昭和43年
年次世界経済報告
再編成に直面する世界経済
昭和43年12月20日
経済企画庁
第2章 主要国の経済的地位の変化
(1) EEC諸国の経済力の増大
日本と並んでアメリカ,イギリスに対する経済力格差を縮小した西ヨーロッパ諸国にとって経済水準の上昇に大きな役割を果したのは,EECの結成であった。
1957年3月フランス,西ドイツ,イタリア,オランダ,ベルギー,ルクセンブルグの6ヵ国はローマで政治的ならびに経済的要請にもとづき経済共同体(EEC)条約を調印した。その後農業,通商,労働,輸送,税制および資本移動など各分野の共通政策がEEC発足以来急速におし進められ,68年7月1日には関税同盟が一応完成をみたことは衆知のとおりである。
いうまでもなく,このEEC結成の一つのねらいは,アメリカの経済力に追いつくために,アメリカのような広域市場をつくりだし,「規模の利益」によって経済力を飛躍的に高めることにあった。特に技術革新を一つのてこにして経済発展が行なわれている現代では,細分化されたヨーロッパ諸国が相互に関税をかけたり,輸入制限を行なっていたのではいつまでもアメリカに対抗できる力をつけるわけにはいかない。つまり,アメリカのような大市場をヨーロッパにも作り上げ,大規模経済に移行し,加盟国企業も大量生産方式をとり入れることを可能にし近代的な新産業技術を導入してヨーロッパ経済の繁栄を達成しようとしたわけである。
そして,このEEC結成は経済水準の上昇にかなりの効果をあげたとみてよいであろう。たとえば1960年におけるEEC6ヵ国の国民総生産は1,883億ドルだったが,66年には3,220億ドルと,6年間に71%の伸びを示した。これに対してアメリカは同期間に5,114億ドルから7,565億ドイレへと48%の伸びを示したにすぎなかった。つまり,同期間のEECの平均経済成長率(名目)は9.3%に達したわけだが,これは,アメリカの6.7%はもちろんのこと,EFTAの7.5%,OECD加盟20ヵ国の7.9%をかなり大幅に上回るものであった。また,代表的産業における生産性の上昇をみてみると 第44表 のように,機械,金属などいづれも55年から66年にかけて倍前後の上昇率を示している。
このような,EEC諸国の経済力の増大はなにによってもたらされたのであろうか。
基本的にはEEC諸国の資本投下,技術進歩などによることはもちろんだが,そのほかにもEEC結成によって,各国間である程度の分業化が進み,企業の効率が高まって行く傾向にあることも一因となっている。EEC結成による国際分業の進展を主要工業製品輸出面での特化商品の変化によってみてみると 第45表 のようになっている。
この表はEEC各国の域内向け輸出合計に占めるシェアを商品別にみたものであるが,最近時点では西ドイツは機械,鉄鋼,自動車に,フランスはアルミと事務機械,イタリアははき物,衣類,家庭用電気器具,オランダは船舶,飛行機,ベルギー・ルクセンブルグは鉄鋼,肥料,銅,家具,通信機器に特化していることがわかる。
このような各国における特化製品を60年初めと比較してみると,特に特化の度含の強まった商品としては 第14図 のように西ドイツでは繊維機械,皮革機械をはじめとする機械類と鉄鋼,フランスは事務機械,農業機械,イタリアははき物,衣類,家庭用電気器具,オランダは船舶,飛行機,ベルギー・ルクセンブルグは肥料,鉄鋼製品,家具のウエイトが一段と高まっており,これらの製品分野において分業の高度化傾向がみられるようである。
そのほか,EEC結成によってEEC内部の企業規模の拡大が進み,これによって経済力が高まったことも見逃せない。EECの結成以後,業種別の団体や組合の連絡の強化が各国ともに行なわれたが,最近ではさらに,各企業間で投資計画の拡充,競争企業あるいは系列企業の吸収合併,企業間の協定,子会社などの設置,拡充などが相ついで行なわれている。
なかでも企業の集中,合同,提携の例は多い。まず西ドイツでは全部門を通じて記録された合併件数(および吸収)は65年の114件から66年には126件にふえ,過半数の株式取得例も39件から55件に,過半数に満たない株式取得も68件から70件にそれぞれふえている。フランスでも工業部門で記録された合併だけで64~65年の164件から65~66年には249件になっており,また,オランダでも工業部門での合併は65年の62件から66年には77件にふえている。
ベルギーでも全部門を通じての合併は64年の71件から65年には88件へ,イタリアでは全部門で65年の287件から66年の486件といずれの国でも企業の合併が急速に進んでいる。
こうしたEEC内部の分業体制の再編成,企業の合併,集中などはアメリカ系企業のEECへの進出によって大きく刺激されていることも忘れてはならない。すなわち,EECという大市場の出現は,海外の先進工業国たるアメリカの企業からみてきわめて将来性に富む有望な市場とみられた。とくに関税同盟が進むにつれて域外からの輸出が共通関税によって,差別待遇をうけるのに対して,域内にある企業は域内関税の撤廃によって大市場の恩恵をうけることになる。さらに,EEC発足当時,アメリカ経済は低成長を続けていて,国内での投資機会は乏しく,このため,高利潤を求めるアメリカ企業は,EECに争って進出し,大規模企業の設立を図ったのである。
アメリカの対EEC直接投資は1958年末には19億ドルとアメリカの対外投資総額の7.0%を占めていたにすぎなかったが,その後は急速にふえ,67年には84億500万ドルと,58年当時にくらべて実に4.4倍に増加し,アメリカの対外投資総額に占める比率も14%へ増加した。
この投資額を固別にみると67年においては西ドイツが35億ドルともっとも多く,ついでフランスの19億ドル,イタリアの12億ドル,オランダの9億ドル,ベルギー・ルクセンブルグの9億ドルとなっている。またここ9年間の伸び率でみると,西ドイツは年平均20%の増加で大き〈他を圧しており,イタリア,オランダがこれについでいる。
対EEC直接投資を産業別にみると,比較的大規模生産のメリットの大きい石油産業など,製造加工業に全体の8割が集中している。また,アメリカ系子会社のヨーロッパでの売上高,投資額の年々の増加は著しいものがあり,製造業売上高でみると,ヨーロッパヘ進出した会社は57年の63億ドルから65年には187億ドルへと約3倍の増加を示しており,化学,金属製品,一般機械,電気機械,輸送機械等の重化学工業分野で増加が目立っている。また設備投資も57年の6億ドルから67年には100億ドルと実に16倍に及ぶ増加率を示している。
以上のように,アメリカ企業のEECへの進出は大規模な投資に支えられて,大きな売上をあげることができたが,このことはEEC諸国の企業の規模拡大,効率の上昇などにも大きな刺激となったわけである。