昭和41年
年次世界経済報告
昭和41年12月16日
経済企画庁
第5章 世界貿易の構造と特徴
(1) 輸出増加と構造変化
1960年代にはいって,低開発国の輸出は世界貿易の伸びには及ばなかったが,EEC,日本向けを中心に拡大し,60~64年に年平均6%の伸びを示した(この期間中,輸出価格が横ばいのため実質増加率も同様)。これは,50年代後半の2.4%という伸びを大きく上回るもので,国連の「開発の10年」が目標としている経済成長率最低5%の達成に必要な年平均6%(実質)という輸出目標をいちおう維持することができた。しかし,石油輸出国を除くと,他の低開発国の輸出はこの目標を下回った。また,輸出の増加寄与率でみると,60年代にはいってEEC,日本を中心とした先進国市場および低開発国域内市場の比重が増大したが,北米は微増,社会主義国市場の比重は大幅に低下した。
一方,低開発国の輸入の伸びも60年代にはいっていくぶん高まったが,国際収支難による輪入抑制などのため輸出の伸びを下回り,また世界輪入の伸びを大幅に下回った。
第51図の地域別輸入構成からわかることは,低開発国の先進国市場に対する依存度はやや低下,低開発国域内貿易も微落傾向を示したのに対し,社会主義国市場への依存度は比重は小さいが,かなりの高まりをみせたことである。それはとくに,東南アジアおよび中東において顕著で,中国の東南アジア進出および,ソ連・東欧の援助に支えられた輸出の増大を示すものといえよう。
先進国市場への依存度の低下は,主としてEECの比重低下によるもので,北米は横ばい,日本の比重は若干高まった。北米市場の停滞は,低開発諸国の中でも,ラテン・アメリカにおいていちじるしく,東南アジア,アフリカではむしろ比重上昇傾向がみられる。これを相手市場の輸出地域構成を考慮に入れた貿易結合度でみると(第38表),北米の東南アジア,アフリカ市場に対する結合度は,アメリカの援助に支えられて高まり,また西欧と中東,西欧とアフリカ,日本と東南アジアなど,これまで伝統的に結合度が強かった地域間の緊密度はいぜんとして高い。
つぎに輸出入商品構造の面で,主要な特徴をあげると,①食料輸入の増大,②原材料輸出の不振,③燃料輸出の著増,④軽工業品の輸入停滞と輸出の増大といった諸点が指摘される。原材料輸出については,60年代にはいって増勢鈍化が示されるだけでなく,先進国の輸出増加率をも大きく下回った点が注目される(第53図)。
このような原材料輸出の不振は,とくに北米,低開発国向け輸出について目立っており,商品別にみると,鉱物原材料の輸出好調,天然ゴム,繊維原料の輸出不振といった相違がみられる。繊維原料の不振は低開発国における繊維産業の発展により需要が高まり,輸出余力が減退したことが主因であるが,天然ゴムの場合と同様に先進国の合成代替品との競合から需要が減退したものもある(第52図)。これに対して,鉱物原材料,鉱物性燃料のように先進国の需要増によってかなりの増加を示し,一次産品輸出の不振を補うことができた商品もあったが,地域別には輸出伸長の格差はかえって拡大した。
一方,食料輸出については,コーヒーなど嗜好食品は先進国の需要増に支えられて好調であったが,穀物生産は全般的に国内需要の伸びに及ばなかつたばかりか,多くの国で人口増にさえ立遅れ,最近では食料危機に悩む国すらみられるようになった。そのため,大多数の低開発国は止むなく食料の輸入量を増加させ,60年代前半には世界の穀物輸出の増加分の大半を低開発国の輸入で占めるようになった。
なお,原材料の輸出不振の原因は,先進国の需要減退ないし低開発国の輸出余力の減退という面だけではなく,輸出価格の低下という点もかなり影響しているようである。
低開発国の一次産品輸出価格は,60年代にはいって低下テンポは多少弱まったが,そのうち農産原材料価格の下落は大きく,僅かに非鉄金属価格のみが急上昇に転じた。
先進国の一次産品輸出価格が,50年代後半の低下傾向から立ち直って,全般的に上昇傾向を強めたのと大きな違いである(第54図)。
一方,60年代にはいって示される一つの特徴は,軽工業品の輸入停滞と輸出増大である。このような変化は,とくに東南アジアにおいていちじるしい。軽工業品の輸入停滞は,一つには各国の輸入抑制と食料輸入の増加によってもたらされたが,また,低開発国の工業生産が繊維産業および食品工業を中心に急速に拡大して各国の軽工業品の輸入代替を進行させ,自給率が向上したことも大きく影響している。なお,軽工業品の輸出相手市場としては,先進国市場の伸び率が高く,域内市場もまたかなりの増加を示した。東南アジア諸国における輸入代替の進行と輸出への進出状況は第39表に示されている。これでみると,多くの国で,綿織物,合板,紙類などの軽工業品と,セメント,化学肥料,自転車用タイヤなどの自給率が上昇し,また生産に対する輸出比率も高まったが,比較的工業化が進んだインド,台湾では,粗鋼,軽機械などの自給率もかなり高まっている。このように,軽工業品が輸入から輸出に転換するようになり,先進国市場でいちじるしい伸びを示したが,先進国の輸入規制など問題は残っている。現在,国連貿易開発理事会およびOECDなどで,低開発工業品に対する先進国の貿易障害の撤去と特恵の供与について検討が進められている。
(2) 貿易収支の変化と地域格差
低開発国の貿易収支は1960年代にはいってから輸出の拡大および輸入の鈍化によって,その赤字幅は漸次縮小し,63~64年には僅かながら黒字に転じた。しかし地域別にみると,中東およびラテン・アメリカでは,戦後一貫して輸出が輸入を上回り貿易収支が黒字になっているのに対し,東南アジアおよびアフリカでは逆に赤字が続き,とくに東南アジアでは,60年代にはいって構造的な赤字幅の拡大傾向が強まり,これが低開発国全体の赤字を大きくしている(第55図)。しかも60年代にはいって,海外債務の累積により,元本の償還および利子の支払いが,輸出額の20%を超える国も少なくなく,東南アジアを中心とする低開発国の国際収支問題をいっそう困難にしている。
東南アジアの輸出の伸びは,60年代にはいって北米,日本,EECなど先進国市場向けを中心に年平均3.4%と,50年代後半の2.6%を若干上回ったが,低開発地域のなかではもっとも伸び率が低かった。一方,輸入の伸びは援助輸入もあって中東に次いで高く,このような輸出入増加率のいちじるしい相異によって,貿易収支のギャップは拡大した。東南アジアの輸出増加テンポが他の低開発地域に比べて相対的に低いのは,主として輸出商品構造によって規定されているようである。低開発諸国の輸出商品構造は,基本的には一次産品にいちじるしく偏っているが,東南アジアおよびアフリカでは,一次産品のなかでも国際市況が相対的に不安定な原材料,食料の輸出比重が高く,これに対して中東およびラテン・アメリカでは,需要,価格ともに安定的な燃料(石油)の輸出比重が高い。63~64年にはいって,アフリカの輸出が大幅な拡大をみせたのは,一つには,燃料輸出の増大によるものである。
また,原材料,食料のなかでも,東南アジアの主要輸出品は天然ゴム,綿花,ジュート,油脂原料,茶など60年代にはいって国際市況が停滞気味な農産原材料および嗜好食品に偏っているのに対し,アフリカ,ラテン・アメリカでは,鉱物原材料およびコーヒーなど国際市況が比較的に明るい商品の輸出比重が高いという相違がみられる。一方,60年代にはいって東南アジアの輸入の伸びは,他の低開発地域の伸びを大きく上回ったが,商品別にみると,工業品の伸びが相対的に大きく,そのなかでも機械鉄鋼,非鉄金属品などの輸入が大きく増加した。これは,東南アジアにおける工業化の進展と輸入商品構造の変化を示すものといえよう(第56図)。