製品製造業などでは10%そこそこにとどまっている。
そこで,アメリカの製造業中分類によって,全工業品をホワイト・カラー比率の著しく高いもの(Aグループ,35%以上),中位のもの(Bグループ,35~20%),低位のもの(Cグループ,15~20%),著しく低いもの(Dグループ,15%未満)の4つに区分し,それぞれに対応する工業製品の輸出入額の推移をみると,第35表に示した通りである。
すなわち,西欧とアメリカの工業製品輸入額は,1960年から1967年までの7年間に2.2倍に増大しているが,頭脳・技術集約的とみられるAグループの商品の輸入は2.7倍と,もっとも高い伸びを示し,Bグループは2.3倍,C.Dグループは1.9倍と,頭脳,技術の集約度の低い商品ほど輸入の増加テンポが小さくなっている。
とくに,技術水準の高いアメリカをみると,第36表のように,A,Bグループの輸出超過が拡大する一方,C,Dグループでのバランスは悪化するという傾向がみられる。すなわち,アメリカの工業品貿易の黒字巾は,1960年の65億ドルから,1967年の51億ドルと14億ドル縮小したが,これは,一次金属,自動車を中心とするCグループの収支が13億ドル,繊維,衣類を主とするDグループのそれが5億ドルそれぞれ悪化したためで,A,Bグループの黒字巾はむしろ増大している。
これは,技術水準がもっとも高いアメリカでは,単純な加工品から,頭脳・技術集約的な商品へと,比較優位が移ってきていることを示すとともに,これが,工業諸国の輸入依存度の上昇に反映していることを物語っている。
以上のように,頭脳・技術集約度の高い商品の輸入が大巾に増大している一つの大きな理由は,各国の国内需要が,これらの商品でとくに急速に伸びていることにある。第23図は1960年から1966年にかけて,主要国の製造工業付加価値の増加率を示したものであるが,技術集約的産業(化学,一般機械,電気機械,航空機)の伸びは,どの国でも,その他の製造業の伸びをかなり上回っている。
また,アメリカの製造業付加価値は,1960~66年に54%ふえたが,この前述のAグループに属する商品は67%伸びているのに対して,Dグループの伸びは38%にとどまっている。