平成元年
年次経済報告
平成経済の門出と日本経済の新しい潮流
平成元年8月8日
経済企画庁
我が国の財政事情は,依然極めて厳しい状況が続いており,我が国経済の着実な発展と国民生活の安定・向上を図るためには,財政の改革を強力に推進し,その対応力の回復を図ることが引き続き緊要な課題である。
このような背景の下で,昭和63年度予算は,平成2年度までの間に特例公債依存体質からの脱却と公債依存度の引き下げに努めるという努力目標を達成するため,更に歳出の徹底した見直し,合理化等に取り組むことにより公債発行額を可能な限り縮減するとともに,経済情勢に適切に対処するため,日本電信電話株式会社の株式売払収入の活用等を図ることとして編成された。
このため,一般会計予算においては,既存の制度・施策について,見直しを行うなど経費の徹底した節減合理化に努め,特に経常部門経費については,厳しく抑制し,同時に,一般公共事業費については内外からの内需拡大の要請に配意して,NTT株の売払収入を活用することなどにより,62年度当初予算比19.9%増という高い水準が確保された。この結果,一般会計予算の規模は,56兆6,997億円となり,前年度比で4.8%の増加になった。
主要経費別にみると,経済協力費,防衛関係費等が高い伸びを示した。一方,エネルギー対策費,食糧管理費等が前年度比減少となった。歳入についてみると,63年度の公債発行予定額は8兆8,410億円と,62年度補正後発行予定額から1兆6,980億円の減額を行い,この結果,63年度予算における公債依存度は15.6%となり,前年度当初予算から3.8%ポイント低下した。
〈1〉公共事業の施行状況
63年度上半期における公共事業等の事業施行に関しては,経済が拡大局面にあることをかんがみ,景気の動向に応じて適切な運用を図る(自然体)ことを基本とし,目標とすべき契約率等は設定されながった。
〈2〉63年度補正予算
63年度補正予算が平成元年3月7日成立した。この補正予算は,歳出面において,災害復旧等事業費,給与改善費等特に緊要となった事項等について措置を講ずる一方,歳入面においては,租税及び印紙収入の増収等を見込むとともに,前年度剰余金の受入れを計上し,あわせて公債金の減額を行うことを内容としている。この補正による歳出総額の増加は5兆1,520億円となり,歳入にっいては,租税及び印紙収入3兆160億円の増収を見込むとともに,特例公債を1兆3,800億円減額することとし,その結果公債依存度は12.9%となった。
63年度の財政資金対民間収支は,外為の払超減に加え,一般財政の受超転化もあって,全体では7,312億円の受超となった。この間,国債については,償還額の減少(前年比1兆1,537億円減)にもかかわらず,発行額が税収好調を映じた特例国債減額や借換債の減少から前年度を下回ったため,発行超額は8,280億円(前年度9,482億円)の低水準となった。
〈1〉平成元年度予算
平成元年度予算は平成元年2月8日国会に提出され,4月28日衆議院を通過し,5月28山こ自然成立した。平成元年度予算は,我が国経済が内需中心に拡大を続けていることから,このような時期こそ財政改革の第一段階である平成2年度特例公債依存体質脱却という目標達成に向けて前進することが重要であるという観点から歳出の徹底した見直し,合理化が引き続き行われた。その結果,特例公債発行額は63年度当初予定額に比し1兆8,200億円の減額となり,目標達成に向けて着実に前進した。
(ア)歳入予算
一般会計歳入のうち租税及び印紙収入は,前年度予算額に対し5兆9,200億円(13.1%)増の51兆100億円(消費税収は3兆6,180億円),また,その他収入については,同4,755億円(32.4%)減の9,932億円となると見込まれているほか,国債整理基金特別会計受入金1兆3,000億円(0.0%)を計上している。また,公債発行額は,63年度当初予算比1兆7,300億円減の7兆1,110億円となり,公債依存度は11.8%となった。
(イ)歳出予算
歳出総額は60兆4,142億円で,前年度に比較し3兆7,145億円,6.6%増となった。また,一般歳出(国債費,地方交付税交付金及び産業投資特別会計への繰入れ以外の歳出)の規模は,34兆805億円で,前年度比3.3%増となっている。
主要な経費についてみると,社会保障関係費については,今後の高齢化社会においても安定的かつ有効に機能するように長期的視野に立って制度を築き上げていく観点から,公的年金制度の見通しを行うとともに,在宅福祉施策の拡充等緊要な施策については重点的配慮がなされ,63年度当初予算比4.9%増の10兆8,947億円となった。
公共事業関係費については,我が国経済が拡大局面にあることから,景気を刺激することなく,引き続き内需の持続的拡大に配慮する観点から,NTT株式売却収入の活用を含めて,一般会計において63年度当初予算と同水準を確保し,併せて消費税の影響額を適切に計上することとしたため,63年度当初予算比2.0%増の7兆4,274億円を計上している。
文教及び科学振興費については,教職員定数改善,文教関係施設の整備,私学助成の推進等を図ることとし,63年度当初予算に対し790億円,1.6%増の4兆9,371億円を計上している。
また,厳しい財政事情の下にあって,63年6月に策定された政府開発援助(ODA)についての第4次中期目標を踏まえ,一般会計政府開発援助予算については,63年度当初予算比7.8%増の7,557億円,経済協力費については,同6.7%増の7,278億円を計上している。
〈2〉平成元年度財政投融資計画
元年度財政投融資計画の策定に当たっては,内需の持続的拡大に配意しつつ,社会資本の整備,地域の活性化,資金還流措置の推進など政策的な必要性を踏まえ,また資金需要の実態を勘案し,重点的・効率的な資源配分を行うこととされた。この結果,元年度財政投融資計画の規模は,63年度計画に比較し2兆6,565億円(9.0%増)の32兆2,705億円となっている。このうち,郵便貯金特別会計,年金福祉事業団及び簡易保険郵便年金福祉事業団の資金運用事業に対する融資5兆9,300億円を除いた規模は63年度計画比3.9%増の26兆3,405億円となっている。
資金配分については,国民生活の向上と国民経済の発展に資する見地から,住宅,生活環境整備,中小企業等に重点的に配意することとしている。また,地方財政の円滑な運営に資するため,地方債に充てる資金運用部資金及び簡保資金について所要額を確保することとしている。
元年度財政融資計画の原資としてほ,63年度計画額に比較し1兆4,565億円,4.4%増の34兆5,705億円を計上している。このうち,32兆2,705億円については,63年度財政投融資計画の原資に,また,2兆3,000億円については,元年度において発行される国債の引受けにあてることとしている。
〈3〉元年度地方財政計画
元年度の地方財政計画は,引き続き厳しい地方財政の状況に鑑み,おおむね国と同一の基調により節度ある行財政運営を行うことを基本として策定された。すなわち,歳入面においては,地方債の抑制に努めるとともに,地方税負担の公平適正化を推進し,地方税源の充実と地方交付税の所要額の確保を図ることとし,また,歳出面においては,経費全般について徹底した節減合理化を図るとともに,生活関連施設等の整備と地域の特性を生かした個性豊かで魅力ある地域づくり・ふるさとづくりを推進するため必要な地方単独事業費の確保に配意する等限られた財源の重点的配分と経費支出の効率化が進められた。
元年度の地方財政計画の総額は62兆7,727億円であり,前年度に比較し4兆9,529億円,8.6%の増加となっている。