昭和44年

年次世界経済報告

国際交流の高度化と1970年代の課題

昭和44年12月2日

経済企画庁


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第2部 世界経済の発展と国際交流の増大

第1章 商品・サービスの国際的依存度の上昇

1. 輸入依存度の上昇

戦後20数年間,世界の生産と貿易は全体として順調な発展,成長をつづけている。とくに注目されるのは,世界の生産と貿易の拡大テンポが,1960年代に入って一段と高まっていることであり,しかも,戦後一貫して,世界輸出の伸びが,生産の増大を上回る傾向を示していることである。たとえぱ,1953~60年の間に,世界の工業生産は年平均4.8%の上昇をみたが,1960年から1967年にかけての伸びは年平均5.6%へとたかまっている。一方,世界の輸出数量の伸びをみると,1953~60年の年平均6.2%から,1960~67年にぱ6.8%へとたかまり,いずれも生産の伸びを上回っている。つまり世界全体としてみた場合,貿易依存度は一貫して上昇する傾向を示しており,各国経済は商品貿易の面でますます相互依存関係を深めつつあるわけである。

第30表は,1958年価格による商品輸入額の国民総生産に対する割合を,主要地域別に示したものであるが,これでみても,世界の輸入依存度は,1950年の10%から,1960年には12%へ,さらに1965年には14%へと,顕著に上昇している。とくに上昇が著しいのは西ヨーロッパ,北アメリカを中心とする先進国であって,低開発国の輸入依存度は,全体としてみるとほとんどよこばい状態を示している。

第29表 戦後における世界の商品輸出および生産の推移

なお,社会主義国の正確な数字は不明であるが,当該地域の1955年から67年に至る輸入の増加率が年率8.5%であったところから推定して,社会主義国の輸入依存度も上昇しているものとみられる。

このような輸入依存度の上昇傾向はどのような商品によってもたらされているのであろうか。これを示したのが第31表であるが,全体として,先進国,低開発国を通して工業製品の増加率が高く,とくに先進国において顕著である。このほか,先進国では燃料の伸びが高く食料,原材料は逆に増加率は低い。

また低開発国では,工業製品とともに食料の輸入増加率が比較的高くなっている。

世界全体としてはもちろん,各地域とも全商品の輸入増加率を上回ったものは,工業製品であった。しかも,世界全体でのシェアーの高い先進国(第32表参照)での増加率がきわめて高かったところから,戦後における貿易拡大の主導的役割を果したのは工業製品であったことがわかる。

つぎに,工業生産と工業品輸入との関係をみると第33表に示した通りであり,これでみるとラテン・アメリカ地域が低下,アジア地域がほぼ横ぱいであるのをのぞくと,先進国では大巾に上昇しその結果世界全体としても高まっている。

ここで注目すべきは,このような工業製品の輸入依存度の上昇傾向が戦後の,特徴であることである。第21図は世界の工業生産とその輸出数量の推移を対比したものであるが,戦前においては工業製品の貿易よりも工業生産の方が伸びが高かった。したがって,19世紀末から1950年ごろまでは工業製品の輸入依存度は低下傾向にあったが,しかし,その後,1968年にかけては,工業生産が年平均5.9%の増加を示したのに対して,工業品貿易の伸びは年8.3%にのぼっている。

とくに,世界最大の工業国であり,輸入依存度の低い点でも例外的な存在であったアメリカの工業品輸入が,1950年ごろから急速な増大に転じたことは見逃せない。すなわち,1899年から1929年にかけて,アメリカの工業生産は年4.3%増大したのに対し,工業品輸入数量は年4.0%の伸びにとどまり,さらに,1929年と1950年をくらぺると,この間に生産は年3.2%ふえたのに,輸入は0.2%と,わずかながら減少した。これに対して1950年代には3.8%対11.6%,1960年~1967年には5.7%対13.9%と,輸入の伸びは生産のそれを大巾に上回ってきている。

また,サービスの輸入依存度も戦後はかなり上昇している。

すなわち,1960年代に入ってからのサービス輸入の増加内訳を第34表によってみると,各国の特殊事情を反映レて項目毎の増加率はそれぞれ異なっているが,サービス輸入全体としては商品輸入と並んでかなり高い増加率を示していることがわかる。ことに,旅行の高い伸びが注目される。これは,各国ともサービス全体の伸びよりも高く,アメリカを除く他の4カ国では商品輸入よりもはるかに高い増加率を示している。海外旅行の増大はいうまでもなく人の国際間移動の増大を意味するが,最近の海外旅行には単なる観光的旅行の増大もさることながらビジネスのための旅行の増大が著しく,それが企業活動において重要性を高めつつあるといわれる。後述の資本や人材移動並びに世界企業の増大とあわせ考えると,急速な世界的市場の出現をおもわせるものがある。

また,投資収益もかなりの増大を示しているが,これは資本移動の増大を反映するものである。

サービス輸入のいま一つの特色として,「その他」項目がある。この項目には各国によって種々のものが含まれているが,その主なものは,特許使用料,映画フィルム借料,経営管理手数料などである。注目されるのは,経営管理手数料等の支払がふえていることで,たとえぱ,西ドイツでは1961~67年の間に2.8倍にもふえている。これは多国籍企業の活動の活発化を反映しているものと思われる。「その他」項目の増加率で,アメリカだけが低く,その他の4カ国が高いことは,後述の資本移動や世界企業におけるアメリカの生産技術や管理技術の優位性を物語るものであろう。

第31表 主要地域の商品別輸入数量増加率

第33表 主要地域の工業生産と工業品輸入

第34表 サービス輸入(除政府取引)の増大


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