昭和33年
年次世界経済報告
年次世界経済報告
経済企画庁
第十一章 最近のラテン・アメリカ経済
(1) 輸出品価格
貿易収支を決定する要因は,輸出品および輸入品の価格,この相互関係(交易条件),輸出量および輸入量である。
ラテン・アメリカ主要輸出品の国際価格は表に示すとおり戦後急騰した。IMFの調査によると,ラテン・アメリカの輪出品価格指数(一九五三年-一〇〇)核一九三七年の三九に対し,一九五〇年は九五で二・二倍,一九五一年,一〇八,一九五四年一〇九は戦前の約二・八倍であった。
ラテン・アメリカの農業輸出品単位価格の増加は,F AOの調査(一九三四~三八年-一〇〇実質価格)によると,一九五四年~五五年一七一で,世界農産物輸出価格の一二四を大幅に上回った。
しかし,ラテン・アメリ力主要輸出品の単位価格は,一九五四年が頂上で,一九五五年に七%下落し,一九五六年はほぼ同水準,一九五七年上半期にやや上り(スエズ閉鎖の影響その他),下半期から急落に転じた。一九五八年一月の水準は九八で,一九五五~五六年平均より三%弱,一九五四年水準より一〇%の下落であった。
一次商品相場の低落はヨーロッパのブームが一九五五年で・頭打ちとなり,それ以後経済活動が緩慢化したこと,アメリ力景気が一九五七年から景気後退期に入ったこと,一次商品生産が世界的に増加し供給過剰となった(コーヒーの場合は特に著しい)などの理由によるものである。
(2) 輸出数量
ラテン・アメリカの輸出数量は,一九五三年にはじめて戦前一九三七年の水準にもどった。一九五冴年にやや減少し,一九五五年に戦前水準より七%,一九五六年に一六%増となった。
農産物輪出だけについてみると,戦前一九三四~三八年平均に比較し,一九五二~五三年九四,一九五四~五五年一〇〇,一九五六年一〇八であった(FAO)。一九五六年についてみると,綿花,砂糖,タバコ,コーヒー,ココア,バナナが戦前を上回り,羊毛,,小麦,牛肉,とうもろこしは戦前を下回った。鉱産物については,輸出数量の増加は主として石油と鉄鉱石に起り,その他の多くは不振であった。
ラテン・アメリ力の輸出数量の増加は,一九五七年の第一・四半期の一二〇がピークで下りはじめた。これは,米国景気後退による輸入制限の動きや,西欧経済活動の鈍化が響いたものである。
(3) 交易条件
ラテン・アメリ力の輸入品は,主として工業品であるが,その価格は,一九五〇年を戦前一九三七年に比較すると,一・八倍で,同期の輸出品価格の騰貴二・二倍を下回ったので,ラテン・アメリカの交易条件は有利であ,った。
しかし,一九五一年には,朝鮮ブームの影響で輸出品も輸入品も価格が急騰したが,輸入品の値上りの方が大幅で,交易条件は前年より悪くなった。
一九五二年は,朝鮮ブームの反動で原料価格の下落が起り,交易条件はまた悪化した。しかし一九五四年は輸出品が下落して交易条件が著しく好転した。一九五五年は原料相場の下落がはじまり,交易条件は悪化し,一九五六年,一九五七年と悪化が続き,五七年下期から特に悪くなってきた。
(4) 輸入額
ラテン・アメカの輸入額は,一九五一年以降,一九五五年まで七五億ドル見当(一九五三年は六五億ドル)を続けた。
一九五六年に四億ドルふえたが,これは主として輸入品価格の値上りにょるものであった。ところが,一九五七年に九一億ドルとなり,一二億ドル,一五%の大幅増加となった。同年の輸入品価格の騰貴は三%弱であったから,主として輸入数量の増加によるものであった。全輸入の半分を占めるアメリカからの輸入についてみると,八億ドル増加で,機械,車輛,自動車,鉄鋼,金属製品などの輸入が,めだってふえた。これは,開発ブームとインフレ高進によるものであった。
(5) 貿易収支
輸出品と輸入品価格,輸出量と輸入量の動きをみると,戦後のラテン・アメリカ貿易は,輸出量の停滞にかかわらず,交易条件の有利化(輸出品価格の騰貴が輸入品のそれを上回る)によって,貿易収支の好調を維持し,外貨を蓄積した傾向が強かった。
戦後復興,朝鮮事変,投資ブームと欧米工業国の景気上昇が続き,一次商品の価格は一般に工業品の価格より早く上り,需要も活発であった。それがラテン・アメリカに有利に作用したのであった。
しかし,一九五五年以降,商品相場が下ったが,一九五五年,一九五六年は,欧米好況のおかげで,輸出量の急増があって,貿易収支の好調を持続できた。
ところが,一九五七年になって情勢は一変した。スエズ開通後,商品相場は急落し,米国景気後退,西欧経済活動の停滞が起り,ラテン・アメリカの輸出は困難となった。一方,輸入品は工業国のコスト・インフレのおかげで価格が上り,ラテン・アメリカの交易条件は急激に悪化した。その上,ラテン・アメリカ諸国は,開発計画の促進とインフレ高進によって,輸入が急増した。このため,一九五七年の貿易収支は,五億九,〇〇〇万ドルの赤字となった。一九五六年は六億九,〇〇〇万ドルの黒字であったから,一二億八,〇〇〇万ドルの貿易尻の悪化となった。
(6) 外貨保有高
最近の貿易収支の悪化で,ラテン・アメリカ諸国の金・ドル準備は一般に減少した。
ベネズエラは,石油開発で,アメリカ資本の流入が多く特別のケースで,金・ドル準備は,一九五五年末六六八百万ドル,一九五六年末一,五六八百万ドル,一九五七年末一,五四八百万ドルと急増している。ベネズエラをのぞいたラテン・アメリカ諸国の金・ドル準備は,一九五五年末三,一二一百万ドル,一九五六年末三,〇五五百万ドル,一九五七年末二,七九六百万ドルと減少している。一九五六年の減少は六六百万ドル,一九五七年の減少は二五九百万ドルであった。
一九五八年に入つて,ラテン・アメリカの輸出不振,輸入高水準は続いているようである。一九五八年第一・四半期(一~三月)に,金・外貨保有高はブラジルで四五百万ドル,アルゼンチンで三〇百万ドル減少した。その他諸国は,増減まちまちであるが,コーヒー過剰でコーヒー相場の値下り必至であるから,外貨事情は楽観できない。自由市場の為替相場は,一九五八年初めにアルゼンテン・ペソ,ブラジル・クルゼイロ,コロンビア・ペソ,チリ・ペソ,ペルー・ソール,ウルグアイ・ペソなど,いずれも相当大幅に低落している。