昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第四章 転機に立つ西独経済

一 投資ブームは衰退-しかし最近やや回復の兆あり

だが西独経済のこのような高い成長率は主として一九五六年上期までの成長率が高かつたせいであつて,五六年下期以来は,成長率鈍化の傾向があらわれ,この傾向は五七年秋から本年にかけてますますハツキリしてきた。実質国民総生産は五五年に一一・八%増加したあと,五六年には五・八%の増加となり,さらに五六年にはわずか四・六%の増加にとどまつた。鉱工業生産も五五年の一三・四%増のあと,五六年の七・六%増,五七年の五・六%増へと増加率の鈍化をみせている。四半期別の増加率をみても,五七年第一・四半期の前年同期比八%,第二・四半期の六%から第三・四半期の三・三%へ低下しており,第四・四半期には五%にやや回復したが,本年第一・四半期には三・三%の増加率にとどまつた。

第4-3表 実質国民総生産と鉱工業生産の伸張率

こうした経済成長率の鈍化傾向は何によつてもたらされたか。それは主として従来の経済拡大の原動力であった投資ブームが衰えた結果にほかならない。西独の粗固定投資は五五年に前年比で二三・六%も増加し,五六年上半期にも前年同期比で二一%という高い増加率を示したが,下期にはわずか四%の増加にとどまり,さらに五七年の固定投資は前年比でわずか三・六%の増加にすぎなかった。

このように固定投資の増勢が鈍化してきた理由は,五五年八月以来数度にわたつて実施されたディス・インフレ政策により金利高騰,金融逼迫,企業利潤マージンの低下など企業者の投資意欲を減殺させる要因が現われた結果である。

しかしながら注目すべきは五七年下半期以来西独の固定投資が再び増勢をつよめてきたことであつて,第4-4表から明らかなように固定投資総額は第一・四半期の前年同期比七・七%増から第二・四半期の○・九%増へとほぼ完全に停滞的となつたあと,第三・四半期の二・五%増,第四・四半期の五・一%増へと次第に増勢を高めてきた。とくに増加したのは設備投資であつて第一・四半期の増減なし,第二・四半期の一・七%増から第三,第四・四半期にはいずれも六・八%の増加率を示した。建設投資も第三・四半期の前年同期比一・六%減から,第四・四半期の五・二%増へと再び増加傾向へ転じている。

この投資再増加の情勢をもつと明確に示すものは,資本財工業に対する国内からの新規発注高である。資本財工業の国内新規受注高をみると第4-5表のように,五四年の二五・四%増,五五年の二二・九%増と二カ年受注増加率(前年または前年比)つづけて急増したあと,五六年には前年比わずか一・六%の増加にとどまつたが,五七年には七・三%と再び増勢を高め,四半期別にみても第二・四半期の前年同期比四%増から第四・四半期の一○・八%増と増えてきている。本年一,二月の受注高も前年同月をそれぞれ一二%,一一%上回つている。この資本財工業のなかには電機工業などのように家庭用耐久消費財の比重の高い産業がふくまれているので,本来の設備投資の動向をもつとよく示す機械工業の国内受注高をみると,これまたほぼ同様な傾向が看取され,昨年下期から現在にいたるまで増勢が高まっている。

設備投資の意欲がこのように再び高まってきた理由は,ブンデス・バンクや西ドイツ経済省の見解によると労働力不足や労働コストの上昇による合理化投資,および技術革新を背景とする新産業の発展にありとされ,それに最近の金融緩和,とくに資本市場の成長が資金面からの投資促進要因となり,五五年と五六年に金融難のため延期された投資計画が実施可能となつたとされている。

現に証券市場における公社債および株式の新規発行高は月平均で五六年の三五六万DMから五七年上期の三七五百万DM,五七年下期の五九四百万DMに増加し,本年第一・四半期は七七七百万DMに達して前年同期の約二倍となっている。

第4-6表 建築許可額

設備投資と並んで建設投資も最近は増加傾向にあり,現実の投資額が昨年第三・四半期に微減したあと第四・四半期に持直したことは前述したが,建設投資の今後の動向を示す建築許可額をみても上表のように大体において増加傾向にあり,とくに公共建築投資と住宅投資が本年は増加するとみられている。すなわち公共建設許可額は本年一月に前年同月比で六五%も増加,二月も三三%の増加を示しており,住宅建設許可額も一月は前年同月比で一八%の増加であった。公共建設の意欲がこのように高まつてきた理由はやはり資本市場の成長で地方政府の起債が容易となり,従来延期されていた新規工事に着手するようになったからだといわれ,住宅建築のばあいも同様で,金融面での隘路が解消したせいだとされている。これに対して産業用建設の許可額は五七年に前年比で約二%減少,本年一,二月の情勢も産業界がいぜん拡張投資に対して慎重な態度をとつていることを示している。


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