昭和38年
年次世界経済報告
昭和38年12月13日
経済企画庁
第1部 総 論
第1章 世界経済のあしどり
(a)生 産
共産圏では,ソ連,東欧の経済成長率は鈍化傾向にあるが,中国(本土)の経済は停滞を脱して緩慢ながら回復に向っている。
① ソ連,東欧はひきつづき成長率鈍化
62年におけるソ連経済の成長率は前年に比べてさらに鈍化した。国民所得の前年比増加率は,60年以来低下傾向をたどった(第6図参照)。63年に入ってからも,重点部門たる化学工業の増産テンポは上昇したものの,この傾向はなおつづいているようである。
ソ連の経済発展における第一の問題は,第6図にみられるような農業生産の不振である。これは主として,増産政策が農地開拓から集約農法へと転換したにもかかわらず,生産資材,とくに肥料の増投が不十分なためである。とくに63年の穀物収穫は冬の寒波と夏の異常乾燥のためきわめて悪く,自由経済圏から1,000万トンをこえる小麦を輸入することになっている。
第二の問題は国防支出の増大である。61年には国防費が約30%も増額され,消費財工業と住宅建設に対する投資は減少した。62年に国防費はさらに13%増加し,63年にも増加がつづいている。
62年には東欧諸国の経済成長も鈍化した。これはおもに農業部門が依然として不振であり,62年の農業生産は天候の影響もあってほとんどすべての国で横ばいないし減少を示したためであるが,工業生産の増加率も東ドイツをのぞき前年より低下した。63年にも穀物が不作で一部の国はソ連と同様西側諸国から食糧を輸入することになっている。
② やや好転した中国(本土)経済
62年における中国(本土)経済は,まず食糧生産を中心として停滞から回復に転じたが,63年上半期においても農業生産の増勢がつづいている。また工業生産も,化学肥料,農薬,農業機械など農業関連産業と,鉄鋼,石炭,石油など基礎産業において増勢がみられる。
農業生産の回復は,主として人民公社制度における集中化の緩和,農業投資の増大,農業技術指導の改善などによるが,天候条件にも比較的めぐまれた。しかし,63年にも前年にひきつづき,500万トン程度の食糧輸入が見込まれている。
以上のように,中国(本土)経済はじよじよに停滞から回復にむかつているが,工業投資の伸びが比較的緩慢なので,回復テンポは緩やかである。
(b)貿 易
62年の共産圏諸国の貿易はつぎの三つの特徴を指摘できる(第7図参照)。
第一にコメコン域内貿易の伸びが,とくに機械,設備を中心として大きいことである。なお,このほどコメコン諸国による国際銀行の設立と多角決済制が採用された。
第二は中国対ソ連,東欧間の貿易の縮小がつづいていることである。これは中ソ対立の影響と思われ,中国の対ソ貿易は62年にはピーク時(59年)の約三分のーに縮小した。とくにソ連の援助が全面的に停止され,資本財のうも,機械,設備の輸入が激減した。鉄鋼についてはすでに自由主義諸国依存の体制をとっており,また自給も進んでいるので比較的問題は少ないが,プラントおよび石油製品については中国の経済の障害になっている。
第三は自由経済圏との貿易がソ連を中心にして増大したことである。もっとも,共産圏全体としての対自由経済圏貿易の伸びは60,61年と圏内貿易の伸びを上回っていたが,62年には圏内貿易の増加率の方が大きかった。
東西貿易の動きを自由経済圏の側からみると,まず,対共産圏貿易の伸びが,自由世界全体の貿易の伸び率を上回っているが,第8図にみられるように,対ソ連,東欧との貿易が拡大しているのに対し,中国(本土)を中心とする対アジア共産圏との貿易は停滞的である。中国(本土)における農業生産不振による一次商品輸出の減少,およびそれにもとづく輸入能力の減退が原因である。
つぎに先進工業国と低開発国別にみると,低開発国の対共産圏貿易の伸長が著しい。これにはソ連をはじめとする共産圏諸国の経済援助政策も大きく影響していると思われる。先進工業国の貿易も拡大をつづけているが,なかでも比較的小規模だった日本の増大がめだつ。その結果日本の貿易全体に占める対共産圏貿易の比重は,西ドイツ,イギリスとほば同水準の4%強となった(第9図参照)。先進国の対共産圏輸出は工業製品が中心であったが,最近は共産圏の食糧生産の不振から,穀物輸出が増大している。
このように,東西貿易は増大傾向にあるが,その理由として,米ソ間の緊張緩和や対共産圏貿易制限の緩和など,東西貿易を促進しうる環境が醸成されつつあること,中ソ対立の激化により,共産圏内貿易が一部東西貿易に転換されつつあること,自由化の進展による国際競争の激化から,共産圏に市場の拡大を求めていること,などをあげることができよう。
欧米諸国の対共産圏貿易の拡大への動きは,最近においても活発である。
イギリスにおける中ソとの人的交流,中国(本土)での見本市の開催,西ドイツにおける共産圏貿易拡大政策の立案,財界人の訪ソ,アメリカ政府において対共産圏貿易の再検討が考慮されようとしていることなどが指摘される。
カナダ,オーストラリアにつづいてアメリカも,ソ連,東欧向け穀物輸出にふみきった。わが国も共産圏との人的交流,見本市の開催をすすめるとともに,中国(本土)に対して,輸出延払いを承認した。このような動きを考えると,東西貿易は今後も増大する可能性が強い。