昭和35年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
昭和35年11月18日
経済企画庁
第1部 総論
第1章 1959~60年の世界景気の動向
1959年から60年にかけての非工業国の経済も,工業国の好況による輸出の増大,好天に恵まれた農業生産の上昇,開発計画の進捗などによって全般に好調であった。鉱工業生産は年々増加をつづけているが,58年の伸びが前年比3%と小幅だったのに対して,59年には10%近い上昇を示した。これは銅錫,石油など輸出用鉱産物が増産されたことや,豊作と輸出増加による国内需要の増加,インドの製鋼所の操業開始にみられるような開発計画の進捗など,多くの好条件に恵まれた結果とみられる。国内供給,とくに食糧生産の増加,工業製品輸入価格の安定,それに政府の緊縮政策の結果,輸入が抑えれていたにもかかわらず,国内消費者物価の上昇は多くの国で前年より小幅にとどまった。
1957年以来減少をつづけていた輸出も,工業国の景気回復に伴って,58年第3四半期を底として増加に転じ,59年の輸出額は299億ドルと,前年比5%の増加をみせた。輸出価格は59年に入って緩慢な上昇を示したものの,年平均でみると58年を3%下回ったのは,輸出総量がかなり大幅に増加したためである。これに対して,輸出額は59年秋まで低水準をつづけたので,同年の輸入は58年より3%少なかった。
これはもつばら輸入価格の低下による。その結果,貿易収支の赤字は58年の40億ドルから,59年には13億ドルへと大幅に縮小した。そのうえ,工業国からの援助,借款,民間資本などの流入は前年を上回つたとみられる。このため,58年中に10億ドルの減少をみた非工業国の金・外貨準備は,59年中に4億ドル増加した。
もつとも,貿易の動きには59年末ごろからかなりの変化が現われ,輸出の増勢が鈍化する一方,輸入は大幅に増加したため,貿易赤字は再び拡大し,金・外貨準備も伸び悩みを示している。
非工業国から工業国への輸出は58年第3四半期の年率214億ドルから,59年第4四半期の240億ドルへと増加をつづけたが,工業国間にみられた景気回復のタイミングの相違は,非工業国の輸出増加にも明瞭に反映されている。すなわち,59年第1四半期までは,工業国向けの輸出増加額のうち,8割までがアメリカ向けの増加で占められ,西欧,日本への輸出増加は微々たるものであった。これに対して,アメリカ景気が頭打ちとなり,西欧や日本の好況が本格化するにつれて,非工業国の輸出も西欧,日本向けを中心として伸びるようになった。59年第1四半期と第4四半期をくらべると,第11図のように対米輸出が年率8億ドル減少したのに対して,西欧向けは12億ドル,日本への輸出は6億ドルとそれぞれ大幅に増加している。
59年における非工業国全体の輸出増加率は5%であったが,大洋州のそれは19%に達し,東南アジアでも12%に及んだ。その反面ラテン・アメリカや中近東では1%にも満たず,地域および品目による相違が大きかつた。59年初めから60年初めにかけて,一次商品の価格は平均して約3%の上昇にとどまったが,商品によって価格の動きには大きな差があり,これが各地域の輸出増加率に多大の影響を与えたとみられる。たとえばコーヒー,砂糖,石油など,ラテン・アメリカや中近東の主要輸出品には値下がりしているものが多く,これに対して,東南アジアの代表的輸出品には生ゴムをはじめとして,マニラ麻,ジュート,錫など値上がりしたものが多い。大洋州の輸出する羊毛も大幅に騰貴した。