平成6年

年次経済報告

厳しい調整を越えて新たなフロンティアへ

平成6年7月26日

経済企画庁


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第1章 93年度の日本経済

第1節 低迷した日本経済

1993年度経済についての分析を始めるに当たり,本節ではこの間の経済がどのような推移をたどり,その中からどのような課題が浮かび上がってきたかを概観しておこう。

(三つの時期区分)

93年度の日本経済の足取りは,以下のような三つの時期に分けて考えることができる(主な指標については 第1-1-1表 参照)。

第一は,年初から春先にかけて,経済の一部に明るい動きが現れてきた時期である。需要面では,92年度に引き続き公共投資と住宅建設が堅調に推移するなかで,3月,4月と一世帯当たり消費支出が前年を上回り,一部の家電製品の出荷に下げ止まりの動きが現れるなど個人消費に明るい動きが現れてきた。供給面では,91年以降減少傾向を続けてきた鉱工業生産が2月,3月に連続して増加し,在庫調整にもかなりの進展がみられた。1~3月の実質GDPは,前期比0.9%の増加となり,景気動向指数(DI:ディフュージョンインデックス)の一致指数も,2~4月にかけて3か月連続して50を上回るなど,景気回復に向けての期待が高まった。こうした景気回復期待感の高まりを受けて,3~4月には株価が急速に回復するとともに,5月にかけて長期金利の上昇がみられた。

第二は,夏場以降93年末に至るまでの,経済が再び低迷した時期である。2月以降進行していた円高への動きは,いったんは落ち着いたかにみえたが,8月にかけて再び急テンポで進行し,8月17日には1ドル100.40円の最高値を付けた。こうした急激な円高は,先行き不透明感を高めることにより,特に企業マインドを悪化させた。需要面では,住宅建設は引き続き堅調であったが,公共工事の伸びの鈍化が懸念された一方(公的固定資本形成の動きは総じて堅調),5月から9月まで5か月連続で一世帯当たり消費支出が前年割れとなるなど個人消費の低迷が続いた。これに加え,円高の影響により輸出数量が減少し,輸入数量が増加したため,10~12月期の外需は大幅に減少した。供給面では,鉱工業生産は停滞傾向を続け,それまで進展してきた在庫調整も,足踏みすることとなった。さらに,9月中旬以降は中間決算における企業業績の悪化などを背景として,株価が下落した。

第三は,94年に入って,再び経済の一部に明るい動きが現れてきた時期である。需要面では,一部家電製品の出荷が前年を上回るなど,個人消費にやや持ち直しの動きがみられるようになった。減少傾向が続いていた輸出も,アメリカを中心とした世界経済の回復への動きを受けて,一進一退の動きを示すようになった。供給面では,年度末にかけて再び鉱工業生産が大幅に増加し,在庫調整にも進展がみられた。さらに,株価も,景気回復期待などから上昇した。

(再び表面化したダウンサイドリスク)

以上のような推移をみせた93年度は,「ダウンサイドリスク(予測の下振れリスク)が再び表面化した年だった」といえよう。

91年4~6月期から始まった今回の景気後退過程では,「人々の予想よりも,実際の経済が悪化する」という形でダウンサイドリスクの表面化が繰り返されてきた。これは,第2章でみるように,今回の景気後退過程が,通常の循環的な景気後退過程とは異なり,バブルの崩壊への調整などが絡み合いながら進行してきたため,過去の経験が単純に当てはまりにくかったことなどによるものと考えられる。

93年度も,結果的に同様のプロセスが繰り返されることになってしまった。前述のように,93年初から春先にかけて,在庫調整が終了しかかるなど日本経済の一部に回復の動きがみられたことを受けて,6月には経済企画庁は景気がおおむね「底入れした」ものと判断した。しかし,その動きは経済全体に拡がるまでには至らず,93年度も景気後退が続くこととなり,再びダウンサイドリスクが表面化することとなったのである。93年度の実質GDP成長率は0.0%(GNPベースでは-0.1%)となったが,これは大方の予測を大きく下回るものであった(政府の当初見通しは3.3%,92年末に公表された民間調査機関の予測の平均はおおむね2%台後半,いずれもGNPベース)。

このようにダウンサイドリスクが表面化したのは,円高の進行など予想し難い外生的な要因が景気にマイナスに作用したことが大きく影響していたものと考えられるが,さらにこうした経済の推移の中から,「バランスシート調整などの,バブルの後遺症の影響が大きかったのではないか」,「財政・金融面からの景気刺激策がそれほど効果を上げなかったのではないか」,「構造的な問題が景気後退を長期化させているのではないか」など多様な議論がみられた。

そこで,以下では,最初に円高が経済の各分野に及ぼした影響を総合的に把握した後で,経済の各分野ごとの動きを調べていくという順序で,年初にみられた明るい動きがなぜ拡がらずに景気低迷が続くことになったのか,これに対応して採られてきた経済政策はどのような効果を及ぼしてきたのか,さらに,94年に入って再びみられるようになった明るい動きは景気回復につながるのかなどの諸点について検討していくこととする(バランスシート調整問題については第2章で,景気問題と構造問題との関係については第3章で詳しく述べる)。


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