昭和39年

年次世界経済報告

昭和40年1月19日

経済企画庁


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第2部 各  論

第2章 西ヨーロッパ

4. フランス

(1)安定計画の登場とその背景

フランス経済は,1959年から62年にかけて,かなり安定的で高い成長をとげた。すなわち,59年3.9%,60年7.4%,61年4.3%という成長を達成したが,この間の物価(GDPデフレーター)騰貴は,60年3%,61年2.8%程度にとどまり,58年末10億ドルにすぎなかった金外貨準備も,61年末には3倍余の34億ドルに増大した。50年代,とくにその後半に,インフレの進行と国際収支危機を経たばかりのフランスにとって,このような成果は,58年末の為替切下げの効果が多大にあったとはいえ,かなりめざましいものだったといってよい。

この成果のうえに,フランス政府は61年末,意欲的な第4次経済社会発展計画(62~65年)を打ち出した。この計画は年平均成長率を5.5%とし,各階層の所得および地域経済の均衡ある発展,社会的投資および民間投資の増加による生活条件の改善と国際競争力の強化などの諸目標を,通貨価値の安定,国際収支の均衡維持と両立させようというのである。

しかし62年央を境に,フランス経済はいくつかの変調を呈しはじめた。物価と賃金の高騰,貿易収支の悪化,民間設備投資の停滞化などがそれであり,事態は,63年にはいっていっそうの悪化をみた。すなわち,労働力不足を背景にした大幅な賃金増大と,62年にはじまったアルジェリア引揚げによる消費人口増,および政府消費の増大とが強い需要圧力を生み,これが,他面での企業における賃金コストの上昇と相まって著しい物価騰貴を招き,また旺盛な需要からする輸入の急増をみた。物価騰貴の原因には,このほか農民所得の向上のための農産物価格の引上げ,公共料金,家賃の引上げなどがあり,さらに62~63年冬の寒波が農産物価格の高騰を招くという悪条件が重なった。

その結果,61年に2.8%であった物価騰貴は,62年4.1%,63年4.9%と尻上りにテンポを高め,しかも,消費者物価のみならず,卸売物価も高い騰貴率を示すにいたった。またこれにつれて,62年後半から赤字に転じた貿易収支(輸出fob,輸入cif)も,63年にはいっていっそう赤字幅の拡大をみるにいたった。

こうしたインフレの進行に対して,フランス政府は63年春以降,軽い金融引締めに転じたが,事態がいっそう深刻化したため,同年9月から11月にかけて,「安定計画」とよばれる一連の価格安定政策,すなわち,経済引締め政策を断行するにいたった。この安定計画は,金融・財政・物価・賃金・雇用・関税・流通機構・資本市場・土地投機など,経済のほとんどすべての部面にわたる,包括的でかなり強力な物価安定措置であり,そこにフランス経済がもつインフレ問題の複雑さと特殊性がみられ,またフランス政府のインフレ克服への熱意がうかがわれるが,とりわけこれは,つぎの4点で注目をひく政策であった(同計画の詳細については昨年度本報告146~152ページを参照されたい)。

第一は,物価面への直接的な政府の介入が行なわれたことである。工業品(食品および一部農産物を含む)生産者価格の全面的な凍結,輸入業者および食料小売商の利幅の凍結措置がそれである。そのほか,公共料金および公定料金の引上げ停止ないしは延期,一部消費財,原料の関税引下げなどの措置もとられた。

第二に,公共部門の賃金アップに年率4%の枠を設け,民間部門賃金への範とするとともに,所得政策導入のための準備を開始した。アルジェリアからの78万人にのぼる引揚げや,兵役期間の短縮などによる労働人口増にもかかわらず,なお逼迫していた労働力不足を背景にした大幅な賃金上昇が,需要,コスト両面でインフレの主因であると考えられたためである。

第三に,金融・財政面での引締め政策がとられたけれども,比較的にゆるやかな引締めにとどまったことである。金融面では,銀行の貸出し制限,消費者月賦信用の抑制,公定歩合と特別準備率の引上げなどが行なわれ,財攻面では予算赤字の削減,歳出の抑制と弾力的運用といった方針が打ち出された。しかし,その銀行貸出し増加枠は年間10%程度の制限にとどまり,64年予算も,対前年歳出増加10.6%(63年予算10.3%),予算赤字47億フラン(63年予算70億フラン)と,前年よりやや緊縮的であったとはいえ,かなり膨張的な予算であった。また,金融・財政両政策を通じて設備投資資金,輸出金融については,むしろ誘導,確保の方策がとられた。

第四に,より長期的な意味での物価安定策,あるいは経済の体質改善があわせ考慮されていることも特徴のーつである。予算赤字を削減する方針も,戦後引き続き赤字を出してきたフランス財政を,次第に均衡させていこうという長期的な考え方にに立ったものであり,資本市場振興策や所得政策導入の意向も,当面の物価問題というより,長期的な展望のもとにフランス経済の体質改善,国際競争力の強化を図ろうとする趣旨であって,フランス政府は安定計画の永続的性格を強調している。

この安定計画は,64年にはいっても部分的な補足措置をつけ加えつつ,基本的な性格を変えることなく続行されている。当初予算では赤字を見込んでいたのに,支出の削減で実際の赤字が年度間ではほとんどなくなる見込みだという点では,(当初予算47.3億フランの赤字が8億フラン程度に圧縮される)引締めの度合は次第に強まっているとさえいえる。

(2)安定計画下のフランス経済

1)概  況

1963年秋以降,この1年間のフランス経済の動きをひと口でいえば,経済引締めのゆるやかな浸透過程といえる。

物価は,63年末から64年初にかけて早くも落着きを示すにいたり,64年1~6月の生計費の騰貴は年率1.9%で,93年上期の年率4.8%,あるいは62年上期の5.8%にくらべ,著しく騰勢が鈍化した。卸売物価も,63年末をピークに弱含み横ばいとなった。もっとも9月以降消費者物価はやや上昇テンポを高めており,インフレ傾向の根強さを物語っている。

第2-25表 フランスの国民経済計算の変化,

ついで,工業生産も次第に鈍化の度を強め,5月以降はほぼ横ばいにはいった。設備財工業の引き続く不振に加えて,1963年まで工業生産拡大の主役であった消費財産業が,生産の鈍化ないしは停滞をみせるにいたったからである。消費財部門のなかでは,とくに自動車,テレビなど耐久消費財の生産不振,ついでは繊維工業の不振がめだった。これに対し,鉄鋼,化学,建設資材などの基礎財工業は好調で,工業生産の低下を防いだ。

生産活動の鈍化につれて労働力不足もやや緩和をみせたが,これには,スペインなどからの外国人労働者の流入,国内新規労働力の増大などによる供給増大もかなり働いている。もっとも,熟練労働者の不足にはまだ著しいものがある。しかし,この経済活動の鈍化も賃金上昇には影響を与え,るにいたらず,民間賃金は,少なくとも夏までは年率7~8%の騰貴を続け,年率4%の枠におさえられている公共部門の賃金との格差が開く結果となった。

対外面では,貿易収支が安定計画実施後も悪化を続けたが,5,6月以降,やや改善のきざしがあらわれ,10月にいたってほぼ均衡を回復した。

62年央以来急増を続けてきた輸入がようやく頭打ちとなったうえに,輸出が好調を持続しているためである。

このように安定計画は次第にフランス経済を鎮静化させてきているが,64年の国内総生産は,設備投資の不振と個人消費の鈍化にもかかわらず農業の豊作と建築の活況に支えられて,前年比実質5%強の増大となるものと推測されており,52年,58年の過去2回の経済引締めの場合のような経済成長の鈍化ないし停滞はみられない。

第2-26表 フランスの主要経済指標の推移

(2)個人消費

個人所得は依然として高い増加率を保っているが,その支出内容は,端的にいえば,自動車から住宅へと比重を移しつつあるとみられる。

名目個人所得は,1964年も63年に続き増勢の鈍化をみせているが,実質でみた場合には,増加テンポは,なおかなり高い。アルジェリアからの引揚者,およびそれに伴う政府補助の増大という62,63年の特殊事情はなくなったが,賃金が民間部門を中心に大福に上昇しているうえに,64年は豊作ということもあって,個人業主所得も前年以上の伸びを示している。社会保障給付の増加率もかなり大きい。

こうした所得増を背景に,個人消費は62,63年と急増し,インフレの一因となったが,64年にはいり消費の増加テンポは次第に鈍化するにいたっている。アルジェリアからの引揚者の流入ということがあって,消費性向が1以上にも高まった63年にも,1人当りの個人消費は,すでに62年にくらべて鈍化していたが,消費の鈍化は安定計画実施以降いっそう強まったようである。この鈍化にとくに大きな役割を果たしているのは,自動車の購入で,60年以降尻上りの活況をみせた自動車ブームも,62年をピークに下火になりはじめた。新車の登録台数をとってみると,62年の28.7%増に対して,63年は9.3%増にとどまり,安定計画発足後はいっそうの鈍化をみている。INSEEの消費者購入意向調査によれば,64年下期の新車購入は,数年来はじめて前年水準を下回りそうである。数年にわたるブームで,車齢構成が若くなり,自動車保有世帯数もかなり高い水準まできたといった事情のうえに,安定計画による消費者信用の制限(自動車,テレビの賦払信用の頭金引上げと期間短縮)が,自動車購入にブレーキをかけたものとみられる。こうした国内需要の鈍化に外国車の輸入増加と輸出不振が加わって,昨年まで工業生産拡大の中核となっていた自動車工業も,63年末以来次第に不振の度を強め(64年1~10月の生産台数5.5%減,外車輸入14%増,輸出8.6%減),64年夏には,ルノー公団をはじめとして操業時間短縮,雇用契約の不更新などを行なう企業が現われた。この自動車工業に続き繊維工業にも不況色が強まっている。なお,家庭電気器具もテレ冷蔵庫などは需要の鈍化が61年頃からみられている。

このような消費の鈍化の反面,家計の住宅建築および購入が63年にはいって増加しはじめ,64年の家計勘定の投資(主に住宅)は対前年比実質10%増(見込み)と著増している。この住宅ブームには,自動車のつぎに住宅という消費態度の変化のほか,アルジェリア引揚者の住宅需要も働いているが,さらに,62年以来の住宅金融の政策的強化も影響している。その理由はともあれ,建築業は64年の工業生産の拡大を支える主因の一つとなった。

第2-27表 1960-94年の家計勘定の変化

3)設備投資

1961年をピークに鈍化してきた企業の設備投資は,水準はなおかなり高いとはいえ63,64年と停滞傾向をいっそう強めている。なかでも,第2-28表にうかがえるように,民間企業の生産的投資は,61年の14.7%増から62年9.7%,63年2.8%増へと伸び率の鈍化が著しいが,これに対して,民間企業の約半分の投資規模をもつ公共企業の投資が63年から急増して,民間企業の投資の停滞を補う役割を果たしているため,国内総生産に占める企業投資のウェイトは,61年以降もさしたる低下を示していない。

64年の民間企業の投資は,政府見通しによれば対前年比率約3%増の予想である。しかし投資規模が63年を上回るとしても,それは基礎財産業,とくに昨年はほとんどなきに等しかった鉄鋼業における投資の回復による,ところが大きく,加工工業の投資は慨して前年の水準を下回る模様である。

第2-28表 企業の粗資本形成

このような民間企業投資の62年来の停滞傾向は,そうでなくとも,もともとあまり強くないフランスの国際競争力を弱めるものとして,産業界,政府の心痛の種となっているが,投資停滞の原因は次の二つにあるとみられる。その一つは,賃金コストその他のコスト上昇圧力からくる利幅の低,下である。61年以降企業利潤は生産の増大にくらべてごく微弱な増加しか,していない。第2-29表にみられるように,民間企業の自己金融比率は年を追って低下しており,企業の自己資金不足を端的に示している。フランスでは,資本市場がなお狭隘であり,それに,企業も外部資金の導入をきらう傾向があるため,自己資金の不足が投資意欲の実現をはばむ度合は大きいといわれる。しかし,いま一つの要因は,十分な供給能力をもつ産業部門もかなりあることである。この設備過剰の程度は正確には分らないがOECDの64年度対仏経済年次審査は,自己資金不足とならべて,この供給能力の十分な存在を投資不振の原因としてきわめて重視している。いずれにしろ,この二つを投資停滞の主因とみてよいが,安定計画後は,生産者価格の凍結のため賃金コスト上昇が利潤に与える圧迫が強くなっているであろうこと,消費需要の鈍化が,水準としてはなお高かった設備投資の稼働と相まって,設備の過剰をいっそうもたらすであろうことを考えると,当面,民間企業投資の回復に大きな期待はできないであろう。政府は投資不足を心配しながら,これといったキメ手になる投資刺激策を見出しえないでいる。

公共企業の設備投資が63年に急増するにいたったのは,パリ交通営団,原子カエネルギー関係,郵便,通信などの資本支出が大幅に増加したためで,企業以外の政府の資本形成を含めて,一般的な性格としては,59年来4の経済拡大に遅れをとるにいたった社会資本投資拡大の動きとみてよい。

この「集団的投資」の拡充が第4次計画における主眼点の一つであることは,すでに指摘しておいたところである。

第2-29表 企業の自己資金比率

4)貿易と国際収支

フランスの貿易バランスは,1962年半ば以降64年春まで悪化の一途をた,どった。63年の輸出は前年比9.9%増と一応順調な増大をみたが,輸入は18.5%も著増した。64年にはいっても,当初は貿易赤字(輸出fob,輸入cif)は拡大し続けた。6月にいたってようやく輸入も頭打ちとなり,10月にいたって漸く貿易収支の一応の均衡回復をみた。

このうちフラン圏内貿易は規模が小さく,伸び率も低いうえに輸出入が最近はほば均衡しているので,こうした貿易のバランス悪化は,もっぱら外国貿易でもたらされたものである。いまフラン圏を除く外国との貿易についてみると,59年に輸出入とも急増して経済拡大の主因の一つとなったあと,60年から62年半ばまでは,輸出入とも大体10%程度のテンポで安定的な増大を示しており,この間バランスは黒字であった。ところが,62年央以降,輸出の増大テンポに変りがなかったにもかかわらず,輸入の増加率が急に25%内外のテンポに高まったため,貿易収支は悪化傾向をたどりはじめたのである。

第2-6図 外国貿易における輸出による輸入のカバー率

62,63年の動きを地域別にみると,輸出ではアメリカを除き好調に推移しているが,アメリカへの輸出は60年以降次第に伸び率が鈍化し,63年には対前年比減少という不振ぶりであった。輸入ではとくに,EFT A,EECという西欧域内からの輸入増加が大きい。商品別にみると,63年の輸出増大を支えたのは,食料を中心とする消費財輸出であったが,輸入は消費財,中間財,設備財,いずれもが大きな増大をみせており,伸び率としては食料を除く耐久・非耐久財のそれが著しい。

第2-30表 フランスの貿易構造

このような貿易収支の悪化については,まず第一に旺盛な国内の需要が輸入急増を招いた点が指摘される。耐久・非耐久消費財輸入の著増は,消費ブームにおける消費の多様化と高度化を端的に示すものである。しかし第二に,他の工業諸国にくらべての高い物価騰貴,またフランス工業のもつ国際競争力の弱さということも輸入急増の原因とされている。58年の為替平価切下げは,フランスに貿易収支の急速な改善をもたらしたが,その効果も4年間位で消滅してしまったわけである。なおこれにはEECの経済統合,貿易の自由化,とくに63年にはインフレ対策としての関税の一方的な一時的引下げといった政策要因の影響があることはいうまでもない。

第2-31表 フランスの貿易構造

以上のような貿易動向により,63年の商品貿易黒字は前年の23.9億フランから5.9億フランへと著減した。商品貿易バランスが赤字に転落せずにすんだのは支払いの時期のずれによるものといわれる。それに,貿易外の経常収支および資本収支はほぼ前年なみの黒字を保ったため,63年のフランスの国際収支は,約14億フランの債務早期返済を行なって,なお34億フランの黒字を残すことができた。64年にはいっても貿易収支のいっそうの悪化にもかかわらず,金外貨準備は増大を続けており,とくに4~7月の増加は著しかったが,これは以前と同様,貿易外経常収支(観光,投資収益)の黒字と資本流入による。もっとも5,6月には,国内の金融逼迫から,一部銀行が外国短資あさりを行なったことも影響しているようだ。

こうしてフランスの国際収支は,貿易収支の赤字にもかかわらず,資本流入などにより黒字を続けており,安定計画に基づく金融引締めを緩和する要因となっている。

第2-32表 フランスの国際収支の動き

(3)1965年度予算と経済見通し

このような最近のフランス経済の動向については,つぎの二点がとりわけ指摘できる。第一に,安定計画は物価の抑制には一応成功したが,賃金騰貴の抑制の面でなお問題を残していること,第二に,安定計画による引締め政策の影響もあって民間消費の鈍化が1962年後半からの投資の停滞に加わり,経済のデフレ的様相が濃くなってきたことである。64年秋に発表されたOE CDの対フランス経済年次審査でも安定計画の半ばの成功を賞賛しながら,他面で,物価安定と完全雇用の両目的が近い将来に矛盾することになるかもしれないと警告している。

さらに,この景気動向を別にしても,安定計画が各階層の所得上昇のアンバランスを強めていることもみのがせない。すでに述べたように,民間部門賃金は,64年にはいっても年率8%前後の増大を続けているが(63年初~64年上期12%)公共部門賃金は年4%の枠でおさえられており,また農民の所得も,農産物生産者価格の据置きのため,63年来非農業の賃金所得の上昇に著しく遅れをとっているからである。こうしたことから,公共部門労働者の賃上げ要求,および農産物価格引上げを求める農業生産者の抵抗が大きくなってきている。これに対してフランス政府は,総論第3章で述べたように,所得政策実施への準備作業を行なっているが,これに対しては労働者の抵抗がなお大きいという問題がある。

そこで,65年度予算の作成が注目されていたが,9月16日閣議決定をみた政府予算案は,64年度にくらべればかなり引締め的なもので,インフレ抑制のため安定計画を続ける方針が確認された。すなわち,歳出額は990億フランで,前年比64億フラン(6.9%)の増加にとどめ(64年10.6%増),物価騰貴分約2.5%を考慮した実質歳出額は65年の国民生産(見通し)4.3%増にほぼ見合う,しかも予算赤字はなくする,というものであった。その他の主要な特徴は,①公共部門の俸給・賃金の年率4%の増加枠をそのまま継続する,②歳出の最重点は投資(10%増)に置く,③減税による企業合併の促進,④所得税の一部軽減,⑤家族および老人への手当と恩給の増額などであり,民間投資の刺激措置および公共料金の引上げの両問題については,65年にはいって別途考慮されることになっている。

65年の経済成長率が4.3%では,第4次計画(年平均5.5%,通算24%)の成長目標は達成されないが,政府は,成長をある程度犠牲にしてもまず安定を,という政策態度を来年も堅持しようとしているわけである。このフランス政府の安定重視への傾斜は,最近決定をみた第5次計画(66~70年)の原案にもみられ,同計画案では,成長率は年平均5%におさえられており,海外貿易の均衡と社会投資に重点を置く反面で,賃金の年増加率は3%程度と見積っており,しかも,労働時間の大きな短縮は行なわれないものとしている。

ともあれ65年のフランス経済は,これまでの経済動向と現在の政策からすれば,部門によりデフレ的様相を呈しながら緩やかな拡大あるいは安定成長ということになろう。政府見通し(第2-25表参照)にもみられるように,工業生産の拡大テンポの鈍化から民間賃金上昇が弱まり,民間消費の増加率は鈍化するであろうし,政府投資は時価で10%程度増大するものの,民間投資は停滞傾向を変えないと思われる。ただ,需要不足に悩む一部産業界の景気刺激措置の要望あるいは公共部門労働者,農民の要求により,安定計画の手直し,ないしは緩和があるかどうかが大きな未確定要因である。


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