昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第十一章 最近のラテン・アメリカ経済

六 対米経済関係

ラテン・アメリカ諸国は,最近,経済難局に襲われているが,その打開策としては,アメリカの協力をもつとも必要とするであろう。貿易関係でも,資本の関係でも,ラテン・アメリカ経済は,アメリカに密接に結びついているからである。

一九五七年一二月に,アメリカ商務省の発表したところによると,アメリ力民間資本のラテン・アメリカに対する投資額は,帳簿価格で,一九四六年に三〇億ドルであったが一九五五年に七〇億ドル以上になった。市場価格では,これをはるかに上回るであろう。その後投資が増加したので,現在,アメリカ資本の帳簿価格は九〇億ドルに近いとみられている。

ラテン・アメリカに投資しているアメリカの会社は約三〇〇社で,ラテン・アメリ力に約一千の支店および子会社をもうけている。これらの会社の物資およびサービス生産額は,現在五〇億ドルを突破しているとみられている。ラテン・アメリカの総生産は五百数十億ドルであるから,その約一〇%は,アメリカ資本によって作られているわけである。ラテン・アメリカの全輸出の約三〇%は,アメリカ資本によって作られた商品と見積られている。

戦後,アメリカのラテン・アメリ力投資はベネズエラを中心とする石油投資が,一番活発であった。製造工業投資も,化学工業,食品,電気設備,自動車,ゴムなど広範囲に行き渡っている。戦前から鉱業およびコーヒー,バナナ,砂糖など,農業にも多額のアメリ力資本が大量に進出している。

第11-22表 ラテン・アメリカの対米輸出中の減少商品

つぎに,貿易関係をみると,一九五六年のラテン・アメリカ輸出は,四七%がアメリカおよびカナダ向け,二〇%が西欧大陸,八%がイギリス向けであった。(一九三七年アメリカ,カナダ三〇%,西欧大陸が三〇%,イギリス一九%)また,ラテン・アメリカの一九五六年の輸入先は,アメリカおよびカナダが五二%,西欧大陸が二一%,イギリスが五%どなっている(一九三七年,アメリカおよびカナダ三六々,西欧大陸三四%,イギリス一三%)。

この数字から,ラテン・アメリカの貿易は,欧米工業国との取引が大部分であり,゛戦後はアメリカとの取引が,全体の約半分を占めていることがわかる。ラテン・アメリカ同志,その他低開発諸国との取引は比較的少ない。このことから,ラテン・アメリカの貿易は,欧米工業国,特にアメリカの政策や景気に左右されることが多いことが明らかである。

一九五七年に,ラテン・アメリカは,アメリカとの貿易で九億一,〇〇〇万ドルの入超であった。このため,アメリカの借款,贈与,投資,観光旅費で決済ができず,多くの国は金・ドル準備を崩して支払わねばならなかった。

対米貿易収支の悪化は,特に一九五七年下半期からめざましくなった。同期にラテン・アメリカのアメリカからの輸入は二四億六〇〇万ドルで,上半期より六%,前年下半期より二一%増加した。ラテン・アメリ力のアメリカに対する輸出は,一九五七年下半期に一八億三,五〇〇万ドルで上半期より五%下り,前年下半期に比し六%の増加であった。一九五七年下半期に,ラテン・アメリ力は輸入の激増で,対米貿易に五億七,一〇〇万ドルの赤字を出した。

第11-23表 ラテン・アメリカ諸国の対米貿易収支

ラテン・アメリカのアメリカに対する輸出品のうち,最大のものはコーヒーでその他石油,金属鉱物,砂糖,バナナ,羊毛,ココアなどである。ラテン・アメリカの主要輸出品であるコーヒーは価格が下り,石油はアメリカが自発的輸入制限を行い,銅も値が下ってアメリカの輸入が減り,亜鉛や鉛に対しアメリカは関税引下げを考慮中,羊毛も輸出減退に悩み,綿花は,アメリカが輸出補助を行って,ラテン・アメリカの綿花輸出に打撃を与えている。

アメリカの景気後退とアメリカの経済政策は,ラテン・アメリカ経済に大きな打撃となっている。


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