昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第八章 第二次五カ年計画の発足と中国経済発展の見通し

二 農業増産措置と水利・灌漑建設運動の展開

「一五年でイギリスに追いつけ」という呼びかけに呼応して,いま中国では工,農業をとわず,勤労大衆のあいだに広範な生産運動が起つている。このことが,第二次五カ年計画の発端にあたつて,当面の経済情勢を特徴づけるもつともめだった現象となつている。

まず新しい生産運動の高まりは農業において最初にあらわれた。これは工農業並行発展という新しい方針のもとでは当然であろう。去年の一〇月にまず「全国農業発展要綱修正草案」が発表されたが,ただちにそれにひきつづいて農閑期を利用した全国的な規模での水利・灌漑建設運動(および積肥運動)が起された。これはもちろん生産運動の形式で多数の農民の労働力を短期間に動員して,「発展要綱」にかかげられた今後一〇年間に水害・早害の脅威をなくするという要求をくり上げて早期に完成ずることをねらつたものである。これによつて第一次五カ年計画時期に突出してあらわれた自然災害の影響をできるだけ早くとりのぞいて国民経済の発展を安定した基盤の上におくことが何よりも急がれたのである。

この運動がはじまつて以来,それに動員された毎日の労働力は,一〇月には二-三,〇〇〇万人,一一月には六ー七,〇〇〇万人,一二月には八,〇〇〇万人をこえ,一月にいたつてついに一億人に達したといわれる。その結果灌漑面積は毎日平均約一〇〇万華畝(約六万七,二〇〇町歩)づつ増加し,最近の中国側の統計によれば三月二二日までに一,五五〇万町歩の灌漑面積が拡大されたことになつている。なおこの労働力動員のために,全国で約七〇億元の支出が行われたという。このような水利建設運動の結果,現在すでに早害の脅威を基本上なくしたうえ,第二次五カ年計画の最終年度までには,農業発展要綱の目標をくりあげて,全国的に水・早害のおそれを解消する見通しがついたといわれている(五八年二月五日「人民日報」)これは今後の農業生産の発展のためにきわめて有利な条件を提供し,同時にひいては国民経済全体の順調な拡大再生産を保証するものといわなくてはならない。

現に単位面積あたりの生産高をひきあげるという面でも,全国二,〇〇〇余県のうち約三分の一にあたる七六四の県および市が,「一華畝(六・七畝)あたりの食糧収獲高を一九六七年までにそれぞれ,二〇〇キロ,二五〇キロ,四〇〇キロ(注 全国を三つに分けてその条件に応じた異なった目標が設定されている)に引きあげる」という全国農業発展要綱の規定を今年中に達成することを決定している(五八年三月一七日北京放送)。さきに農業視察団団長として日本を訪問した王震農墾部長は,稲作の単位面積収量で中国は今後一〇年間で日本に追いつくと断言している(二月五日「大公報」)。

以上のような農業生産の高まりを予想して,今年一月に農業協同組合の公積金の比率を引きあげて,純収入の八%(工業原料用作物のばあいには一二%)を超過してもよいという決定が行われたことはきわめて注目にあたいする。


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