昭和44年
年次世界経済報告
国際交流の高度化と1970年代の課題
昭和44年12月2日
経済企画庁
第2部 世界経済の発展と国際交流の増大
第1章 商品・サービスの国際的依存度の上昇
以上のように戦後,商品貿易の輸入依存度がほとんどの国で上昇傾向をつづけているということは,いいかえれば各国間の商品取引の相互依存関係が強まりつつあるということであるが,では,その原因はどこにあるのだろうか。世界的な貿易自由化の促進等制度的な改善はもちろんのことであるが,その他次のような要因が考えられる。
まず第1には,工業品の輸入については,輸入国で輸入代替産業が発達して,輸入依存度が次第に低下するとか,各国経済の構造が同質化すると,各国の特化度が低下して,貿易取引量の増加テンポは小さくなるということが一般的に考えられるが,しかし,この点もすでにみたように,戦後の工業品の輸入依存度は先進国のすべてについて逆に上昇傾向を示している。
これは主として,先進諸国の所得水準の上昇によって,各国間の所得格差が縮小し,需要の同質化が進んだこと,いいかえれば,商品市場が一国単位から,世界的な市場に拡大したことに第1の原因があると考えられる。
このことをモデル化すると第24図に示したようになる。この図の横軸は1人当り所得を表わし,縦軸は需要される各商品の加工度をとることにする。ある所得水準に対する需要は,所得分布の不均等や加工度のちがった商品に対する需要の巾が考えられるので,ある巾をもった加工度の商品に対する需要がある。これを表わしたのが垂直の太い実線である。m1,およびnというそれぞれの所得水準の2国があるとすると,その2国間における同じ加工度をもった需要の範囲はa-bである。もし,m1の国の所得水準が上昇してm2となり,2国間の所得格差が縮小したとすれば,m2との間における同じ加工度をもった需要はa-cに拡大することになる。つまり,一例をあげれば,わが国の所得水準が,アメリカのそれと,大きな格差がある間は,たとえば高級乗用車に対する需要は,日本では発生しないが,日本の所得水準力が上昇し,アメリカとの格差がちぢまってくると,日本市場もアメリカの高級乗用車の市場として育ってくることになり,それだけ,アメリカに対するわが国の輸入依存度が上昇するわけである。
現に各国の所得水準の格差を計算してみると,第37表に示したように,主要先進国においては所得水準の格差が縮小の一途をたどっていることがわかる。
以上のような需要の各国間の同質化の進展とともに,各国の需要構造は逆に細分化,多様化が進展するが,これが第2の原因である。
たとえば,アメリカにおける自動車の需要は,所得水準の上昇に伴って,大型の自動車だけでなく,次第にコンパクト・カーとか,スポーツ・カーといった多様な自動車を求めるようになる。
一方,西ドイツとか,日本などで自動車産業が発達してくると,これらの国の自動車生産は,たとえばコンパクト・カー中心に形成され,コンパクト・カーに関しては,アメリカ市場ではアメリカ国内産業に対して,他の国のものが比較優位に立つ場合があり,このため,自動車の国際取引は,大型車はアメリカから西ドイツや日本へ,コンパクト・カーは逆に西ドイツや日本からアメリカへというように交さくした形になり,相互の国で輸入依存度が上昇するわけである。
こうした関係は,自動車に限らず,食料品についてもまた電気製品,さらには電子計算機などの先端的商品についても考えられる。いいかえれば,需要の多様化に応じて細分化された商品について各国の特化度が進むということである。
第3の原因は,頭脳,技術集約度の高い商品の需要が世界的に大巾に増加する傾向があるが,この面においては,各国間の技術水準の格差が後述するようになおかなり大きく,したがって技術集約商品の特化度は各国間で一層大きくなる傾向にあるとみられることである。
以上のようにみてくると,商品の取引の相互依存関係は各国の発展段階の相違や各種の要因によってその程度は異なるが,今後については,当面一部に輸入制限の動きがみられるものの,全体としては,世界貿易における先進国のウェイトがきわめて高く,かつ,この先進国間における貿易が所得水準格差の縮小による需要の同質化や,需要の多様化などによって今後は一層拡大するものとみていいだろう。また,国際機関の活動の活発化や,各国の貿易障壁の減少,さらに輸送手段の大型化,高速化による輸送コスト低下などによって,商品の取引はさらに拍車をかけられることになると思われる。