昭和36年
年次世界経済報告
経済企画庁
第1部 総 論
第2章 高度成長政策への関心の高まり
1961年1月,ケネディ新大統領はその一般教書の中で,アメリカ経済が近年,経済成長において最も立ち遅れていることを指摘するとともに,アメリカかその成長率を引上げることは可能であり,しかもやらなければならないことを強調した。アメリカとともに工業諸国の中では最も成長率の低いイギリスにおいても,同じような認識が急速に高まってきた。イギリスは1961年にはいってから国際収支の困難に遭遇し,7月にはポンド防衛のための緊急措置を発表する事態にまでなった。しかし,過去何回かの国際収支難のばあいと異なる著しい特徴は,民間設備投資を人為的に切るという政策がこの中に含まれていないばかりか,長期経済計画の作成について民間産業界および労組と協議するという一項が含まれていて,問題を長期的に解決しようとする意欲を明らかにしていることである。これとともに,従来の政策をいってきして共同市場加盟への方向に踏み切ったが,これもまた経済成長政策への一大転換として注目される。
近年におけるアメリカとイギリスの成長率の鈍化は明らかであり,アメリカについてみれば,その工業生産指数の長期的傾向線は第16図でみても1954年ごろから屈折していて,OEEC総合のそれが1950~60年を通じて直線的に上昇しているのとくらべれば著しい開きを生じてきている1)。
しかし一面では,アメリカは世界でズバ抜けて高い生活水準と生産力を誇っている。それがなぜ,成長率を引き上げてさらに高い所得水準を目ざさなければならないのだろうか。その直接的動機は,近年の労働力人口の増大に応じて生産を拡大し完全雇用状態を作らなければならないという点にあろう。
またソ連の経済成長に対応して,さらにその上へ上へと行かなければならないという要求もあることはもちろんである。
イギリスでも,欧大陸諸国の経済が急速に伸びているので,このままでいれば立ち遅れてしまうのを何とかしたいと考えるのは当然であろう。
しかし一方では,経済成長に関する考え方が変ってきたことも見逃せない。
すなわち過去においては,成長率が高いと国際収支悪化とかインフレの危険があると考えられていたが,最近では長期的成長率が高くなれば結局生産も輸出も伸びて均衡を保ちうるというふうに変わってきた。イギリスにおける高成長への動きは,特にこれによって国際収支の長期的均衡をはかろうというねらいに裏付けられている。また近年は労働組合の賃上げ要求も常にはげしいが,これに対しても,生産力が伸びなければ結局インフレになるのであって,実質賃金引上げの要求に答えるためにも成長が必要であるというふうに考えられている。