昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


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第2部 各  論

第1章 アメリカ

3 1961~62年の景気見通し

(1) 好況の持続

61年第2.4半期から回復に向かつたアメリカ景気は,今後1年ぐらいの間は,好況を持続すると考えられる。ただし,回復の初期段階ほど在庫の急速な好転に期待しがたいので,62年いっぱいまでの成長速度はやや鈍化すると思われる。

浮揚要因を時間的にみると,60年第3四半期では在庫がなお45億ドル増(第2四半期では28億ドル増)‐いずれも年率‐で,かなりふえたが,第4四半期以降は在庫からくる浮揚圧力は減退し,代わって,個人消費と政府支出が大きな役割をはたし,工場・設備投資も第3四半期に前期比13億ドル第4四半期11億ドル年率)と増加期待である。

新規建築投資も漸増,個人消費も,しだいに伸びており,景気の好転とともに,しだいに増加速度を増すであろう。また61年後半以降当分の間国防費を中心として政府支出が増大する点も忘れられないが,以上を要因別に示せば,つぎのとおりである。

(2) 財政支出

連邦財政支出最近の推計では61会計年度の815億ドルから62年度の890億ドルに65億ドル増を期待され,地方財政もまた年率30億ドル程度の増加となろう。連邦財政はしだいに赤字を増す方向に動いており,61年7月当時の推定61億ドル(郵便料値上げ実現と仮定すれば,53億ドル赤字)は10月中旬のジロン財務長官の説明による67億51,000万ドルヘ増大,さらに10月下旬予算局長発表では68億8,500万ドルに膨張した。この赤字は前年度の39億ドルにくらべれば,かなり大きい。ところで連邦支出増加要因中とくに注目されるのは連邦の国防支出である。

第1-12表 連邦財政

べルリン問題を契機とする国際緊張は,アメリカの国防費増額となり,平和時としては最高の支出に達しそうである。しかもこの支出は向こう1年間ぐらいは漸増過程をたどると思われる。すなわち61年7月に始まる年度の国防支出は前年の432億ドルから465億ドルヘ33億ドル(約8%)ふえるとみられる。おもな増加項目は第1-13表のとおり給与,手当,兵器購入費,演習,維持費であるが,このうち直接,産業を刺激するのは,兵器購入費である。このなかでも,とくに関連産業の多い兵器,車輛,航空機の前年比購入増は,12億ドル近い。これは鉄鋼,航空機,自動車工業に対する支出をふやすだけでなく,その他の支出と相まって食糧,繊維工業までうるおすことになり,かなりの経済刺激要因となろう。

(3) 金  融

こんごの景気上昇期に向かっては,当然金利騰貴が予想される。短期金利はしばらく横ばいながら,国債利回りは4%を越えた。長期金利はケネディ政策の一環として,今春ごろは,かなりの政府圧力の下に,引き下げられていたが,最近では,その政治圧力も衰えたようである。

だが,目下のところ連邦準備理事会は早急に金融引締めに移る気配はない。

57~58年の景気循環において,回復の途上で余りに早目に金融を引締めた失敗も,今回の金融政策の反省材料となっているからである。

連邦準備当局はなお当分の間は,景気上昇の必要に見合う資金を供給する方向に動いている。今後産業活動の活発化から,たとえ銀行信用需要がふえたとしても,当局はこれを引き締めるよりも,むしろ需要に応ずるだけ銀行の貸出資金をふやす方向に動くと思われる。しかし,もし,ヘラー経済諮問委員長の線に沿う財政支出による経済刺激が,物価騰貴の危険をはらみ出した時にはやがて金融政策を発動し,物価騰貴を抑制すると思わ都る。だが,今後に予想される引締め政策は,高度成長の芽を摘むほど強いものではなかろう。

(4) 設備投資

工場・設備投資は前述のように61年後半については漸増を期待できる。これは商務省・証券取引委員会の共同調査にもとづく推定であるが,62年以降の推定がないので,別個な推定によらなければならない。すなわち,マク・グローヒル社調べによれば,61年第3四半期以降ふえはじめて,61年には353億5,000万ドルで,前年を1%下回るが,62年には358億4,000万ドルで,前年を4%上回り,製造業では145億9,000万ドルで前年7%比増と推定されている。投資増大要因は製品需要の増大と設備の近代化,合理化であるが,その他にも研究,開発投資が加わるからである。とくに近年の設備投資増大要因は近代化投資であり,設備投資総額中に占る近代化投資の割合は,年々ふえており,61年には70%に達する見込みである。コスト節約がその主要な動機となっており,この趨勢はなお,継続するとみるべきである。したがって今後の事業売上げや法人利潤に漸増が期待される限り,設備投資は漸増はするであろう。しかし,投資ブームには,なお間があるとみるべきだろう。

(5) 消費者の態度

景気好転に伴って,消費者の態度は徐々に好転している。最も信頼される最近の消費者購入意図調査は,さる8月にミシガン大学の行なったものであるが,これによると,向こう12カ月間に自動車を買おうとするものは,59年年央よりは少ないにしても,60年8月を上回り,新車購入意図は少なくとも前年同期の10%増,中古車購入意図は不変であった。新築住宅購入希望世帯の割合も前年同期以上であった。家具,電気冷蔵庫,テレビ等の買い気も好転した。

第1-5図 近代化投資の割合

8月といえば,ベルリン問題をめぐる国際緊張が不安な要因を作り出していた時であったにもかかわらず,このように耐久財購入意欲が「はっきり好転した」のは,景気好転,所得の増大,賦払信用残高の減少などの好条件の下に,そろそろ消費者が財布のヒモをゆるめることを思わせる。

なお,60年は77万件であった新世帯形成(1947~50年平均の約半数)が,62年は100万件にかえると予想され,しかも引きつづき増大するとみられることは,今後の耐久消費支出を増大させる有力な要因と考えられる。しかし,現状では消費者信用の増加速度は緩慢であるから,近く耐久消費財ブームを期待するのはまだ時期尚早であろう。

(6) 国際収支

上記〔1の(2)の(3)〕のように国際収支は61年第2四半期にすでに悪化の微候をみせたが,61年下期から62年へかけての見通しは必ずしも明るくはない。

第1の理由は西欧経済の成長鈍化予想と,日本,イギリス等の国際収支逆調を原因とする引締めから,対欧,対日輸出の伸びがこれまでほど期待されないこと,第2に,アメリカ景気の上昇から,当然輸入の増加が予想されることである。下期まで待つまでもなく,輸出は61年第1四半期から第2四半期へかけて5.9%減少し,逆に輸入は同じ期間に9%も増大した。上記のような理由を合わせ考えると,この傾向は,当分つづくとみて差支えあるまい。

一方,海外軍事支出はベルリン派兵の増強などをめぐって,今後増大を予想され,対外援助は不変としても,海外民間投資は増大気運にある。60年にドル危機を招いた短資流出は現在のところ,さほどでないものの,イギリスの高金利はややもすればホットマネーの吸引力として働く懸念もある。このような情勢から,61暦年の国際収支赤字推定額はしだいに膨張し,最近では22億5,000ドルとされている。1958~60年にくらべれば,はるかに少ないけれども,国際収支問題はそれで解決されたわけではないので,今後輸出努力はさらに強化され,ドル防衛措置も,なおしばらく緩和されないであろう。

(7) その他

その他の問題としては,コスト・インフレの発生なども考えられるが,失業問題も重要である。景気回復段階での失業率は前回の同じ局面よりも高く,しかも工業生産回復後,半年にわたって7%近い水準を維持している。これはオートメーションその他労働力節減施設の増大などに伴う結果でもあり,短期的に解決できるものではないが,今後経済活動の上昇に伴い,年内には6%水準を割る程度に好転し,62年末に5%を予想されるが,ケネディ政府が一応の完全雇用目標とする4%にまで低下するのは,なおそれ以後のこととなろう。

(8) 結  び

61年第1四半期(年率) 5,008億ドル

〃 第2 〃  〃  5,161 〃

〃 第3 〃  〃  5,258 〃

〃 第4 〃 (推定) 5,400 〃

62年第2 〃 ( 〃 ) 5,650~5,700 〃

〃 第4 〃 ( 〃 ) 6,000 〃

60年第4四半期の推定額は9月下旬のホッジス商務長官発表によるもので,その1カ月ほど前のへラー大統領経済諮問委員長の推定額を100億ドル上回っている。この点につき商務長官は,第3四半期の実績からすれば消費者支出に疑問はあるものの,それを織り込んでも,前記金額にはなるとしている。

政府購入の増強を見通しての推定ではあろうが,成り行きいかんによっては,ヘラー,ホッジス両氏推定の中間に落ち着くかもしれない。62年の推定はへラーによるものだが,氏の推定を根拠にすると,61年第2四半期から62年第2四半期までに総生産は490億ドル増,年間成長率では9.5%となり,かなり大幅である(62年第2四半期は低い方の推定額による)。また,1四半期ごとの増加額は122億ドルと計算されるが,61年の景気後退の底から今日までの比較的急速な成長段階でさえも,1四半期平均126億ドルであるから,過去の回復速度が,ほぼ持ちささえられる推計である。回復段階で大きく作用した在庫要因が弱まることを考えると,かなりの政策的刺激を織り込んでの計算と思われるが,予想通りの総生産が実現に至るまでには,かなり堅実な耐久消費財支出や設備投資の伸びを期待しなくてはならないであろう。なお62年末の推定については,財界筋では楽観にすぎるとの見方が強い。


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