昭和41年
年次世界経済報告
昭和41年12月16日
経済企画庁
第1章 1966年の世界経済の動向
(1) アメリカの好況に支えられた世界貿易
1965年から66年にかけて世界貿易は,世界景気の上昇に伴って順調な拡大を示した。世界貿易を輸入需要という面でみると,65年は8.9%増(社会主義国を除く)で,64年の12.2%より増勢は鈍化したが従来の伸びに比べるとかなり高かった。また,66年にはいってからもいぜん好調を持続し,上期は首年同期比10.6%増となり,65年の伸びをさらに上回る拡大を示した。これを四半期別(季節調整済み)にみても,65年から66年前半にかけてコンスタントに伸びている。なお,66年第2・四半期の輸入は前期に比べ伸び悩みを示したが,これは主として景気鎮静化にあるイギリスと西ドイツの輸入減少によるものであった。
世界貿易拡大の基軸となったのは,従来と同じく工業国であった。工業国は65年の輸出9.6%増,輸入8.9%増から66年上期の11.6%増,11.3%増へと大幅に伸びた。これを地域別にみると,輸出では65年に北米の増勢が大幅に鈍化したのに対して,日本は急増,またEECもイタリアを中心として高い伸びを維持した。また66年上期は,EEC,EFTA,日本とも増勢が鈍化したが,北米のみは急伸した。しかし北米の場合は,比較基準時点である65年上期に大規模な港湾スト(1~3月)があって,アメリカの輸出が著減したことを考慮する必要がある。一方輪入も,65年8.9%増,66年上期11.3%と増勢が強まったが,もっとも大幅に伸びたのは好況下の北米であって,とくに66年上期は工業国全体の伸びの約2倍という高率を示した。また,66年上期はその他の地域もかなり伸びたが,景気回復にはいった日本や,フランス,イタリアを中心とするEECの増勢の強まりが目立った。
工業国の貿易拡大に伴って,低開発国の輸出も工業国向けを中心として65年の6.0%増から66年上期の8.7%増へと増勢を強めたが,一方輸入は,6.1%増から5.2%増へと鈍化した。低開発国の貿易は,一次産品価格が上昇した64年に,近年になく大幅に伸びたが,66年上期の輸出は一次産品価格が軟化したにもかかわらず64年にかなり近い伸びを示した。これに対して低開発国の輸入は,はかばかしい伸びを示さなかった。そのため,63年以降縮小傾向にあった貿易収支の赤字幅は66年上期にはさらに改善され,小幅ながら約10年ぶりに黒字となった。
また社会主義国の貿易は,輸出は64年の8.1%増から65年の6.9%増へ,また輸入は10.8%増から7.2%増へと,とくに輸入の増勢鈍化が目立った。これは主としてソ連の輸入鈍化によるもので,(11.1→4.2%増),中国の輸入は急増した(13.4→29.8%増)。また域内,域外に分けてみると,域内貿易は引き続き低調で65年は4.6%増にとどまったが,域外貿易は輸出では対先進国12.2%増,対低開発国10.6%といずれも好調であった。そのため,60年代にはいって続いている域内貿易の比重低下は65年には一段と強まり(60年72.0%,65年63.8%),半面,東西間の貿易は一層の進展をみせた。
つぎにこれを,主要国の輸入動向を中心にして検討してみよう。
65~66年の世界貿易の拡大にもっとも大きく寄与したのはアメリカであった。アメリカの輸入は65年初めから急増に転じたが,これを伸び率でみると64年9.1%,65年14.3%,66年上期21.4%と,増加テンポは一段と高まっている。これは,アメリカ経済の高成長を反映したものであるが,65年後半からのベトナム軍需の拡大は輸入需要の増大に拍車をかけた。
第26図は,アメリカの地域別輸入変動を示したものであるが,65~66年の輸入急増相手国は,日本や西欧諸国などの広範囲にわたり,また,低開発国,とくに東南アジアからの輸入は増大した。
一方,イギリスは,64年秋のポンド危機以来,輸入は増勢鈍化を続け65年はわずか1.2%増にとどまった。また66年にはいると景気はしだいに停滞的様相を深め,第2・四半期の輸入水準は前期を下回るにいたった。また,従来アメリカと並んで好調な景気拡大を続けてきた西ドイツの輸入は65年の19.6%増から66年上期は7.9%増と増勢はいちじるしく鈍化した。
一方,これと対照的な動きをしているのがフランスとイタリアである。この両国は順調な景気上昇を反映して輸入の増勢も強まり,フランスは65年の2.7%増から66年上期の15.5%増へ,またイタリアは65年の1.3%増から66年上期の18.4%増へと著増した。また日本は,65年の2.9%増から66年上期は11.8%増となった。
このように,65~66年の両年を通じて世界貿易の拡大を需要面から支えたのはアメリカであり,また66年にはいってからはフランス,イタリア,日本などがこれに加わっている。
これを世界輸入の増加に占める各国の寄与率でみると,第27図の通りである。
65年の世界貿易の拡大に大きく寄与したのは,アメリカと西ドイツでありこの両国だけで,世界輸入増加の40.5%を占めた。また,カナダも好況による輸入増大によって8.2%というかなりの寄与率を示した。66年にはいると,アメリカの寄与率は一段と高まり,65年の20.4%から66年上期の26.2%へと上昇した。
またカナダも,輸入の引き続く増大から,65年とほぼ同じ寄与率を維持している(8.3%)。さらに,65年には輸入微増にとどまったフランス,イタリア,日本は,66年上期は景気回復を反映して寄与率も増大し,この3ヵ国の寄与率合計は21.8%という大きなものとなった。これに対して西ドイツの寄与率は,65年の20.1%から66年上期は7.4%へと大幅に減少した。したがって,66年にはいってからの西ドイツの輸入増勢鈍化は,上記の3ヵ国の景気,上昇によって十分補なわれたわけである。
また,低開発国の輸入の伸びは前述したように,66年にはいってさらに鈍化したため,寄与率も65年の14.8%から66年上期の10.3%に低下したが,反対に輸出のほうは増勢の高まりによって15.6%から17.6%へと上昇した。
なお,ベトナム戦争が世界貿易にどの程度の影響を与えたかの全体的な輪郭は判然としないが,ベトナム戦争がエスカレーション段階にはいった65年後半からアメリカの輸入が急増し始めたこと,東南アジアのかなりの国の輸出が同時期から増勢を強めたことなどから考えると,ベトナム戦争が66年の世界貿易の持続的拡大に少なからず作用したとみられる。
ベトナム戦争は軍事費規模そのものとしては朝鮮動乱に匹敵するものではないし,また朝鮮動乱ブームが軍需物資の大量買付によって広汎に世界の商品相場を高騰させたのに比較しても,ベトナム戦争が現在の世界商品相場に与えている影響は少ない。しかし,今回はアメリカ経済が全般的に供給力の
限界に近づきつつあるときに,戦局拡大が行なわれたために,前述のようにアメリカの66年における輸入増大が目立つにいたった。
ただし,ベトナム・エスカレーションは局部的ではあるが,ベトナム近隣諸国の輸出を増大させている。アメリカのアジアにおける戦費支払は,65年第2・四半期から66年第2・四半期にかけて約2倍にふえているが,このほか最近の南ベトナムでは,ドル流入が増大しているため,政府の民需買付も可能となり,韓国,ホンコン,台湾などの近隣諸国や西欧からの輸入が急速に増大している。また,さきにもふれたように,タイなどにおいては,ベトナム関係の貿易外収入が増加している。
さいごに,最近の貿易物価の動きをみよう。工業国の輸出物価は63年以降緩やかな上昇傾向を続けているが,輸入物価は強含みながら横ばいに推移している。また,低開発国の輸出物価ば63~64年にかけてそれまでの下落傾向からいちじるしく回復し,低開発国の貿易収支改善に大きく寄与したが,65年にはいると再び軟化し,66年にはほぼ保合い状態に推移している。これに対して,輸入物価は63年以来ジリ高を続けている結果,低開発国の交易条件は低下している。
(2) 国際環境に恵まれた日本の輸出
世界経済の拡大を反映して,日本の輸出は大幅に伸長した。1965年の日本の輸出は26.7%(通関ベース)という著増ぶりを示したが,65年の世界輸入の伸び輸は8.9%であったから,日本はこれを3倍も上回ったことになる。66年上期は前年同期比12.9%増で,65年に比べると増加テンポは落ちたけれども,65年の水準がきわめて高かったことを考えると,66年上期の拡大基調もかなり強いものであったといえよう。このような日本の輸出急増は,不況期における国内需要の減退を大幅に補ない,景気回復と上昇の促進に大きな役割を果した。
65~66年の輸出増大をもたらしたものとしては,近年における日本の国際競争力の強化や,内需不振による輸出圧力の増大といった国内的要因もあったが,とりわけ,日本をとりまく海外環境がきわめて好調であったことをあげなくてはならない。ちなみに,65年度の輸出増加要因を計数的に示すと,海外需要80%,価格競争力14%,輸出圧力6%(41年度経済白書による)と推定されている。
海外要因のなかでもっとも大きかったものは,わが国の最大市場であるアメリカの景気拡大である。前述したように,アメリカの輸入は65~66年に近年にない急増を示したが,その中にあって日本の対米輸出の伸びは64年の2252%から65年には34.6%へと急伸し,66年上期においても,23.9%(前年同期比)という高率を維持している。これを寄与率でみると,65年の36%から66年上期の52%と高まり,輸出増加額の半分は対米輸出で占められた。その結果,輸出の比重も66年上期には31%となり,戦後始めて3割台を超えた(64年を除く)。また,アメリカと並んできわめて息の長い景気上昇を続けているカナダ向けも,65~66年は大幅な増加を示した。
また西欧市場をみると,好況下のEEC向けがとくに好調で,65年32.8%増,66年上期26.8%増と,両年にわたって急増している。そのうち,65年は当時景気過熱下にあった西ドイツ向けが著増し,その結果,日本にとって西ドイツは西欧諸国中従来のイギリスを抜いて第1位の市場となった。また,オランダ向けも急伸し,さらに66年にはいってからは,順調な景気上昇を続けているイタリア,フランス向けも伸長している。これに対して,EFTA向けは64年に急増したあと,65年は16.1%増と大幅に鈍化し,さらに66年上期は8.0%増とさらに増勢が弱まった。
一方,アメリカにつぐ輸出市場である東南アジア向けは,同地域自体の輸入需要がかなり鈍化しているにもかかわらず,65年には23.2%という大幅な増加を示した。また66年上期は11.0%増にとどまったが,過去の平均増加率に比べるとなおそれを上回るテンポである。国別には,南ベトナム,台湾,韓国などが両年にわたって著増しているのが目立っている。また,社会主義国向けも東西貿易の拡大を反映していぜんとして好調で,65年23.8%,66年上期35.3%という伸びを示した。これは主として中国が著増しているためで,従来大きく拡大してきたソ連は65~66年は伸び悩んだ。
このように,65~66年の日本の輸出はきわめて好調であった。これは,アメリカを始めとする世界貿易の拡大に大きく支えられたものであるが,日本の輸出は工業国,非工業国ともかなり広範囲な地域にわたって伸長した。
一方輸入をみると,65年は経済活動の不振を反映して僅か2.9%増にとどまったが,66年にはいると景気回復の進行に伴って輸入も原材料を中心として増勢を強め,上期には11.8%増となった。
これを地域別にみると,65年は先進国からの輸入が3.2%減となったのに対して,低開発国からのそれは逆に9.0%増となり,不況の影響は従来と同じくもっぱら西欧工業国からの輪入減少(10.6%減)という形で現われた。また,66年上期は先進国10.0%増,低開発国12.0%増となり,両地域からの輸入はともに増大したが,東南アジアからの輸入はこの両年にわたってかなり伸びた。日本の輸入総額の2割近くは東南アジアで占められているが,近年の日本の東南アジアからの輸入が不況期にも好況期にも増大を続けていることは,東南アジアの輸出の安定的拡大と,その持続的な経済開発に貢献しているといえよう。
このように,輸出の好調,輸入の停滞からわが国の貿易収支は,65年に19億ドル,さらに66年1~9月も15億ドルという巨額の黒字を記録した。そしてこの貿易収支の黒字は,従来から続いている貿易外収支の悪化と,ドル防衛や欧米の高金利などに起因する,資本収支の大幅な赤字を十分に埋め合わせ,国際収支の改善に大きく役立った。