昭和35年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和35年11月18日

経済企画庁


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第1部 総論

第3章 世界経済の構造的,政策的な諸問題とその展望

4 非工業国の工業化に対する工業国の寄与

今年のIMF,世銀総会で西欧,日本等,アメリカ以外の工業国も低開発国の援助にもつと積極的に乗り出すべきだという声が高かつたこともきわめて印象的であった。前述したように,西欧や日本の経済力が向上してきている現在,今までのようにアメリカー国が低開発国援助を一手に引き受けるということはたしかに合理的ではないだろう。現在の非工業国の経済開発計画の概要を掲げてみると,第10表のとおりである。

このような非工業国の経済開発が進み,工業化が進展してゆくにつれて,(イ)非工業国側の資本力の不足,(ロ)非工業国の輸入構造の変化,すなわち資本財需要の増大,という2つのことが大きく表面化してきた。第1は非工業国側の資本力の不足であるが,さきに第24図に示したように,非工業国の金・外貨準備高は工業国のそれにくらべて著しく低い。

したがって,もし工業国側から援助の手が差しのべられなければ,非工業国の工業化は大きな障害にぶつかるであろうことは明らかである。しかるに,幸いなことに工業国側では,前節で述べたごとくアメリカ以外の工業国の経済力の充実が著しく,したがって,かつてのようにアメリカー国がその援助を一手に引き受けなくてもよいような基盤が漸次整えられてきつつある。第27図は非工業国の対工業国国際収支の推移を示したものであるが,経常収支の赤字が漸増してきている反面,工業国側からの資本の流入は漸増してきている事実がよく示されている。過般のIMF,世銀総会でアメリカが西欧,第日本等の工業国に対してもつと低開発国援助にも力を貸すよう要請したことはもつともなことであろう。

さてつぎに非工業国側の資本財の需要の増大であるが,東南アジア(インド,パキスタン,ビルマ,セイロン,インドネシア,フィリピン,タイ,シンガポール,ホンコン)の5工業国(米,英,独,伊,日)からの輸入構成の推移を調べてみると,第28図のように,これら工業国からの機械や金属製品の輸入の比重が逐年増大してきていることが注目される。

このような現象は,明らかに非工業国側の工業化が進展しつつあることの結果で,たとえば資本財の需要が漸増している反面,繊維製品の自給度は次第に高まってきているようである。この事実を前章で述べた西欧における綿製品の自給度の減退という事実と照合してみることは興味深い。西欧においては綿製品の自給度が低まつてきている反面,英,米以外の域外諸国に対するその依存度が高まってくることをみた。むろん,西欧で域外諸国に対する依存度が高まっているからといって,ただちにそれはすべて東南アジア等の非工業国に対する依存度の増大とみるわけにはゆかないが,非工業国側の工業化が進むにしたがって綿紡のごとき軽工業がまず自給可能となり,ついでこれが輸出産業となってゆくという過程は十分に納得できることで,国際分業のあるべき方向として考うべきことであろう。

しかし,ここでも考えなければならないことは,非工業国側が久しきにわたって甘んじてきた植民地体制から脱出しようとしていることである。植民地時代のモノカルチュア経済からの脱出は,現実の問題としては容易なことではない。政治的には独立を獲得しても,真に経済的な独立をかちとるには,はなはだ困難な道程を越えてゆかなければならなかった。すなわち,非工業国側はなお依然としてその輸出品の大宗は食糧,原料類であって,世界の輸出構造における工業製品の比重増大に伴って,貿易のポジションは工業国側には有利となっても非工業国の輸出は思わしくない。したがって,正常貿易だけでは,その工業化に必要な資本財を調達する外貨の獲得が思うにませられない。しかし,工業国側としても,世界的な産業構造の変化が非工業国側の工業化を必要とし,そのために工業国の資本輸出が必要となってきていることを知らねばならない。ここに工業国側からの資本財の輸入の増大ならびに資本流入の増大の意義がある。

しかるに,工業国側の非工業国の工業化に対する寄与のあり方にもいろいろな問題があるようである。たとえば工業国側は農産物に対して依然保護対をとっている。結局,自由化は工業国側にのみ有利な条件となっているという事実,工業国側が投資や援助を行なう場合に国際的な協力を進める余地がさらにあるのではないかということ,共産圏側の援助が漸次さかんとなつてきているのに対してどう対処すべきかということ等,今後にのこされた課題は決して少なくない。


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