昭和41年

年次世界経済報告

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第2章 1960年代における先進国の経済成長

3. 経済成長下の就業構造変化

労働生産性(就業者1人あたり国民総生産)の伸びを主要国について見ると(第18表),西ドイツとフランスでは1960年代にはいってやや低下したもの,アメリカ,イギリスおよびイタリアでは上昇している。とくに,アメリカとイタリアの生産性上昇がいちじるしいが,前者では60年代始めにかなりの過剰設備があったため,操業度の上昇による生産性向上という一時的な要因があったし,後者では高成長下における就業人口の減少という事情があったことを考慮する必要があろう。

なお,一部の西欧諸国における生産性の上昇鈍化の一因が労働時間の短給にもあったことは,たとえば西ドイツの場合,就業者1人あたり生産性の上昇率が60~65年間に4.1%であったのに対して,時間当りでは5%に達していたことからも明らかであろう。

部門別の生産性の動きをみると,ほとんどの国で工業部門の生産性上昇率は大きいが,農業の生産性上昇率が工業に劣らず大幅であったのは,機械化などの進展のほか,農業人口の減少によるものである。これに対して,サービス部門の生産性の上昇率は概して低い。

国民経済全体としての生産性の上昇は,このような部門別の生産性の変化のほかに,各部門のシェアの変化からも影響される。すなわち,各部門の生産性の上昇率がかりに不変だとしても,高生産性部門のシェアが高まれば,それだけで経済全体としての生産性は上昇する。生産性の水準は概して農業よりも工業およびサービス部門のほうが高いから,後者の比重が高まれば,それだけ経済全体としての生産性も高まってくる。実際また,戦後の先進諸国の経済成長がそのような構造変化を通じて行なわれてきたことは,就業構造の変化を示した第19表からも明らかであろう。ほとんどの国で農業就業者のシェア低下と,2次,3次産業のシェア上昇という共通的現象がみられる。

いま,54年から64年にかけての農業就業者の減少数を非農業雇用の増加数と対比してみると(第20表),どの国でも農業就業者が減少しているが,とりわけイタリアでは38%も減少しており,これはこの期間における非農業雇用増加数の79%に相当する。フランスでも54~64年間に農業就業者が30%減少したが,これはこの間における非農業雇用増加分の74%に相当する。西ドイツでも農業就業者の減少幅はフランスと同じく30%であったが,非農業雇用増加数に対する比率では24%にすぎなかった。これは,西ドイツでは初期に大量の失業者を抱えていたこと,多数の東独難民の流入や外国人労働力の移入があったためである。なお,日本の農業就業者の減少率は24%,また農業就業者減少数の非農業雇用増加率に対する比率は35%となっている。他方,イギリスの農業就業者も18%減となったが,農業就業者の相対的な水準が最初から低いために,非農業雇用の増加に対する寄与率としては僅か10%にすぎなかった。

このような農業就業者の減少によって各国の就業構造も大きく変化し,就業者総数に占める農業就業者の割合は54~64年間にイタリアでは42.5%から23.9%へ,フランスでは27.9%から19.0%へ,西ドイツ19.7%から11.6%ヘアメリカでも11.5%から8.2%(63年)へ低下したが,イギリスでは5.0%から3.8%への低下にとどまった。また,日本の場合は40.6%から26.8%へと低下しており,ほぼイタリアと似た動きを示している。

農業就業者の割合のもっとも低いイギリスの5%前後と比較すれば,イタリア,フランス,西ドイツなどは農業から非農業へ労働力を吸収する余地がまだかなりにあるわけだし,実際また非農業部門における労働力不足は今後とも農業から労働力流出を促進するであろう。

以上のように,農業から非農業へと,生産性の低い部門から高い部門へ向って労働力の流動性が高まったことは,欧米諸国に共通して高い経済成長を可能にする要因となった。今後の経済成長が高いためには,生産性の高い産業への労働力移動が円滑に行なわれることが重要な条件であるが,OECDの専門家グループの報告書「農業と経済成長」によれば,農業と非農業間の所得格差を縮め,あるいは格差拡大を防ぐためにも,農業から非農業への労働力の構造転換が進む必要があるとしている。そしてそのためには,農業経営規模の拡大により,農業生産性がより高まることが必要である(第21表参照)。


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