昭和41年
年次世界経済報告
昭和41年12月16日
経済企画庁
第5章 世界貿易の構造と特徴
(1) 先進国間貿易の拡大
1960年代にはいって先進国間貿易の増勢は一段と加速化しており,いぜんとして世界貿易拡大の推進力となっていることはいうまでもない。
先進国間貿易の増加率は,50年代後半の年平均6.9%から60年代前半には9.8%と世界貿易全体の伸びを大幅に上回った。その結果,先進国輸出総額に占める先進国間貿易の比重は,60年の69%から64年には73%となった。
このように,先進国間貿易は60年代にはいって一段と増勢を高めたが,まずその特徴を地域別にみてみよう。
第1に,西欧,北米とも著増を示したが,西欧の伸びが異常に高かったため,先進国間貿易に占める西欧の地位の上昇と北米の低下という50年代央以降の傾向が続いていることである。北米の先進国間貿易の伸びは60年代にはいって増大したが,先進国間貿易の平均には及ばなかったため,シェアはやや低下した。これに対して,西欧の伸びはいちじるしく,シェアは輸出では60年の59%から64年には61%へ,輸入では61%から63%へといずれも上昇した。
第2に,西欧の発展はEEC,EFTAの各域内貿易の著増によって支えられていることである。すなわち,EEC,EFTAの域内貿易の伸びは目ざましく,先進国間貿易の平均を大幅に上回ったばかりでなく,60年代前半には増勢をさらに強めた。すなわち,EECの域内貿易の伸び率は50年代後半の年平均12.3%から60年代前半には15.9%へ,EFTAの域内貿易も6.2%から11.1%へと著増を示した。EECでは,域内貿易の異常な高まりに加え,北米,日本を含む域外先進国すべての地域から大幅に伸びていることは,EECの発展に伴う域外への貿易拡大効果を示すものであろう。とりわけ,EFTAのEEC向け輸出はほぼ域内貿易に匹敵する伸びを示しており,60年代にはいってEECへの傾斜を一段と強めた。このことは,EFTAの域外先進国からの輸入が先進一次産品国のほかは,いずれも増勢をいちじるしく弱めたのと比較して対照的である。
第3に西欧,北米間貿易が60年代にはいって増勢をかなり弱めたことである。すなわち,ことはEEC,EFTAの北米向け輸出および北米のEF TA向け輸出の伸びがいずれもいちじるしく鈍化を示している。とから明らかである。しかしここで注目されることは,こうした西欧,北米間貿易の増勢鈍化のなかで,北米のEEC向け輸出が著増したことであり,ここにもEECを中心に先進国間貿易が進展している姿がよみとれる。また,北米地域内部の貿易が60年代に急増した半面で,西欧の北米向け輸出が増勢の鈍化をみたのは,北米市場におけるアメリカの競争力が強まったことを物語るものであろう。
第4には,西欧,北米以外では日本の地位の上昇と先進一次産品国の低下傾向をあげることができる。すなわち,先進国間貿易(輸入)に占める日本の比重は60年の3.8%から64年には4.2%へと高まったのに対して先進一次産品国は6.2%から5.6%へと低下を示した。これを伸び率でみると,日本は北米でやや伸び悩んだほかはいずれの地域でも増勢を急速に高めており,とくに対西欧貿易では輸出,輸入ともEEC,EFTAの域内貿易の伸び率をはるかに上回った。このことは日本が60年代にはいって世界貿易の拡大にかなりの影響を与えるまでになったことを示すものである。
以上で明らかなように,60年代前半には世界貿易拡大の推進力としての先進国間貿易の役割は一段と増大したが,その過程でEEC,EFTAの域内比重の高まりEFTAのEECへの傾斜など,とくに西欧内部での拡大が顕著であった。同時に北米,日本の対EEC貿易も著増しており,EECの貿易拡大効果がかなりの影響を与えていることがよみとれる。
つぎに,先進国間貿易の進展がその商品構成にどのような変化をもたらしているだろうか。まず,先進国間貿易全体としての一般的特徴をあげると,60年代にはいってすべての商品の増加率が高まったが,とりわけ機械を中心とした重化学工業品の高まりが目立った。さらに地域別に検討すると,つぎのような特徴を指摘することができる。
まず,先進国間貿易の推進力であるEEC,EFTAの域内貿易ではいずれも機械,化学品,その他製品の伸びが他を圧して,その域内比重を高めたことである。またEFTAのEEC向け輸出も機械など重化学工業品でかなりの伸展をみせたのに対して,EECのEFTA向け輸出では食料,原燃料で増勢を高めたものの,機械,化学品,その他製品はいずれも伸び率が大幅に低下したことが注目される。
一方,西欧,北米間貿易をみると,EECの北米向け輸出ではほとんどの商品で増勢が鈍化したが,とくに機械の伸び率は50年代後半の162%から60年代前半の36%へといちじるしい低下を示した。北米のEEC向け輸出では,食料,燃料が著増したほかは機械,化学品,その他製品はいずれも伸び率が半減しており,とくに原料は減少に転じた。
他方,EFTAの北米向け輸出は,機械の減少が目立っているが,化学品,その他製品でかなりの伸びを示したのに対して,北米のEFTA向け輸出では機械をはじめ,化学品,その他製品で伸び悩みをみせた。
以上で指摘した諸点を要約すると,60年代にはいって先進国間貿易は,主として西欧内部,とりわけEEC,EFTAの域内貿易で機械をはじめとする重化学工業品を中心に急速に進展をみせたことである。
このことは,相手市場の輸入地域構成を考慮に入れた地域間の緊密度をあらわす貿易(輸出)結合度指数によってもよみとることができる。第35表にみられるように,EECの輸出結合度指数は域内向けが最高で,EFTAがそれに続いている。また,60年から64年への高まりをみても,もっとも大きいのは域内である。EFTAについても域内結合度の高水準と著増というEECと同様の傾向がみられるが,先進一次産品国との緊密度がかなり高いのはイギリスとの関係を反映したものであろう。また,北米は北米内部と先進一次産品国で高まっているが,EEC,EFTA向けはやや減少している。日本は北米,先進一次産品国で著増しているほかEFTAで増加,EEC向けでは不変となっている。
(2) EEC域内貿易の進展
つぎに,先進国間貿易の中核であり,域内比重を急速に高めているEECの域内貿易の実態と,域外地域に対する影響を検討してみよう。
輸入商品構成では,食料,原料,燃料の低下と軽工業品,重化学工業品の上昇など,貿易構造の重化学工業化の進展がみられるが,EEC貿易の域内比重(輸入)は57年の28.4%から64年には39.7%とかなりの高まりを示した。しかし,この域内比重も,商品別にみるとかなりの相違がみられる。すなわち,域内比重がもっとも高いのは軽工業品(63.0%)であって,それに重化学工業品(50.6%),食料(27.4%),燃料(18.9%),原料(17.8%)と続き,この順位は57年と変っていない。さらに,域内比重の増加率でみると,その順位は,原料(54.8%),食料(39.1%),軽工業品(24.8%),重化学工業品(6.5%),燃料(△3.6%)となっている。このことから,つぎのような一般的特徴を指摘することができる。
第1に,一次産品とりわけ食料が域内比重を急速に高めたのは,EEC結成による域内への貿易転換効果が大きく影響しているとみられることである。
第2に,軽工業品の高まりは,所得水準の上昇に伴う旺盛な消費需要とその多様化が,種々の保護政策と結びついてもたらされたものである。
第3に,重化学工業品が域内比重をほとんど高めていないのは,域外に対しても貿易拡大効果がいちじるしかったことを示すものであろう。
つぎに,60年代にはいって域内比重の上昇テンポを高めた商品をあげると,軽工業品では雑製品をはじめ精密機械,セメントであり,重化学工業品では化学品と機械類である。さらに,機械類のなかでは電気機械と輸送機械で顕著である。一方,域内比重を低下させたものは,一次産品では燃料,軽工業品では非金属鉱物製品,重化学工業品では金属製品と一般機械をあげることができる。また,このようなEEC域内比重の高まりが域外に対してどのような影響を与えたかを商品別に検討してみよう(第50図参照)。
① 食料でもつとも比重の低下をみたのは低開発国であって,アメリカ,イギリスはむしろシェアを高めている。しかし原料ではアメリカ,低開発国ともにシェアの低下が目立っている。また,燃料ではアメリカから低開発国へ輸入先の転換がみられる。
② 軽工業品では,イギリスが繊維と雑製品でシェアの低下がいちじるしく,非金属鉱物製品ではシェアを大幅に高めたのに対して,日本では繊維で僅かに低下したものの,精密機械をはじめかなりの進出をみせている。
⑧ 重化学工業品では,化学品は低開発国,金属品は日本,一般機械と輸送機械はイギリスとアメリカ,電気機械はイギリスがそれぞれシェアの低下を示した。
以上で明らかなように,EECの進展に伴い,域外からの輸入のシェアが低下しているのは概して一次産品と軽工業品であって,重化学工業品についてはEECの対外差別にもかかわらず,その貿易拡大効果によって域外からの輸入比重の低下を小幅にとどめているものとみられる。このことは,EECの域内外において貿易拡大効果が作用していること,とりわけ重化学工業品については先進国間でいわゆる水平分業が進展していることを物語るものであろう。
ところで,60年代にはいってEEC貿易の域内比重が一段と高まったことは前述のとおりであるが,これをもって,ただちに域外からの輸入が抑えられたとみることはできない。もちろん,域外からの輸入が減少ないし停滞をみせている商品については,一般的にみて域内への転換効果の影響を考えることができる。また,域内比重の高まっている軽工業品のなかにも,域外からの輸入がかなり増大しているにもかかわらず,域内の伸びに及ばなかったために,域内比重が高まっているものがある。とくに,重化学工業品については域外からの輸入が著増し,それが域内の伸びを上回っているものさえある。
このようにみるとき,重化学工業品はもとより軽工業品についても,域外とのいわゆる水平分業を通じてEECと域外との貿易が拡大していることがわかる。