昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


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第1部 総  論

第2章 高度成長政策への関心の高まり

4. 高成長と国際競争

以上述べてきたように,世界の関心は資本主義国においても長期的経済成長へと向かいつつある。この目標を達成するためにはどうすればよいか,またそれができたとすれば日本の将来にどのような影響を与えるだろうか。

目標達成の手段としては,各国の投資を高め,―英米および低開発国の場合―,あるいは現在の高投資率を維持する―欧大陸諸国および日本の場合―,ほかはない。高投資による高成長という政策への転換は供給力の増大がますます促進されることを意味する。現在でも商品あるいは地域によっては供給過剰気味ではあるが,高成長政策によって需要を増大させ,これによる生産の増加が所得の増加となってさらに需要を増すことが歓迎すべきであることはいうまでもない。しかし一面では高投資が供給力を増すことから国際競争が激しくなることもまた見逃してはならない。すなわちこれは,需要拡大と競争激化という循の両面を持つ。しかし,それでは各国の投資がスローダウンすればよいかといえば,その結果は,経済成長率が落ちるために世界全体の需要も頭打ちとなり,この状況の下で輸出を伸ばそうとする国があれば,現在の貿易自由化の大勢にもかかわらず,やがては各国の輸入制限の復活という事態が発生する可能性がある。いかなる国の業界といえども自国の需要が伸び悩めば,自己のシェアーを守るため輸入品に対する猛烈な抵抗を試みることは当然だからである。1930年代の大不況が世界的に波及した原因もまたここにあった。

したがって日本としてもむしろこの流れを促進させる方に協力すべきであろう。工業国の経済成長のためには,貿易自由化による世界市場の拡大とそれによる国際分業の利益の享受が必要であり,低開発国の発展のためには,工業国の協同による資本援助が必要である。

日本は現在国際収支の困難に突き当たっている上に,西欧にみられるような地域経済圏を持っていない。この条件下に貿易自由化と援助増大を推進することは多大の困難を予想させるが,短期的な対策はとにかくとして,長期的にはこの方向を見失ってはならないだろう。

〔注〕


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