昭和33年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
経済企画庁
第十章 インド経済の実態分析
戦前,東南アジアのほとんどの国の貿易は出超であつたが,インドも同様に,一九二九年の世界恐慌の影響で,一九三一年以後六カ年間入超だつたのを除いては連年出超であつた。戦前のその出超の大きさは,一九三七年,三八年について見ると,それぞれ四,一〇〇万ドル,四,六〇〇万ドルで,それほど大きな額ではなかつた。しかし,インドはそれによつて,外国資本に対する利子,配当その他の貿易外支払をまかなうことができたのである。ところが戦後の貿易は,第10-6表に見られるごとく,これとは逆に連年入超をつづけている。しかもその入超額は,第一次五カ年計画の最終年度である一九五五年から一層増大し第二次五カ年計画にはいつた一九五六年の入超額は四億四,二〇〇万ドル,第二年目はさらに増加し,六億五,三〇〇万ドルという巨額を記録するに至つた。
インドのこの入超は,いうまでもなく輸出ののびなやみと輸入の激増にある。一九四八年以後の輸出の動向をみると一九五六年は四八年よりも低下,五七年は○・一五%程度の増加でしかない。世界の輸出が年々前年比で一〇%前後の上昇を示しているのと比べるとその停滞の状況は容易に諒解しえられるであろう。これにひきかえ輸入の動向は全く逆で著しい増加が見られる。すなわち一九四八年の一六億一,六〇〇万ドルに対し五六年が一七億一,一〇〇万ドル,五七年は二〇億ドルを超すに至つた。この輸入増大の内容は第10-7表のごとく,資本財ならびに消費財向原料,資本財向原料輸入の急激な増加によつてもたらされたもので,一九五六年,一九五七年第一・四半期のごときは,総輸入額の五〇%ちかくに及んでいる。これに対し消費財輸入は比率の低下だけでなく,絶体額においても減少傾向を示している。これでみてもわかるようにインドの著しい輸入増加は主として経済開発計画実施のための資本財の輸入増によるものであり,ことに第二次五カ年計画の実施にはいつた一九五六年四月以後において急増していることが知られる。
インド政府は各年度ごとに輸出入計画,ことに輸入については綿密な計画をたてているが,実際はいつも計画以上の輸入を行わざるをえず,それが貿易収支の逆調に大きく響いているものである。