昭和41年

年次世界経済報告 参考資料

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第1章 アメリカ

3. 金融・財政引締め続く

(1)騰勢続ける金利

ケネディ以来,連邦準備の公開市場操作には長期証券も加え,短期証券売り,長期証券買いにより金利の二重操作が行なわれ成長に必要な長期賃金コストを低くし,また住宅金融の金利も引き下げられた。公定歩合もケネディ大統領就任以来,主として国際収支均衡のため2回引き上げただけであった。

金融は64年末ごろからやや引締め基調に変わっていたが,65年後半から,一般経済活動の上昇によってかなりひっ迫し,65年12月には公定歩合が4.0%から4.5%へ引き上げられた。主として対内面を考慮した公定歩合の引上げは61年以来はじめてであった。

企業は設備・在庫投資の資金手当てのため手持ちの証券を売却し,また銀行借入にあおいだため,証券の市場価格は下り(市場利回りの上昇),銀行貸付け金は涸渇しつつある。66年にはいっても,金利はますます騰貴し,20年代末以来の高金利時代を現出させた。65年末で3ヵ月もの財務省証券利回りは,すでに公定歩合を上回っていたが,66年にはいりその乖離は大きくなる傾向にあり,満期財務省証券の借り換え率も60%ていど(通常は90%)に低下した。当局は公開市場で買い支えを行ない金利の騰貴を抑えてきたが,9月になると急騰し市場利回りは5.5%となり公定歩合との差も1%開くなど,民間の資金需要は強い。貿易金融を主とする銀行引受手形(BA)金利は66年になり十数度引き上げられ,納税期限近くの6月,9月にはコール(フェデラル・ファンド)金利が一部で53/8%に達し,同じく,9月央では61/8~61/4%となり,公定歩合との開きは2.0%の記録となった。長期金利も続騰し9月央では長期国債利回りが4.8%近くなり,優良社債利回りも5.5%に達し,二重金利操作にも限界が現われるにいたった。ただし納税期限を過ぎて金利はやや高水準安定に移っている。

銀行資金もひっ迫し,プライムレート(優良企業貸出金利)は65年末以来4回引き上げられ8月16日には6%となり1930年初にこの種の制度がとり入れられて以来の最高となった。

また譲渡可能定期預金証書(CD)金利も数度引き上げられ,66年央でほとんどが法定上限の5.5%に達し,銀行は資金の取りあさりに努力している。連邦準備制度は過熱の原因と見られる設備投資資金に対する銀行貸付けを抑制し,季節的需要(納税期,配当支払期,クリスマス期など)だけに応じるよう加盟銀行に強力な窓口指導を行なっているが,一方,企業では設備投資をするのに社債を発行して長期にわたり現在の高金利を負担するより,銀行の短期融資を受け,借り換え継続を希望するなど短期借入,長期投資の動きが現われている。

このように民間企業の資金需要が強いため住宅金融は被害を受けて住宅建築は低調となった。このため66年4月連邦住宅貸付銀行(FHLB)理事会は傘下の住宅金融機関である貯蓄貸付組合(S&L)の上限金利(配当率)を7月初より5%に引き上げ資金集めを容易にさせ,また預金準備率を一時的に7%から6%に減じ住宅金融の緩和につとめた。連邦住宅局(FHA)や復員局(VA)とも保証抵当債の上限金利を51/4から51/2%,さらには53/4%に引き上げ,抵当債の市場価格下落を防いだ。また連邦住宅抵当協会(F NMA)も抵当債の売り圧力に対し買い支え(66年1~9月で約17億ドルの戦後記録)を行なってきたが,9月以降さらに48億ドルで買い支えに出動することになった。しかし住宅金融は底をつき政治問題にまで発展している。

議会では,本来住宅金融に回るべき小額で個人保有のCDが,商業銀行によりとりあさられているのを重視し,この種の預金の準備率を4%から5%に引き上げ(7月央より),また一銀行あたり500万ドル以上の定期預金残高に対する預金準備率も4%から5%へ(7月20日),さらには6%(準備市銀行で9月8日)へ引き上げた。また連邦準備制度が加盟商業銀行預金の上限金利を決めたり,FHLBがS&Lに対して同じような措置を向う1年間実行できる法律が成立し,一般的金利上昇を抑え,また住宅金融に対する考慮が払われた。連銀はさっそく主として個人保有の10万ドル以下のCDに対する上限金利を5%から4%へ引き下げた。個人金融も住宅金融と同様被害を受けて,66年にはいってから賦払信用の純供与額は減少傾向を示している。

第1-9図 金利

(2)財政引締めの発動

財政が今回の景気上昇に対し大きな役割りを果したことはいうまでもない。61年の景気回復期には財政支出が増大されたが,景気が上昇しても連邦財政はほとんど引き続き赤字を示し,たえず景気刺激的となっていた。これは政府が意識的に減税等により景気刺激をはかったからであり,この点は共和党時代において景気上昇につれ連邦財政の黒字幅が増大して景気抑制的となっていたのとは対照的であった。

66年になると景気過熱化がしだいに顕著となり,金融当局は財政引締めを望んだが,政府は景気拡大の阻害を恐れ,また11月に行なわれる選挙対策もあり,増税を渋ってきた。その代り66年1月に社会保障税の引上げ,3月には消費税減税のとりやめ,5月には個人所得税源泉黴収率の引上げが行なわれ,その他法人税納期の短縮など合わせて約110億ドル(年率)の購買力を吸収した。このほか民間設備投資の削減や消費支出の抑制などを呼びかけたが,それでも需要圧力は弱まらなかったため,9月8日大統領はインフレの主因と考えられる設備投資の抑制その他の措置を発表し,金融だけに引締め政策が依存しているという批判に答えた。この措置は,①62年に施行された機械設備に対する7%の税額控除を16ヵ月間停止(9年初より実施),また54年立法の建造物に対する特別減価償却制度も同一期間停止し,②連邦政府不急支出の削減,③金利騰貴を防ぐため,政府関係機関の新規証券発行規制(66年末まで)などが含まれる。①の措置は投資ブームを抑えるのがねらいである。②では財政支出を削減し超過需要を抑えるのが目的であり,今年度少なくとも30億ドルの削減が考えられているが,大統領はすでにそのうちの15億ドル削減を指示した。③では資金需要ひっ迫を緩和するのが目的である。

従来FNMAや輸出入銀行などの政府関係機関が資金を必要とする場合,新規証券や手持証券(主として長期もの)を直接証券市場で売却していたが,今後は連邦信託基金に売却し,連邦信託基金は財務省証券の発行で補充される。

第1-5表 財政措置の動き


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