昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


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第1部 総  論

第1章 1960~61年世界経済の概観

2. 共産圏

1960年に共産圏全体の経済成長は59年にくらべて鈍化した。これは主として中国と東欧共産圏諸国の経済の拡大が小幅になったためで,ソ連の国民所得は前年とほぼ同じ伸び率を示した。

(1) 経済成長の鈍化

成長の鈍化した60年の共産圏経済のうちでとくに目立っていのるが中国経済の動きである。国民所得は公表されていないが,2年つづきの農業災害の影響を受けて軽工業を中心に工業生産の伸び率は,59年の39.3%から60年の19%へとかなり低下し,食糧生産が前年を大きく下回ったほか,他の農作物も減産に転じたとみられる。この農業不振のため,今後2~3年間かなりな量の食糧の輸入が必要となり,経済成長も停滞する公算が多い。

ソ連では,工業生産は10%と前年とほぼ同じ伸び率を示し,計画を上回ったが,農業生産は不利な気象条件と経営指導の欠陥のために停滞をつづけ,前年と同様増産計画を達成することができなかった。

その結果,国民所得は8%と59年とほぼ同じテンポで伸びたものの年間計画を下回った。なお,1961年1~9月の工業生産は前年同期比8.8%増と発表されている。

1960年の東欧共産圏諸国の国民所得の伸びはチェコを除くすべての国で59年より鈍化し,60年の計画を下回った。とくに工業化の段階の低い諸国では,工業生産も農業生産もともに増加率が低下したため,国民所得の伸びは59年にくらべて著しい縮小を示した。

つぎに貿易をみると,ソ連の貿易は,第14図に示すように,輸出入合計で60年に前年比5%増と比較的小幅な拡大にとどまった。これは圏内貿易がほぼ前年と同額であったためで,自由世界との貿易は約22%(輸入46%,輸出17%)の著増を示した。

東欧の貿易は輸出入合計で11%とかなり拡大を示したが,そのうち圏外貿易は輸出入とも16%も増大した。

ソ連,東欧と西欧との貿易は61年にはいってからも引きつづき拡大している。

中国の貿易は前年にくらべて9.5%程度減少した。

これは農業災害の影響により中ソ貿易が輸出23%,輸入14%縮小したためで,自由世界との貿易も60年下期に前年同期にくらべて輸出が約19%,輸入が約36.5%減少した(年間では輸出10.2%,輸入1.8%増)。この傾向は61年にもつづいている。

(2) 工業と農業との成長の格差

以上のことからも明らかなように,共産圏では多くの場合,農業生産の減少ないし増加率の低下が経済のバランスを乱し,その成長を阻止する要因になっている。これは,長期的にみるとさらに明確に現われている。すなわち,第15図に示すとおり,ソ連の7カ年計画(1959~65年)は,工業部門ではほぼ計画どおりのテンポで実現されているのに反して,農業部門では予定された高度の成長が達成されていない。また60年に終わった東欧諸国の5カ年計画でも,工業生産が計画以上に伸びているのに対して,農業生産は計画に達していない。

現在,中国でもソ連・東欧でも農業の不振ないし停滞を打開することが,経済政策の重要な課題となっている。

ソ連の20カ年計画は1980年を目標として,東欧共産圏諸国と同一歩調をとって立案されたものであるが,今後20カ年の前半の10カ年に工業と農業が同一の成長率で伸びることになっている。このようにソ連が農業部門の増産に努力を注ごうとしていることは明らかである。なお1961年には,ソ連では農作物の作柄良好が伝えられているが,中国の農業生産は前年にくらべて微増にとどまるもののようである。

〔注〕


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