昭和41年

年次世界経済報告

昭和41年12月16日

経済企画庁


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第1章 1966年の世界経済の動向

4. 世界経済の今後の見通し

1967年の世界経済の動きを見渡そうとするときに,もっとも注目されるのはアメリカ景気の成り行きである。

ベトナム戦争の帰趨はいぜん最大の不確定要因であって,アメリカ景気の将来への判断をいちじるしく困難にしている。ベトナム戦の性格からして,朝鮮動乱の時のような終結の仕方をする可能性は少ないようであるが,もしかりに戦争が早期に終結するとすれば,65年秋以来の国防費の増大が急テンポだっただけに,経済界に与える影響が大きいであろうことは否定できない。しかしながらその場合にも,政府は減税や非軍事財政支出の増大,金融緩和政策などの併用によってその影響を吸収し,景気後退を回避できるとみているようである。とくに「偉大な社会」建設計画が大々的に実施されれば,都市再開発,大気および河川清浄化,諸種の救貧対策など,これまでのベトナム軍事支出にとって代わるだけの建設需要は潜在的にかなり大きいはずである。ベトナム問題を別としても,67年のアメリカの経済成長率は近年のそれよりも(65年5.8%,66年5.5%)かなり鈍化しそうである。67年の政府の経済成長目標は4%程度であるが,これは完全雇用下の経済が過熱を回避するには成長率を落とす必要があると考えているためで,今後インフレ高進の可能性が増大すれば増税などの配慮も加わってくるであろう。一方,民間の一部には先行きの消費者購買意欲や企業の投資意欲の減退によって,需要面から景気の後退を懸念する向きもあらわれている。いずれにしても,アメリカ景気は微妙な段階にさしかかっており,政策のかじの取り方もそれだけ難しくなってきたとみられる。

第7表 主要国の経済成長率見通し

つぎに,西ヨーロッパであるが,ここでは主要国の情勢はまちまちである。まずイギリス経済は,ポンド危機克服策の推進下で,景気停滞,成長率低下の様相を濃くしているが,体質改善の困難さからいっても,今度の調整過程は従来よりも長びきそうである。しかし他方EECでは,フランス,イタリアは66年に引き続き順調な拡大過程をたどり,成長率も66年より若干高まるものとみられる。

西ドイツ経済の現状は,金融引締めによる経済安定化が進みつつある半面,デフレ圧力が強まっているが,今後の経済政策が引締めの緩和によって,より成長に力を注いでいくようになれば,67年中に景気の回復が可能であろう。一方,オランダは景気過熱化によって成長率を落さざるをえないようであるから,67年のEEC諸国全体としては,66年(4.5%)とほぼ同程度の経済成長率で推移するものとみられている。

東南アジアのうち,わが国の近隣諸国は,66年中の輸出好調と外貨準備高の増加などから67年にも着実な経済開発が続きそうであるが,イギリスの停滞の影響をうけやすいスターリング地域の諸国は,マイナスの影響を免れまい。

世界経済の日本経済に与える影響のいかんは,日本の輸出の比重が大きな国の成長力が高まるか否かによって異なってくる。67年のアメリカ経済の成長率の鈍化が,対アメリカ輸出依存度のとくに大きなわが国にとって,66年よりも環境のきびしさを増すことは考えておかねばならない。

以上において,ここ1年間を中心とした世界経済の動向を考察したが,そこで明らかにされたいくつかの特徴や問題点の背景には構造的な要因が作用しているので,第2章以下においてはこれらの問題をやや長期的な観点から検討することにする。

まず第2章では,60年代にはいってからの欧米先進国は,50年代よりも成長率を高めているが,その成長力をとりまく諸要因とその変化を検討する。

また第3章では,現在の欧米諸国が直面している物価上昇の特徴と物価政策について検討し,第4章では近年の国際資本移動の特徴を明らかにし,とくに西欧市場におけるアメリカ企業の進出の問題を中心に考察する。ついで第5章では,近年の世界貿易の拡大を先進国間貿易,低開発国貿易,東西貿易にわけて検討する。さいごに第6章では,とくに東南アジア経済問題を取りあげ,その開発の現状を食糧生産,援助および貿易面から明らかにすることにする。


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