昭和34年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
昭和三四年九月
経済企画庁
第二部 各 論
第二章 西 欧
一九五八年という年は,フランスにとつて重大な年であつた。第四共和国が束の間に崩壊して,ド・ゴールを指導者とする第五共和国の誕生をみた政治的変革の年であつたばかりでなく,経済再建のための基本政策のうちだされた「経済革命」の年でもあつた。「経済の分野においてフランスをしてその国際的地位を回復せしめる」と同時に,「フランス国民繁栄の唯一の基礎たる真実と厳しさ(verite et severite)との基礎の上に国民を立たせるために」フランス政府が一九五八年一二月末にとつた諸措置はどのようなものであつたか。それらの措置はフランス経済の動向にどのような影響を与え,また与えようとしているか。それをみる前にまず順序として五八年の経済情勢をみておこう。
前年から引続き上昇線をたどつてきた生産活動は,五八年四,五月をピークとしてその後下降に転じ,秋期の回復期待もむなしく,十月にはついに五八年最低の水準に低下したが,この最低水準の停滞は一一月も一二月も続いた。
この生産低下は,資材不足,労働力不足,設備不足などいわゆる生産の物理的ボールネックに原因するものではなく,もつぱら需要の減退によるものであることはINSEE(統計経済研究所)の調査によつても明らかである(註)。
需要の減退は一九五七年秋に消費財部門について始まつた。当時の食料品価格騰貴のために賃金労働者や俸給生活者は,その収入のより大きな部分を食料品の購入にあてなければならなくなり,したがつて若干の耐久消費財や半耐久消費財の購入を控えなければならなかつたのであるが,この需要の減退は,まず小売段階に始まり,ついで卸売段階に現われ,最後に生産段階に波及した。
生産財部門は,五八年春までは需要増が続いたが,第2・四半期の中頃からこの部門にも需要の減退が始まり,同年秋にはそれまで景気停滞に強い抵抗を示してきていた諸産業も需要の減退に悩まされるに至つた。
部門別に五八年晩期の生産の動きをみると,消費財部門は,若干の例外を除き,後退の趨勢が一般化し,それまで不断の上昇を続けていた自動車工業や化学工業の生産も停滞するに至つた。半製品および設備財部門も生産の頭打ちないしは後退を示したが,後退を示した産業の方が多かつた。建築部門は例外で,上昇とはいえないにしても,ほぼ横這い状態の歩みを続けて,後退の気配はほとんどみられなかつた。
消費財部門および設備財部門の秋期以降の生産後退のテンポは比較的緩慢であつた。このことは注目すべきことであるが,その原因は,(1)輸出が秋期以降とくに好調であつたこと,(2)公共需要が下半期に集中的に強まり,年度末に近づくにつれて国庫の赤字支出がふえるのが常例であるが,五八年にはとくにその傾向が強かつたこと,(3)住宅需要が秋以降再び強まつたこと(五八年の住宅建築許可件数は,五七年にくらべて,第1・四半期が二%減,第2・四半期が僅か二%増であるのに,第4・四半期には一七%増であつた),(4)企業および個人が投資および在庫備蓄のために調達できた資金が五八年第4・四半期にとくに多かつたこと(註)などに求めることができよう。
前期のような生産活動鈍化の趨勢は雇用にも強い影響を及ぼし,求人数が減る反面,登録失業者数が増加した。すなわち,求人数は六月一日の三万五,七〇〇人から九月一日には二万○,二〇〇人,一二月一日には一万一,四〇〇人,五九年一月一日には八,八〇〇人へと減少し,反対に登録失業者は六月一日の七万七,四〇〇人から九月一日の八万五,六〇〇人,一二月一日の一三万三,七〇〇人,五九年一月一日の一六万八,八〇〇人へと激増した。週労働時間が四〇時間以下で部分的失業者といわれている労働者は五九年一月一日には三七万三,〇〇〇人になつたが,このうち二三万六,〇〇〇人は繊維および衣類部門,二万人は冶金工業部門,一万五,〇〇〇人は皮革部門,約一万五,〇〇〇人が建築部門および建築資材部門の労働者であつた。 要するに,一九五八年第4・四半期の経済情勢を簡約すればつぎのようになろう。
(1)生産の趨勢は9セッションであつた。
(2)生産を阻害する「物理的ボールネック」はなかつた。生産能力の赤なりの部分が利用されずにいた。
(3)需要が減少の一途を辿つていた。
(4)求人および失業に関する指標や受注残高に関する指標などのいわゆる「先駆的指標」には望ましい徴候は全然なかつた。
(5)需要減退が近い将来に増勢に転じなければ,操業短縮による大量失業出現のおそれがあつた。
このような情勢の中で投資はどのように行われたか。一九五八年の粗固定資本形成は第2-113表および,第2-114表の通りである。五八年の粗投資総額は四兆四一一〇億フランで五七年の三兆九七四〇億フランにくらべて一一%の増加を示している。しかし,この増加の一半は一九五八年に投資財が約八%値上りしたことにもとづくものであつて,数量的にみると,五七年の対前年比増加率が九・九%であつたのに対し,五八年にはわずか二・二%の増加にとどまり,投資増加のテンポが明らかに緩慢化している。政府投資の四二〇億フラン(変価格)減に対し生産投資は一,一六〇億フラン増であつて,緊縮財政政策にもとづく政府投資の減少を補つて余りあるが,この投資額総の約七〇%をしめる生産的投資も対前年比増加率は五・一%に過ぎず,五七年の対前年比増加率一一・五%を遥かに下回つている。これは,第3・四半期以降の景気動向に不安を抱いた企業家が当初の投資計画を繰廷べまたは中止したことに大きな原因がある。住宅建築および不動産修理投資は僅か一・一%増にとどまり,景気支持要因としての役割を果さなかつた。
次に一九五八年のフランスの対外貿易の動きをみると,輸入(季節差調整済み)は春に微増したが,八月にはまた減少し,その後は五八年下半期を通じてほぼ同じ水準を保つた。輸出(季節差調整済み)は,六月まで下降を続けだが,夏中に再び漸増し,第4・四半期には一〇%の増加を示した。第4・四半期には輸出の対輸入比率が九六%となつたが,これはフランスの対外貿易が実際には僅かながら出足であつたことを意味する(註)
このような貿易収支尻の好転および貿易外収支の好調の結果,一九五六年および五七年に著しい悪化を示した国際収支も五八年には大いに改善された。フラン地域と外国との間の経常勘定の赤字は,一九五七年には一四億一,一〇〇万ドルであつたのが五八年には五億二,三〇〇万ドル(フランス本国三億四,三〇〇万ドル,他のフラン地域一億八,〇〇〇万ドル)にとどまつた。一九五七年以降の経常勘定赤字の推移は,五七年上半期九億一,九〇〇万ドル,下半期四億九,二〇〇万ドル,五八年上半期三億五,九〇〇万ドル,下半期一億六,四〇〇万ドルで減少の一途を辿つているし,通貨地域別にみても,この収支尻の改善は全般的なものであつた。
経常勘定および資本勘定を合わせた五八年の国際収支尻は四億四,五〇〇万ドルの赤字であつたが,これを五七年の赤字にくらべると八億ドル以上の減少であつた。
なお,この赤字の決済については,フランス政府は,アメリ力政府および輸出入銀行の債務返済期限延期の恩恵に浴したり,西ドイツ政府のザール関係譲渡金を受けたり,IMFやE PUからの借出しにたよつたりして急をしのいでいたのであつて,年末には国際機関からの借出金も枯渇状態に陥つたが,主として六月の金約款公債募集とともに行われた金買上げによつて年末の金外貨保有高は約四億フラン増加して一〇億○,二五〇万ドルとなつた。
フランス政府は,一九五八年一二月二七日,フランの一七・五五%切下げと,重フラン採用の計画とを発表すると同時に,西欧諸国の通貨交換性回復に呼応してフランの交換性を回復することを発表したが,さらに二九日には耐乏予算とともに一連の新経済政策を発表したことは周知の通りである。
フランの切下げは,欧州共同市場の発足を目前にして,国際競争力を強化するためにとちれた措置であつて(フランスの物価は西ドイツなどにくらべて一〇%前後割高であるといわれていた),従来しばしば行われたフラン切下げのように放漫な財政政策と実力以上の経済拡大政策の遂行によるフラン価値下落の弥縫的借置ではなく,フランス経済の建実な発展を促進しようとする建設的な意味をもつている。交換性の回復はかねがねうわさされていたイギリスや西ドイツの交換性回復のバスに乗り遅れないように共同市場発足という効果的なチャンスをつかんで行われたものであつて,対○E E○輸入自由化率を予定の七〇%を上回る九〇%に,対ドル地域自由化率を五〇%に引上げたことはフランスの国際的協力の意図を示すものであつた(本年七月対OEEC自由化率は九三%に,対ドル地域自由化率は六〇%に引上げられた)。
現行一〇〇フランを一重フランとする新通貨単位創設の計画(六〇年一月一日より完全実施の予定)は,デノミネーションの本来の目的である計算の簡単化のみを狙いとして発表されたものではなく,むしろフランに対する国民の信頼の念を強めるために計画されたものである。
これらの措置と同時に発表された一連の新財政経済政策をみると,まず,一九五九年度予算は,まさに国内緊縮政策の根幹をなすものであつて,財政赤字の大幅削減,赤字削減のための増税ならびに税制改革,食斜品,鉄道,石炭,電気,ガス,郵便,特定農産物に対する財政補助金の削減,財政投資の増加などを基本方針としている。また社会政策上の措置としては,失業保険基金の創設,老齢者扶助金の増額,社会保険加入者に対ずる年額六,〇〇〇フランの医療費払戻しの停止,母子手当の五〇%削減などの方策をとり,さらに,賃金・物価の悪循環を防ぐための諸スライド・システムの廃止,二月一日よりの最低保障賃金四・五%引上げおよび官吏給与の四%引上げが行われた。
以上の諸措置は健全財政の確立と国際競争力の強化と,経済の立直りとを目的とするものであるが,フランス政府は,その後も,機に臨み,事態に応じて次々と諸種の対策をとつてきている。
(1) 鉱工業生産
鉱工業生産は,本年三月まで停滞を続けていたが,四月以降上昇に転じ本年一~六月の生産は昨年下半期を四%上回つた。季節差調整済み指数(一九五二年=一〇〇)をみると,昨年一〇月以降本年三月まで続いた指数一五三が四月には一五五となり,五月には一五七にはね上つている。この一五七という指数は昨年のピークの時期に記録された最高の指数にほぼ等しい数字である(五月の未調整指数は前年同月を一・七%,六月のそれは前年同月を四%上回つている)。
産業別にみると鉄鋼および自動車工業は高い生産水準を維持し,六月の粗鋼生産高は一三三万六,〇〇〇トン(前月比八・九%増,前年同月比七・七%増)で,五八年の三月および一〇月のレコードに近く,本年一~六月の自動車生産高は一二万三,一五五台(内一〇万九,一三三台は乗用車)で前年一~六月の生産高を一五%上回つた。
このほか,石油やアルミニュームや諸種の耐久消費財部門もかなり高い生産水準を示しているし,建設工業や毛織物・綿織物工業なども生産の立直りを示している。しかし農機部門,造船部門などは前年の生産上昇テンポをまだ取戻していない。
現在のところ,最も活気ある生産活動をしているのは,主として外需に応じて輸出品を生産する企業であつて,内需目当の産業の生産活動は停滞気味である。公共投資および民間投資がさかんに行われ,個人消費がふえ,内需が増大することが,これらの産業の生産上昇の要因である。政府は賦払購入規則の緩和,前にけずつた社会保障手当の復活,家族手当給与率の引上げなどによつて個人消費の増加をはかり,企業家の投資意欲も今後強まるごとが予想され,公共投資の実施も緒についたことであるから,やがて内需が大幅に増大することも期待されるが,近い将来における,少くとも本年下半期における内需の大幅増大は望みえないであろう。
(2) 雇 用
登録失業者数は,一,二月は前年から引続き増勢を示したが,三月以降は生産の立直りにつれて漸減している。すなわち,一月の一六万八,八〇〇人から二月の一七万九,〇〇〇人に殖えたが,その後は,三月一六万一,三〇〇人,四月一五万○,五〇〇人,五月一三万六,二〇〇人となり,さらに六月には一一万七,〇〇〇人となつて前月より一四%減を示した。
一方求人数は,一月八,八〇〇人,二月一万三,一〇〇人,三月一万七,五〇〇人,四月と五月はともに一万九,三〇〇人,六月は二万三,7七八〇人へと増加の一途をたどつている。
このような雇用事情の改善は,昨年来最も雇用事情のわるかつた繊維工業および関連産業にみられるばかりでなく,その他多くの産業にもみられるのであるが,造船や飛行機工業,ナント,タルブその他の不況地域,パリの自動車工業,とくにその下請工場などの雇用事情は著しい改善を示していない。
(3) 物 価
五八年末の政府の措置によつて物価が騰貴することは当然予想されたところであり,政府も,卸売物価の騰貴を八~九%,小売物価の騰責を五~六%と予想していたが,新政策実施直後の一月には,卸売物価指数は四・九%,小売物価指数は二・五%の上昇を示した。商品グループ別にみると,卸売物価では,食料品二・七%,燃料一〇・四%,工業品四・七%(うち,輸入工業原料七・六%,国産工業原料二%,加工工業品四・九%)の上昇がみられた。加工工業が四・九%の値上りを示したのは鉄鋼価格値上りのためであるが,さらに繊維原料が一〇%騰貴し,五八年一二月にすでに四・二%の上昇を示していた輸入製品価格総合指数が一月にさらに四・三%高騰したことは注目すべきである。小売物価については,赤ブドー酒が一一%という大幅の上昇を記録したが,「工業製品」グループの指数は一月に二・五%の上昇,「サービス」グループの指数は三%の上昇を示した。要するに,一月の小売物価騰貴は,政府の措置の心理的影響はみられず,予想された枠内にとどまつたということができる。
その後の物価の動きをみると,五八年一二月~五九年七月の卸売物価指数上昇は二・八%にとどまつているし,小売物価指数の上昇も三・五~を出ない。しかし,総合指数は平均を示すものにすぎないから,物価動向を正しく把握するには価格の種目別の動きに注意しなければならない。
工業卸売価格をみると,一月に大幅の上昇を示したが,その後の上昇は緩慢で,五月には一旦低下すら示し,昨年一二月~本年七月の上昇は六・六%にとどまつている。工業卸売物価指数に含まれるのは原料および半製品のみであるから,この動きはこれらの種目が昨年一二月の措置の直後にその影響をうけたためとみられる。工業製品については総合指数がないので,小売物価指数に含まれる工業製品をみると,一二~一月に六・四%の上昇を示している。しかし,賃金および原料相場が再び上昇しないかぎり,工業卸売価格の上昇はないものとみられているし,工業製品についても同様の見方が行われている。フランス商品の外国商品にくらべた割高率は一〇%前後といわれていたのであるから,フランの一七・五%切下げにより,フランス商品の価格酉での競争力は強まつたといえよう。
なお,輸送刺およびその他の「サービス」の価格は上昇の幅が最も大きかつたものであつて,二五〇品目の小売物価指数についてみると,光熱の部は一二月~六月に七・九%,輸送料は六・五%,保健衛生費は一四%の騰貴となつている。農産物は大体において横ばいまたは低下を示している。
(4) 貿 易
平価切下げ直後の一月には対外貿易収支の赤字は一二月の二一億フランから二九四億フランへと大幅な増加を示した。これは一月に貿易赤字が増加するのがフランスでは常例であることと,新レートによる輸出が事務手続上若干渋滞したことと,輸入額が新レート計算のために統計的に膨脹したこととを原因とする不可避な過渡的現象とみられたが,その後は四月までの間に赤字が激減し,五月以降はかなりの黒字を現出するに至つた。本年上半期の対外貿易は,輸出八,七〇九億フラン,輸入九,一七三億フランであつて,貿易赤字は四六四億フラン,輸出の対輸入比率は九五%である。しかし,輸入はCIFで計算され,輸出はFOBで計算される関係上,輸出の対輸入比率が九〇%であればすでに出超とみられるのであるから,一九五九年上半期の輸出の対輸入比率が九五%であつたということは,対外貿易が実際にぱ出超であつたことを意味する。これを前年同期の対外貿易赤字が二,五八二億フラン,輸出の対輸入比率が七二%であつたのに比べれば,著しい好転といわなければならない。フランスの対フラン地域貿易尻は黒字が常例であるが,一九五九年上半期の黒字は五八年上半期の三五四億フランに比べて九六六億フランと著増を示している(輸出四,一九二億フラン,輸入三,二二六億フラン)。
この貿易尻収支の好調は七月に入つても続き,対外貿易は輸出一,五七〇億フラン,輸入一,五三〇億フラン,出超三二〇億フラン,輸出の対輸入比率一〇四%,対フラン地域貿易は輸出七六〇億フラン,輸入四八〇億フラン,出超二八〇億フラン,輸出の対輸入比率一五八%,対外,対フラン地域貿易を合わせた全貿易は,輸出二,三三〇億フラン,輸入二,〇一〇億フラン,出超三二〇億フラン,輸出の対輸入比率一一五%という新記録を現出した。
このような貿易収支の好調は,フランスの生産活動がまだ沈滞の域を脱しきれないために輸入が伸び悩んでいる反面,フラン切下げ後,輸出が著増したことにもとづくものであるが,いずれにせよこの貿易収支の黒字は,フラン切下げ以降における外貨の還流および外資の流入,ならびに四月以来の退蔵金,外貨の出回りなどと相まつて金外貨準備増加の要因となつたために,フランスの金外貨準備は,六月末には一六億三,四○○万ドルとなり,さらに七月末には一七億七,三〇〇万ドルに増加した。
(5) 投 資
予算その他において講じられた投資刺激策の効果はまだあまりあわれていない。現在のところ著しい改善のみられるのは住宅建築部門のみである。建築資金の大部分は,クレディ・フォンシェによつて間接に供給されるか,低家賃住宅計画にもとづいて国家から直接供給されるかしているのだが,本年一~四月のクレディ・フォンシェの貸付額は八〇〇億フランに達した(前年同期は五〇〇億フラン)。本年一年間のクレディ・フォンシェの貸付による住宅建築は,昨年の一〇万八,〇〇〇戸を一五%上回り一二万五,〇〇〇戸に達するものとみられている。工業の分野においては,企業家の投資意欲は依然としてあまり強くないし,予算にもられた財政投資計画も予定通りには運んでいない。INSEEは本年中の公共部門の設備投資は昨年にくらべて全額で一二・六%,数量で五・五%増加し。民間企業の投資は金額では昨年を七%上回るが,数量の上では大差がないものとみている。
外資の導入はどうかというと,今日までのところでは好結果をおさめている。本年上半期の外資流入は六億ドルに達したが,この中には思惑で逃避した流動資金の還流もかなり含まれているるといわれている。外資の流入がふえるか減るかはフランスへの投資が他の国への投資にくらべてより安全,より有利であるか否かにかかるわけであるが,フランス政府は,株式取引所手続の簡素化,公平取扱の保証などによつて外資の誘致に努めている。
昨年一二月の新財政経済政策決定後のフランスの経済情勢の概況は右のごとくである。政府は,公定割引歩合,証券担保貸出金利および高率適用金利の引下げ,民聞投資に対する課税上の恩典や減価償却期間の短縮などの諸措置によつて民間投資の誘発に努めるとともに,一方自らも,四つの法定計画や第三次近代化計画など長期にわたる多額の投資計画を決定して,投資をテコとする景気の振興に腐心している。
フランス政府の所期するような財政の健全化,経済の体質改善とその拡大との実現には長期を要することであつて,本年下半期における急速な発展には疑いがあるにしても,以上述べたところから,フランス政府は経済再建途上の最初の難関は突破したものとみていいであろう。