昭和42年

年次世界経済報告

世界景気安定への道

昭和42年12月19日

経済企画庁


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第2部 世界の景気変動とその波及

第5章 景気変動と経済政策

2. 成長政策と循環政策との融合

欧米諸国は戦後,景気後退の防止ないし克服,あるいはインフレ圧力の除去のために,程度の差こそあれ政策的な努力をしてきたが,それに伴い,景気循環政策についての考え方や政策手段などが近年かなり変化してきたことが注目される。

まず第1に指摘されることは,政策意識の変化である。すなわち,1960年代に入って,アメリカ,イギリスなど従来経済成長率の比較的低かった諸国を中心に,いわゆる成長意識が高まり,従来の「完全雇用」と「物価の安定」および「国際収支均衡」という3つの政策目標のほかに「適度な経済成長の達成」という目標が新たに追加されるようになった。先進国の協力機関であるOECDにおいても,60年代に50%の成長率を達成するという共同目標が設定され(1961年)また加盟諸国の多くは特定の成長率を政策目標として掲げ,その実現のための手段として,従来はフランスなど一部の国しか採用していなかった経済計画を導入するようになってきた(たとえば,イギリス,ベルギー,イタリア,最近では西ドイツ。)その結果,短期の循環政策も,こうした成長政策ないし経済計画の枠内でもしくはその一還として,運用されるという傾向が生じてきた。

すなわち,単なる不況ないし過熱の防止だけが目的ではなく,経済の潜在的成長力に見合った成長(目標成長率)の達成に寄与することも,短期的景気政策の目的となった。

たとえば,アメリカで61年以降景気上昇が続くなかで,投資減税や加速償却(62年)一般減税(64年)など需要刺激措置が採用されたのも,当時の時点においてアメリカの潜在的成長力を十分に活用するためには,このような需要刺激策が必要だと判断されたためである。また後述するようにフランスの第5次経済計画のなかで,短期の循環対策と中期的経済計画とが巧みに結合されていることも(警告制度),短期の循環政策が成長政策の一環として考えられていることの好例である。

しかし,その半面,短期的な循環政策が長期的な成長対策と対立することも勿論ありうるわけで,たとえば景気過熱の時期に金融引締めなどにより需要を抑制すると,生産的投資が抑えられて,長期の成長目的に反する結果になりがちである。この矛盾を回避するために,需要抑制期においても生産的投資を抑制せずに,むしろそれを奨励するという政策が,たとえばイギリスなどにおいて近年採用されてきた。このような政策の成否はともかくとして,それは短期の循環政策を長期的成長政策の視点から運用する一例といえる。

経済成長の極大化のためには,単に潜在的成長能力をフルに活用するばかりでなく,潜在的成長能力それ自体を大きくすることも必要となってくる。

とりわけ西欧諸国や最近のアメリカのように,完全雇用が一応達成されている場合にはなおさらそうである。潜在的成長能力を高める手段としては,生産的投資の奨励のほかに,産業再編成,科学技術研究の促進,社会資本の充実地,域開発,職業教育や職業再訓練の強化,ある,いは資本市場の育成など,いわゆる構造対策と称せられるものがあげられる。短期の循環政策が長期の成長政策の一環となり,そしてこの種の構造対策が成長政策と結びつく場合に,構造対策が循環政策に利用されるのは当然である。最近の例でみると,イギリスにおいては本来製造業育成対策である選択的雇用税や地域開発政策が景気対策の一部としても利用されているし,また西ドイツにおいても67年夏に不況克服のために採用された第2次景気対策は,社会資本の充実と地域開発の促進を主たる内容としており,その公式の名称も「第2次景気・構造対策」とよばれている。


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