第11節 今後の展望

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景気は,これまでの公共投資・住宅投資主導の回復から,民需中心の自律的回復に移行しつつあるが,今後,景気回復が持続的なものとなるためには,動きに堅調さが増している設備投資や個人消費等の民間需要が更にしっかりしたものとなることが必要である。

最大のポイントは,設備投資が加速してくるかどうかという点であろう。円高是正や企業収益の改善等投資環境に明るさが増しつつあることを反映して,各種アンケート調査による96年度設備投資計画は,緩やかな回復を継続する見込みであるが,過去の回復局面に比べると伸び率は高くないことや,半導体市況の軟化等一部業種における先行きの不透明感もあること等から,今後とも注視が必要な状況である。

次に期待されるのは,個人消費の回復基調が更にしっかりしてくることである。現在雇用情勢は厳しい状況が続いているが,雇用者数の堅調な増加等一部ながら改善の動きもみえ始めており,賃金上昇率の回復とあいまって所得面から個人消費を後押しするものと期待される。

住宅投資については,長期金利の動向と来年度に予定されている消費税率引上げに伴う駆け込み需要の動向が年度後半の住宅投資を左右することになるとみられる。長期金利は景気回復期待を反映して年初来やや上昇しており,足元では金利先高期待から住宅投資が刺激されるものの,ある程度のラグをもって住宅投資を抑制する方向に働くことも考えられる。他方,消費税率引上げを控えて年度後半に前倒しで住宅投資が行われる可能性もある。両者の効果がネットで増加となるか減少となるかは金利上昇幅に依存するであろうが,景気拡大期待が続く限りは,現在の金融緩和スタンスを維持しても長期金利のある程度の上昇は避けられないものとみられる。

輸出については,昨年央以降の円高是正がプラスに働くと考えられるが,構造的に海外生産へのシフトが進んでいることや,ヨーロッパやアジア等において景気が減速していること等に加えて,アメリカにおけるパソコン需要の一巡に伴う半導体輸出の鈍化等から,やや力強さを欠く動きとなろう。一方,輸入は,円高是正がマイナスに働くものの,国内景気の回復の動き,構造的な海外生産へのシフト等から,堅調に増加していくものとみられる。

以上より,住宅投資や輸出に不確実要因があることから,自律的な景気回復に移行するためには,設備投資や個人消費の動向がかぎとなる。公的固定資本形成は,本年度は過去最高水準となると見込まれるものの,先行指標の動きをみると伸びが更に高まるとは考えにくいこともあり,現在,堅調さが増している個人消費や設備投資が更にしっかりしたものとならない場合には,一時的にせよ景気の回復テンポが鈍化する可能性もあろう。しかし,短期的な視点で政策的なてこ入ればかりに頼っていては,かえって経済のぜい弱性を残すことになりかねないことから,今後は,中期的な視点に立った構造改革を果敢に実行することによって,日本経済を足腰のしっかりとしたものにつくり変えるなかでの自律的な景気回復が期待されるところである。

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