平成3年
年次経済報告
長期拡大の条件と国際社会における役割
平成3年8月9日
経済企画庁
90年度の個人消費は,年度前半の高い伸びに比べ,後半でやや伸びが鈍化したものの,雇用者所得の増加等を背景に堅調に推移した。個人消費支出の推移を,経済企画庁「国民経済計算」でみると(第8-1表),民間最終消費支出は89年度名目6.5%増,実質4.1%増の後,90年度は名目6.1%増,実質3.5%増,四半期別には,前年同期比(実質)で,90年4~6月期6.3%増,7~9月期4.1%増,10~12月期1.8%増,91年1~3月期2.2%増となった。
総務庁「家計調査」で全世帯消費支出をみると,89年度名目3.1%増,実質0.2%増の後,90年度は名目4.1%増,実質0.8%増,四半期別には,前年同期比(実質)で90年4~6月期3.0%増,7~9月期1.2%増,10~12月期1.4%減,91年1~3月期0.4%増となった。4~6月期は前年同期の水準が税制改革の影響により低かったこともあり,高い伸びとなった。また10~12月期は本文第1章で説明した天候要因等の一時的な要因もあり,前年割れとなった。
次にウエイトの大きい勤労者世帯の消費支出をみると,名目で89年度3.5%増の後,90年度は4.4%増と,82年度(5.2%増)以来の伸びとなった。一方,実質伸び率の推移をみると,89年度の0.6%増の後,90年度は1.1%増となり,堅調な伸びが続いている。また四半期別に前年同期比(実質)でみると,90年4~6月期4.1%増,7~9月期1.5%増の後,10~12月期0.6%減,91年1~3月期0.4%減となった。
また一般世帯の消費支出についてみると,89年度名目2.2%増,実質0.7%減の後,90年度は名目4.2%増,実質0.9%増と再び堅調な伸びとなった。これを四半期別に前年同期比(実質)でみると,90年4~6月期1.9%増,7~9月期2.1%増,10~12月期2.5%減,91年1~3月期2.3%増となった。
消費支出の動向(全世帯)を費目別にみると,89年度には6大費目で実質増加となったのに対し90年度は7大費目で実質増加となっている。90年度の費目別の内訳をみると,保健医療が保健医療用品・器具,医薬品の大幅増により,前年度の実質3.3%増から,実質4.9%増と伸びを高めた。また教養娯楽が運動用具類等の教養娯楽用品の大幅増等により,前年度の実質0.6%増から,実質2.5%増と着実に増加した。さらに家具・家事用品では冷暖房用器具の大幅増等により,前年度の実質0.4%減から実質4.O%増となった。一方,教育は授業料等,補習教育が実質減少となったため,前年度の実質5.7%増から実質3.9%減となった。また,住居は家賃地代,設備修繕・維持が共に実質減少となったことから,前年度の実質1.4%増から実質2.8%減となった。
次に,勤労者の実収入の動向をみてみよう。90年度の実収入は名目5.3%増,実質1.9%増となった。実収入は80年度に実質減少となった後,81年度以降実質増加で推移している。これを四半期別に前年同期比(実質)でみると,90年4~6月期4.6%増,7~9月期1.2%増,10~12月期1.3%増,91年1~3月期0.8%増と総じて着実な伸びとなっている。
実収入の内訳をみると,世帯主収入は89年度名目4.3%増,実質1.4%増の後,90年度は臨時収入・賞与が高い伸び(名目8.1%増,実質4.6%増)となったこと等から,名目4.8%増,実質1.5%増となった。妻の収入については89年度名目3.O%減,実質5.7%減の後,90年度は名目9.2%増,実質5.7%増と高い伸びとなった。また他の世帯員収入も89年度名目0.2%減,実質3.O%減の後,90年度は名目9.7%増,実質6.2%増と高い伸びとなった。
以上の実収入の動きに対し税金や社会保険料等の非消費支出は,所得税減税が一巡したことや,社会保険料の料率が引き上げられたため,90年度8.3%増と89年度の1.6%増より大幅に伸びを高めた。その結果,可処分所得の伸びは,名目4.8%増,実質1.5%増となり,5年ぶりに実収入の伸びを下回った。また,実質可処分所得の四半期別の前年同期比の推移をみると,90年4~6月期3.4%増,7~9月期0.7%増,10~12月期1.O%増,91年上~3月期0.8%増となった。
次に平均消費性向の動きをみると,86年度以降低下傾向にあり,90年度は89年度の75.5%から75.2%へと低下した。四半期別(季調値)にみると,厚生年金などの年金給付の支給月が変更(平成2年4月より,3か月ごとの給付から2か月ごとの給付に変更)され,7~9月期,1~3月期の数値を高め,4~6月期,10~12月期の数値を低める要因が働くことに留意する必要があるが,90年4~6月期75.9%,7~9月期76.4%,10~12月期75.3%,91年1~3月期76.3%となった。
以上のように個人消費は90年度も堅調に推移したが,家計調査でみた勤労者世帯の消費支出の増減をいくつかの要因に分解してみてみよう。第8-2図は,消費支出の増減を決定する要因を①消費性向要因(消費マインド等の問題)②実収人要因(実収入の伸び)③非消費支出要因(税金等非消費支出の影響)④物価要因(物価上昇率)に分解したものである。これによると,実収入要因が一貫して消費支出を拡大する要因として働いており,88,89年度同様大きくプラスに寄与している。これに対し,物価要因は86年度に消費者物価の低下をうけてプラスに寄与した後,87,88年度とも小幅なマイナス寄与に留まっていたが,89年度は税制改革に伴う一回限りの物価引き上げ効果により,また90年度は,生鮮食品,石油製品の価格上昇がみられたこと等により,それぞれ比較的大きなマイナスの寄与があった。消費性向要因については,こ-のところの低下傾向をうけて90年度もマイナスの寄与となっている。また非消費支出要因は,86年度の社会保障費の減少,87~89年の所得税減税等によりマイナスの寄与は小さくなっていたが,90年度は社会保険料の料率の引き上げによりマイナスの寄与が拡大した。
90年度の動きを四半期別にみると,90年10~12月期,91年1~3月期は物価要因と消費性向要因のマイナスの寄与が大きくなっている。
財・サービス別の消費動向をみてみると,90年度は実質で財支出が1.3%増,サービス支出が1.6%増となった。
90年度の全世帯の実質消費支出の内訳を形態別にみてみると(第8-3図),非・半耐久財,サービスが消費支出の増加に大きく寄与している。
これを四半期別にみると,耐久財は90年4~6月期,7~9月期に冷暖房器具の大幅な増加等によりプラスの寄与となったものの,その後はマイナスの寄与となっている。サービスは90年10~12月期までプラスの寄与となったものの,91年1~3月期は保健医療サービス,教育の減少等によりマイナスに寄与している。非・半耐久財は90年10~12月期にマイナスの寄与となっている。これは暖秋・暖冬の影響により,被服及び履物が減少したこと,また生鮮食料品の価格上昇等を反映して食料品が減少したことによるものと考えられる。
ここで,90年度の個人消費の動きを供給サイドのデータからみてみよう(前掲第8-1表)。まず,耐久消費財の販売動向についてみると,家電製品の出荷動向は,89年度は総じて緩やかな伸びで推移したが,90年度は天候要因によりエアコンの販売が好調であったことなどから,7~9月期以降伸びを高めた。又,乗用車の販売動向を新車新規登録・届出台数でみると,89年度の30.7%増の後,90年度は税制改革に伴う物品税廃止による価格低下効果がほぼ一巡したこと等から6.3%増と増勢は鈍化したものの,堅調な伸びとなった。四半期別の前年同期比の推移をみると,90年4~6月期13.O%増,7~9月期11.8%増,10~12月期:2.8%増,91年1~3月期0.7%減と年度後半から伸びが鈍化している。
次に,全国百貨店販売額をみると89年度7.2%増の後,90年度も9.3%増と好調に推移した。四半期別の前年同期比の推移をみると,90年4~6月期は前年の税制改革の影響の反動もあり,16.6%増となった後,7~9月期9.8%増,10~12月期6.3%増,91年1~3月期6.3%増と年度後半伸びがやや鈍化したものの,好調に推移した。
最後に,レジャー関連の指標を大手旅行業者12社取扱金額でみると,国内旅行は,89年度5.2%増の後,90年度は9.8%増と高い伸びとなった。一方,海外旅行は,89年度13.3%増の後,90年度は5.2%増と伸び率が鈍化した。これは湾岸における武力行使の影響により,91年1~3月期に前年同期比で30.2%減と大きく落ち込んだことによるものである。
当面の消費動向をみると,雇用者所得が着実に増加しており,物価の安定が維持される限り,引き続き堅調に推移するものと考えられる。