昭和41年

年次世界経済報告 参考資料

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第1章 アメリカ

4. 国際収支の赤字続く

(1)新ドル防衛措置

60年代にはいり,軍事費削減などを含むドル防衛措置がとられていたが,63年7月には金利平衡税提案などを含む「国際収支特別教書」が発表され,同時に対外面を考慮して公定歩合が引上げられた(3.0%から3.5%へ)。その後65年2月にジョンソン大統領はドル防衛を強化し,①金利平衡税の適用期限を当初の65年末から67年末まで延長(議会で67年央までに修正),②1~3年の銀行融資にも金利平衡税を適用する (ゴア修正条項の発動),③直接投資を自主規制するなどの政策を打ち出した。

ドル防衛の効果はただちに現われ,65年第2 ・四半期の総合収支は8年ぶりで9億ドル(年率)の黒字になった。主因は銀行融資の引きあげであるが,一方,海外民間直接投資は根強く,観光支出は増大し,他方国内の好景気を反映して輸出は停滞する反面,輸入は急増し,またベトナム軍事支出も加わり,第3・四半期の総合収支は再び大幅な赤字(年率21億ドル)となった。

このため政府は2月のドル防衛措置に引き続き,65年12月には主として企業の直接投資の自主規制を強化した国際収支対策を発表し,また国内景気の過熱防止を主目的としたものではあるが,公定歩合も同時に引き上げられた(4.0%から4.5%へ)。

65年12月のドル防衛措置の内容はつぎのとおりである。

その他これらのドル防衛措置により66年中に国際収支は,均衡する(±2億5,000万ドルの範囲内)とファウラー財務長官は述べたが,66年になっても国際収支赤字はやまず,国際収支均衡の問題は67年に持ち越されそうである。ドル防衛による対外銀行融資,企業融資の抑制はアメリカの輸出に反動を及ぼしているようであるが,他方このような融資規制や海外資産の引揚げはユーロ・ダラー市場にひびき,また在欧米子会社は現地資金調達をしたため,ヨーロッパの金利は騰貴し,金利平衡税を払ってまでニューヨークで起債するなど一部の新しい動きを生んでいる。

66年9月のIMF総会でファウラー財務長官は,西欧の国際収支黒字国がアメリカに協力しないならば,①民間直接投資自主規制をさらに強化する。

②自主規制の枠を拡げるなどの措置をとらざるを得なくなるだろうと言明し,ヨーロッパ黒字国の低開発国援助を要請した。

(2)国際収支動向

64年の貿易は,前半で対ソ小麦輸出,後半では65年初港湾スト予想の輸出の積み急ぎなどで異常に伸び約70億ドル近い黒字を記録したが,65年になると港湾ストが,とくに輸出に悪影響を与え,また鉄鋼スト懸念の鉄鋼輸入が急増したため貿易黒字幅は約52億ドル縮小した。66年にはいって国内の過熱景気を反映して化学品・機械・輸送機器の輸出が激減し,工作機器・工業完成品などを中心に,ヨーロッパ,カナダ,日本などからの輸入が増大し,1~9月の貿易黒字幅も29億ドルに縮小した。また65年に米加自動車協定が結ばれた結果,米加自動車関税は撤廃されたので,自動車の対加輸入は急増している。このような状態にあり,政府は輸出促進のため輸出入銀行を強化し,共産圏への繊維,機械,化学品輸出を促進するため,貿易制限を緩和しようとし,また,ヨーロッパ共産圏に対し最恵国条項適用するよう立法化をすすめている。

貿易外取引きでは海運収入が輸出の伸び悩みなどを反映して停滞しているが,海外観光支出額は増加を続け66年第2・四半期にば6.5億ドル(季節調整済み,年率)となり,前年同期と比べ11%増となった。海外観光支出の抑制はドノレ防衛措置でたびたびとりあげられ,最近では旅行者の持ち出しドルの制限とか,1人50~100ドル程度の徽税も考えられているが,それが実現する可能性は少ないようである。

直接投資はEEC地域むけに増大していたが,現地子会社の設備投資急増にもかかわらず,66年になり資本流出額がやや減少しているのは企業がドル防衛に協力し現地資金調達を行なっているからである。また,アメリカ企業は対外証券売却の獲得資金でも直接投資に参加しているが,外国公的機関がアメリカ政府の要請により在米短期資産を長期資産にふり換えたことなどと合わせ,アメリカ国際収支赤字の縮小に大きく寄与している。

資本取引きの動きを見ると金利平衡税提案以来,証券投資などを中心に好転し,65年2月のドル防衛措置では銀行融資が規制されるなど資本面での赤字縮小には目ざましいものがあったが,65年12月の国際収支対策発表以降では,ドル防衛が強化ざれたのにもかかわらず,見るべき改善は小さかった。

66年第2・四半期の資本取引きは,外国人の在米資産取引きで大幅に好転しががこれは在米短期資産の長期化など技術的見せかけのものである。したがって今後もアメリカにとって国際収支,とくに資本収支は相変らず重要な問題として残っているわけである。また在外子会社に対して米親企業は平均して輸出総額の70~80%を輸出したり(子会社を持たない企業も含めた非農産物輸出総額では同約30%をしめる),その他輸出総額の約10%強はひもつき商品輸出(さらにサービスその他のひもつきなどを含めると約15%になる)である。アメリカ貿易構造の特殊事情を考慮すると,直接投資規制,銀行融資規制などのドル防衛策は商品輸出にかなり悪影響を及ぱすものと見られる。

第1-6表 国際収支


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