昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第十章 インド経済の実態分析

五 国際収支の均衡化政策

(1) 財政緊縮政策

以上見たような極度の国際収支における不均衡を是正するため,インド政府は幾つかの応急的な政策措置をとりつつある。その主要なものとしては,(1)財政,金融面における緊急政策,(2)輸出振興と輸入抑制政策,(3)外資導入政策の三つがあげられる。

インドの財政は一九五〇~五一年以後一九五七~五八年までの歳入についてみると,中央政府,州政府ともに,それほど大きな増加を示していない。が,歳出は,中央政府において三倍にちかい増加となっており,州政府の場合も約七〇%の増加となつている。したがつて財政の赤字増加状況は加速度的で,一九五七~五八年のそれは一九五〇~五一年に比べて約八倍におよんでいる。歳出のこのような著しい増加はいうまでもなく主として開発支出の増加によるものであり,第一次五カ年計画の最終年度,一九五五~五六年における開発支出額の歳出に占める比率は中央政府,州政府合計の四一・六%にも及んでいる。

第一次五カ年計画における計画期間中の総支出額は二〇一億四,〇〇〇万ルピーと推定され,このうち一一一億五,〇〇〇万ルピーは中央政府の支出であり,八九億七,〇〇〇万ルピーは州政府負担となっている。

第10-10表 歳出に対する開発支出の割合

第次五カ年計画における資金調達実績は第10-11表のとおりで,租税(および鉄道収入)と赤字財政だけで調達資金の六〇%ちかく占めていることが注目される。政府部門に対,する外国援助は二九億六,〇〇〇万ルピーにのぼり,うち借款が一四億二,〇〇〇万ルピー,贈与が一五億四,〇〇〇万ルピーであつた。もつとも第一次計画欺間中に使用されたのは紛一八億八,〇〇〇万ルビーで,残り一〇億八,〇〇〇万ルピーは第二次計画にもちこされている。外国援助資金の利用がおくれたのは,計画作成の遅延,必要な設備,人員の不足,鋼材,船積み面の困難な事情等のためであつたと説明されている。外国援助の大部分はアメり力政府の援助資金でこの合計は二三億二,〇〇〇万ルピー,コロンボ・プランによる援助が四億五,五〇〇万ルピー,世銀借款が一億二,五〇〇万ルピー,フォード財団援助が五,四〇〇万ルピー,ノルウエー政府援助が六六〇万ルピーといった内訳になつている。

インドの財政上の赤字はこのように経済開発計画の実施によつてもたらされたものであり,財政の不均衡を是正するためにも,また外貨の著しい減少状況からも,はやくから計画を縮小することの必要性の問題がとりあげられてきた。こうした実状を反映して一九五七~五八年度予算においても,当初の資本予算は八八億四,一四〇万ルピーであったのが,九,九六〇万ルピー減に修正された。本年二月二八日に下院に提出された一九五八~五九年度予算案においては,改めて,開発計画の修正に必要なことが指摘され,その予算も,資本予算の収入は前年度に比べて一九億一,三五〇万ルピーの増加となっているのに対し,支出は前年度の八七億四,一八〇万ルピーに比べて二億三,六八〇万ルピーの縮少となっている。しかし,当初の四八〇億ルピーという第二次五カ年計画の支出規模を縮小するものでなく,その支出の比率を第三年以降において大きくしようとするものである。そして,新年度においては外貨事情に大きな影響をもつ計画の実施は,鉄道,石炭,主要港湾の建設など中核的な計画で,最優先計画となつているものと,すでに相当程度進行しているものに限つて新規外貨使用が認められることになつている。

第10-12表 インド中央政府予算

(2) 輸出振興と輸入抑制政策

インド政府は貿易収支の極度の悪化を主因とする外貨不足に対処して,一方で輸出振興のための政策をとるとともに,他方輸入抑制政策を強化しつつある。輸出振興政策についての二,三について見ると,かねて計画していた「輸出危険保証会社」(Export Risks Insurance Corporation of India‐private‐Ltd)が昨年七月に発足するに至った。

これによつて輸出上でおこる種々のリスクを保証し,商社の輸出意欲を刺激しようとしている。この会社は,授権資本五,〇〇〇万ルピーは全額政府出資,当初二,五〇〇万ルピーは全額政府出資,当初二,五〇〇万ルピーの資金で発足するが,事業が拡大されるにしたがつて漸次増資され,ることになつている。これによつて,商業リスクの八〇%政治リスクの八五%,売込支出の五〇%を限度として保証されることになるものとされている。輸出振興は個々の産業部門においてもとられており,最近,絹,人絹業界においても輸出増進について政府の強力な支持のもとに具体的方策を実施するに至つた。

輸入抑制政策は昨年六月以来再三にわたって実施し,資本財の輸入をすら引締めてきたが,一〇月末,その抑制政策をさらに一段と強化するに至った。すなわち,それまでは,資本財輸入は一般に長期延払条件であれば許可することになっていたのを,こんごは新規企業用または現在企業の大幅拡張用の資本財,設備については,第一回の支払が一九六一年四月一日以降のものにかぎり輸入許可を与えるという方針に変えた。

本年三月三一日に発表された今年度上期の輸入政策についてみると,前期同様大幅な輸入削減が方針とされており,資本財もプラントや機械など長期クレジットによるものに限つてライセンスを発給するというきびしい方針をひきつづいて打出している。今期輸入政策の概要について見ると次のとおりである。

(一) 輸入割当が増加した品目は,主として繊維工業用および化学工業用原料で,下期(五七年一〇~月五八年三月)に比べ約一億ルピーの増額とみられる。また機械部品,ローラー・ベアリング,工業用ゴム,樹脂,研磨剤なども割当増加,印刷機械と農業用トラクターに新規割当があり,写真感光材,紙,その他必要委託販売品の輸入割当が若干増額されたもようである。

(二) 輸入割当が削減された品目は,コールタール染料,鉄鋼ヤスリ,PUSコンパウンド,新聞用紙(一五%減)および東パキスタンから輸入する魚類,果物,酪農品等である。

(三) 輸入制限がとくにきびしい品目は,タバコと万年筆であるが,安全カミソリ,時計,その他一部品目はいずれも輸入禁止。また照明用ランプ,コプランロニウムの輸入も大幅に削減された。

(四) 実需者に対しては,下期(五八年一〇月~五九年三月)分のアドバンス・ライセンス発給が考慮され,実需者は先物買契約を結び,下期初めに船積できるよう考慮される。

(五) エスブリッシュド・インポーターに対する割当は三六品目については増額されたが,割当削減ないし輸入禁止となった商品の方が多く,その数は約一二五品目に及んでいる。割当が増額された三六品目のおもなものはスチール,ワイヤ,同ロープ,船用チェーン,ローラー・ベアリング,皮ベルト,ディーゼル・エンジン部品,小型モーター,蓄電器,ちょうじ,樟脳,家庭用冷凍機,タイプライター部品(リボンを除く)写真ネガ,印画紙(レンーゲン用フイルムを除く),人造歯,外科用器具,醋酸,アルゴン,ガス,染色用糊,同パウダー,映写機部品,印刷用および石段用材料,・特殊車輛などである。割当ないし輸入禁止された一二五品目のうちおもなものは次のとおりである。( )内の比率は翰入実績に対する今期割当率を示す。

圧搾鉄鋼管(一五%),有刺鉄線,銅管,ローラー・ベアリング(五〇%),ガラス切り,フィテング(五%),絶縁ゴム線(二〇%),コールタール染料,鉛筆,インク,印刷インク,綿縫糸(ミシン用を除く),綿糸(八〇番手以上のもの),拡声器,計量器,青銅および真鍮(一五%),魚(一五%),酪農品(一五%)。


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