昭和42年

年次世界経済報告

世界景気安定への道

昭和42年12月19日

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

第1部 1966~67年の世界経済

第1章 世界経済の現況

2. 東南アジアの経済事情

(1) 低開発国の概況

1965,66年の低開発国経済は,一般的にみると,60年代前半の工業国のかなり早い経済拡大の影響がしだいに波及していく過程にあり,工業国向けの輸出増加によって得た資金を,工業国からうけた援助資金とあわせて工業化と経済開発のためにふり向けていく動きをみせた。低開発国のなかでも,メキシコ,ベネズエラ,チリ,ペルー,コロンビア,パナマ,ニーカラグアなどの中南米諸国や,台湾,韓国,タイ,マレーシア,ギリシャ,タンザニアなどの国々では,66年の実質国民総生産は5~10%のかなり高い拡大を示した。この間にあって,インドなど深刻な食糧危機に直面した国は著しい経済停滞を余儀なくされたが,一方では,ベトナム戦争に関連したアメリカの政府支出増大や輸入需要増加の諸影響が経済拡大を加速している国もあって,低開発国中の経済成長の格差は少なからず広がる傾向を示した。

1967年になって多く低開発国では,欧米工業国の景気不振を反映して輸出が急速に停滞化した半面,輸入は66年来の増加を続けたために貿易収支は悪化し,外貨準備高が減少する国もふえはじめるに至った。

一方,低開発国の1次産品価格は,ココアなどを除くと総じて軟調を示し,ロイター商品相場指数でみても,6月の中東戦争によって一時上昇したが,戦争の短期終結とどもに反落し,9月には1962年以来の最低値となった。

第7図 低開発国の輸出入変動と外貨準備高の推移

(2) 東南アジア諸国の動向

東南アジアの経済は,国ごとの拡大の差が一だんと広まりつつある。概括的にみると,台湾,韓国,タイなどマレー半島以東の諸国がかなり強い経済拡大を続けているのに対して,インドをはじめとするマレー半島以西の諸国では食糧不足や輸出不振が継続し,外貨事情の制約から経済の目立った好転はみられなかった。

東南アジア諸国中で最も著しい拡大を続けたのは台湾であって,鉱工業生産は66年に約13%の上昇を示したあと,67年上期にも前年同期に比べて22%の上昇となった。これはベトナム需要に関連した輸出の増大と国内需要の活発化によるものである。67年になって輸入の増勢は強まったものの,国際収支は黒字基調にあり,9月末の外貨準備高は年初に比べて約20%の増加となった。高い拡大テンポが続いているにもかかわず,物価もきわめて安定的に推移している。

台湾についで高い拡大テンポを示しているのは韓国であって,鉱工業生産は66年に約18%上昇し,67年上期にも17%上昇した。ベトナム関連の海外要因が高い拡大の要因となっているのは台湾と同様であるが,単一為替レートの設定や投資に対する租税特別措置,外資導入などの経済政策の効果によるところも少なくないとみられる。一方,物価は66年以来騰勢を強めて いる。

第8図 台湾と韓国の生産・輸出の増大

タイの経済も拡大テンポを速めており,66年の実質国民総生産は約11%と高率であった。ただし,最近では輸出が停滞化する半面,輸入が急増し,貿易収支は悪化している。輸入の急増は,セメント,タバコ,石油製品,紙などを中心とした工業活動の活発化を背景とした資本財や原材料輸入需要の増加によるものであったが,ベトナム関連の貿易外収入の増大を主因として外貨準備は増大を続け,67年々央には10億ドルを突破し,日本を除く東南アジア諸国の外貨準備合計額の4分の1を占めるに至った。しかし,この急速な軍関係支出の増大は,米価値上りと相まって,インフレ圧力の一因ともなっている。

以上の諸国の活溌な拡大に比べて,マレーシア,アィリピン,パキスタンなどは,工業国の景気不振の影響もあって輸出は伸び悩み状態にあり,フィリピンでは6月以降公定歩合を引上げ,金融引締めがとられるに至った。マレーシアは18年来といわれるゴム相場の低落と錫の世界的供給過剰が輸出不振の原因をなし,中東戦争勃発時の反騰も大勢には影響を与えなかった。パキスタンの輸出不振には,欧米の繊維不況が若干の制約要因として働いたとみられる。セイロンも輸出総額の5分の3を占める茶の価格の低迷がつづき,輸出は不振状態を脱しえなかった。

深刻な食糧危機に悩むインドは,2年続きの干ばつのあと,1966/67年の食糧生産は7600万トンと前年よりは400万トンの増収となったが,64/65年の実績8840万トンに対しては約15%も低い水準であった。また綿花,ジュート,砂糖などの主要農作物も,64/65年に対して10%前後下回った。このように農業生産は依然不振を脱しなかったが,鉱工業生産指数は67年になって幾らか回復した。年初来の動きをみると,67年の生産は66年に対して5.2%増(66年上期の前年同期比は2.3%増)と回復の兆しをみせた。この生産回復は60年下期以来の輸入制限緩和によって刺激されたものであった。問題は輸入緩和による生産増加が外貨準備の減少傾向に対してどのような影響を及ぼすかにあるが,66年々央のルピー切下げ以後もいぜん輸出は不振を続けている。67年第1,第2四半期の輸出の動きをみると前年同期比4.4%減および12.3%減と66年下期以後の減少傾向を変えていない。このため輸入制限緩和を行ないながらも金融引締め基調が継続しているが,輸出振興をはかるための輸出免税措置が提案されている。

食糧生産の不振は,ビルマにおいても著しく,66/67年の米作は65/66年よりも19%の減産と見込まれる。このためビルマの外貨獲得源である米の輸出も66/67年には65/66年より3割も下回るとみられている。

インドネシアの経済は依然低迷状態にあるが,スハルト政権になってから,近隣諸国との友好関係の回復と外貨導入がはかられており,輸出も回復し始めている。

第9図 東南アジア諸国の貿易


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]