昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


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第1部 総  論

第3章 地域化と国際分業の進展

3. 工業国間の国際分業

ところで問題は,工業製品の自由貿易あるいは工業国の地域統合の場合に発生する工業国間の国際分業である。ここでは,農業と工業とか,繊維工業と機械工業とかいうような伝統的な意味での国際分業ではなく,もっと複雑な同種工業間の分業が支配する。たとえば繊維工業内部とか工作機械工業内部とかの分業である。このようなキメの細かい国際分業の姿については,『1959~69年世界経済の現勢』の第1部と第3部においてわれわれはある程度の概念を数量化する試みをなした。その結果得られたものは,(1)工業国間の国際分業は維繊とか機械とかいうような大きな産業分類や商品分類では表わせない段階で行なわれる。(2)しかもこれは時とともに進んで行く,(3)そして必ずしも各国における産業構造の多様化を排除するものではない。(4)分業の基盤は,生産コストの差を生かして生産資源の利用効率を高めることにあるが,問題は現時点のコスト差だけでなくそれが各国の競争と努力によって変化すれば分業の形態もまた変化して行く,等々のことであった。

新しい国際分業においては,現時点における生産コストの格差のために,ある国がある品種について特化し他国が当該品種を全然生産しなくなるというようなばあいは当然発生しうる。それは各国の企業が,大量生産による利益を享受するためにも必要である。しかしその場合でもそれを生産する産業が,ある国では発展し他国では消滅していって,その結果どの国の産業構造も簡単になって行くというようなことは起こらないだろう。それは,世界的にみて工業製品に対する需要はますます多様化しつつあり,どの業種も自国に有利な特定品種の生産によって伸長しうる余地を持っているからである。

しかもこの段階に到達するためには,各国とも高度に多様化した産業構造を持っていなければならないから,あるカテゴリーの工業が全然存在していないということは,北欧やベネルックス3国のような小国の場合を除いては,あり得ない。したがって今後各国はその特色を生かしつつ,競争と努力の結果によって最も有利になるように各産業を伸ばして行くことになろう。すなわち,工業国相互間では,一面補完的でありながら他面では代替的(それもダイナミックな意味での)な関係が同時に成立するのである。


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