昭和60年

年次経済報告

新しい成長とその課題

昭和60年8月15日

経済企画庁


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第2章 新しい成長の時代

第3節 情報化の進展と設備投資

新しい成長を支える第1の柱は,情報・通信技術の革新に支えられた情報化の進展である。もちろん,情報化は長期の傾向ではあるが,ここ数年のコンピュータの応用による情報処理技術,通信技術等の技術革新により,急速に進展することとなった。また,60年4月に電気通信関連の改正法が施行されたことも,我が国を高度情報社会に向かって大きく一歩進めることとなった。

高度情報社会の進展は,経済社会のあらゆる分野に変革をもたらす。一例を挙げれば,第3章で扱う高齢化社会における負担増の問題に対しても,情報化による高齢者のケアや能力発揮の場の充実拡大は,問題を軽減することに貢献するであろう。ただ,家計部門や社会的サービス部門が情報・通信技術をフルに活用し,高度情報社会をリードするに至るまでにはなお若干の時間を要しよう。ここでは,現在最も目覚ましく情報化の進んでいる,企業部門,産業部門の情報化の現状を見,またそれが今後の設備投資需要をリードすることによって需要面から成長を支えるものであることを示すこととしよう。

高度情報社会の進展は大きな流れではあるが,政策的にも,引き続き市場機構の整備を図り,活発な競争に裏打ちされて民間活力が最大限に発揮されるような環境作りが必要である。60年度から電電公社が民営化され,また民間企業による国内電気通信事業への参入の途が開けたことは,こうした環境を整備するものであり,今後自由な競争を確保するよう法制の適切な運用が図られる必要がある。他方,高度情報社会に向けての,人々のプライバシー保護等への不安や不満,災害等に対する脆弱性などの問題点を除去すべく努力することも,公的部門の大きな役割である。

1 情報化の進展

(情報化の諸段階)

産業サイドからみた情報化は,二つの側面を持っている。一つは,産業・企業が自らを効率化し,経費を節減し,また新たなニーズに対応していくために,独自に,あるいは関連部門と共同して,新しい情報・通信技術を導入し,活用するものである。これを産業の情報化と呼ぼう。もう一つは,情報化のニーズの高まりによって,従来市場化が十分行われていなかった分野に新たな産業が起こり,また既存産業の業際化が情報を核として進むことを示す。これを情報の産業化と呼ぼう。まず,産業の情報化を中心に述べ,後に情報の産業化について述べることとする。

産業の情報化は,近年あらゆる産業・業種において積極的に推進されている。

第1に,OA(オフィス・オートメーション),FA(ファクトリー・オートメーション)など,個々の業務へのマイクロ・エレクトロニクス応用機器の導入・自動化,第2に,企業内外とのオンライン・ネットワークシステムの構築,などの形をとっている。後者は,さらに,①企業内ネットワーク,②生産・流通ラインのネットワーク,③業界内ネットワーク・異業種間ネットワーク,④産業と社会・家庭を結ぶ広汎なネットワーク,といった段階がある。現状では,②,③といった段階のネットワーク化が検討も含め精力的に進められる一方,④の段階のネットワーク化が次第に具体化しつつある。

(電子応用製品の生産の伸び)

まず,情報化のハード面の基礎となる電子応用製品の生産のここ数年の生産動向をみると,IC(集積回路)などの電子応用部品や,産業用ロボット,E CR(電子式金銭登録機),ファクシミリ,NC工作機械,電子計算機などのO A・FA機器を中心に,電子応用製品は鉱工業生産全体の伸びを大幅に上回る高い伸びを示している。

電子応用製品の生産増,速度・精度・容量などの機能面や価格面での飛躍的な発展の基礎となり,情報化「革命」の立役者となっているのが,わずか数ミリの物体,IC(集積回路)である。ICは,新しい「産業の米」として,時計,計算機,事務機器等の産業に革命的変化をたらしたほか,他の広汎な産業に大きな影響を与えている。

まず,IC産業自体が急速な拡大を示している。ICの生産額は50年の1,176億円から59年には1兆9,739億円と,2兆円産業に成長した。しかもこの間,ICのビット当たり単価は,46年から59年の間に264分の1になったと試算される。このようなICの価格低下は,産業の情報化を推し進める一因となった。

次にICを中心とする半導体素子,集積回路が部品として投入される産業を産業連関表によってみると( 第2-17図 ),電子計算機,事務用機械,通信機械,家電製品など極めて多種多様な分野にわたっている。さらに,電算機等を経て,工作機械,自動車などに部品として流れ込んでいる。そしてこれら製品の性能の高度化,新たな用途の開発などに大きく貢献している。

こうした川下産業への影響の広がりとともに,IC産業に資材を供給する川上産業に対する影響も大きい。これらは素材産業が中心であり,ともすれば成熟産業と考えられる分野である。しかしICの生産の増加と不断に高度化する技術的要請は,川上産業での研究開発と活発な企業間競争を呼び起こしている。

例えば,現在ICはシリコンを原料とするものが主流を占めているが,より高性能の半導体素子,ICを開発すべくガリウムひ素等の素材研究がエレクトロニクス産業のみならず化学産業等において活発化している。こうして,ICの生産は成熟産業に新たな活性化の風を吹き込みつつある。

ICの価格低下も大きな要因となって,コンピュータ技術の進歩による低価格化,小型化,性能の向上が進んだことも,産業の情報化に欠かせない条件であった。電子計算機1セット当たり平均価格は52年の6千万円から59年の4千万円へと緩やかに低下しているが,性能の向上を考慮すると価格の低下はもっと顕著である。例えば49年時点での平均的性能の機種は59年には49年当時の価格の15分の1になっていたと試算される。すなわち,同一性能のコンピュータを想定すれば,価格は10年で15分の1に低下したことになる。このようなコンピュータ価格の低下が情報処理の低価格化につながり,情報の相対価格低下が産業の情報化を進展させている。

(OA・FA機器の導入企業)

産業の情報化の第1の動きは,電子応用機器の導入である。

企業のOA化,FA化は急速に進展している。まず,59年度中小企業白書及び労働省「技術革新と労働に関する調査」(57年11月及び58年11月実施)から企業のOA・FA機器導入の動機をみると,合理化,効率化等が最も大きいが,続いて情報処理の高度化,迅速化,品質・精度の向上等,業務の質の向上が挙げられている。また,OA化・FA化とも,人員増抑制,人員削減あるいは人手不足への対処といった,労働コストの圧縮や稀少な熟練労働力の節約を目的とするケースもある(この点については本章第6節で述べる)。このほか,省資源・省エネルギーや職場環境・労働条件の改善,災害防止などにも貢献している。

OA機器,FA機器の導入状況は,業種ごとに様々である。製造業について,代表的なOA・FA機器としてコンピュータ(汎用,オフコン,ミニコンの合計),NC工作機械,産業用ロボットの三つをとると,コンピュータは電気機械,輸送機械,鉄鋼などの業種に,NC工作機械は一般機械,輸送機械,非鉄金属・金属製品などの業種に,産業用ロボットは輸送機械,電気機械,化学などの業種に,多く導入されている。これら3種類の機器の従業者1人当たりのストックを業種別にみると( 第2-18図 ),電気機械が最も高く,一般機械,輸送機械という順で続く。ただ,例えばロボットをみると,従来はほとんど導入が進んでいなかった食料品・たばこ,パルプ・紙などでも近年高い伸びを見せているように,確実に導入産業の裾野が広がっている。

さらに,コンピュータ・グラフィック・システムの発達に伴い,CAD(Com-puter Aided Design)技術が急速な進歩を示している。

(企業のオンライン化の動き)

産業の情報化の第2の動きは,オンライン・ネットワーク化による企業における情報の処理の進展である。最近では,コンピュータ導入企業の57%は何らかのオンライン化を実施しており,非製造業に限っても,この比率は53%に達している(通産省「情報処理実態調査」(57年度)による)。オンライン化は,事業所内のネットワーク化に始まって,工場,支店・営業所,店舗,配送センター・倉庫等と広がっていき,さらには企業間ネットワークへと拡大している。

企業間ネットワークの中では,販売・仕入先,親企業と下請企業等の間をつなぎ,在庫管理,受発注の効率化とともに取引先の確保を図るものが多いが,金融機関,運輸業者,さらにはデータベース業や情報処理サービス業との接続など,異業種間オンラインも目立っている。

企業がオンライン・ネットワークシステムを企業内あるいは企業間で構築しようとする動機は,一言で言えば,事務処理や情報伝達の効率化,迅速化であるが,具体的には様々の目的を持っている。そのいくつかを挙げてみよう。

第1は,在庫や発注・受注管理の合理化である。これは従来ともすれば担当者のカンや経験に頼っていたものであり,製造業の企業内ネットワーク構築の理由として特に重要である。また百貨店・スーパー等におけるPOS(販売時点情報管理システム)の導入もこの例である。

第2は,輸送の効率化である。これは企業内,企業間を問わず広くネットワーク化の目的となるものであるが,とくに流通業・物流業において,後述のいわゆるVANを用いたネットワーク化が急速に進展していることが注目される。

宅配便事業については,ネットワーク化が必要不可欠なものとなっている。いわゆる中小企業VANの78%は物流関係業務に活用されている。

第3は,業際間のネットワークシステム構築による新たなサービスの提供である。とくに,非製造業では,例えば銀行業,証券業,小売業,クレジット産業等の業際化や,運送業と倉庫業のタイアップ等の注目すべき動きをもたらしており,既存の産業間の結びつき方に変化をもたらす動因ともなり得るものである。

このほかにも,企業内の経営管理の効率化,取引先の確保や円滑な関係の維持等様々な目的のために,ネットワーク化が進んでいる。

こうしたオンライン・ネットワーク化に加え,1社当たりのコンピュータ台数や情報要員の総従業者比率等の情報処理関連指標を用いて多変量解析を行い,産業別の情報化指標を試算した( 第2-19図 )。図の横軸は,情報処理費用比率にオンライン化,コンピュータ化というハード面を加えた情報化の指標,縦軸は情報処理費用比率を除き代わりに情報処理への企業の人的投入を加えた指標と解される。これによると,製造業では電気機械,鉄鋼業等において情報化が特に進んでいると言えるが,近年,印刷・出版,食料品・たばこ等の伸びにも注目すべきものがある。これは,印刷については,電算写植等の新技術の導入を反映したものであり,食料品製造業についてはロボットの導入などの合理化や多品種にわたる製品のコンピュータによる在庫管理,販売店とメーカー間のオンラインによる受発注の推進などの動きを反映したものである。非製造業においても,多くの産業において急速な情報化の進展にみられる。また,グラフの方向が縦に伸びていることから,事業収入に占める情報処理費用比率をそれほど増やさずに,人を投入する形で情報化が進展していることが分かる。

(家庭・社会の情報化)

家庭や社会での情報化についても触れておこう。家庭における情報化のうち,家庭内の単体の機器のME(マイクロ・エレクトロニクス)化は,マイコン付き省エネ型家電製品やテレビゲームなど,幅広く普及しているものも多い。また,家庭内でホームコンピュータを用いた機器の一元的制御,外部情報メディアの接続など,ホーム・オートメーションについては,今後の発展が期待されている。

コミュニティでのサービスの情報化,オンライン化も,今後高度情報化の波が押し寄せると予想される分野である。そこで,情報・通信を用いた家庭・コミュニティ関連サービスについての人々のニーズと,それが2000年にどの程度普及すると予想しているかを,消費者及び実務家・有識者に聞いた調査結果をみると(経済企画庁委託調査「高度情報社会のインパクトに関するデルファイ調査及び高度情報社会実現のために必要とされる計画的誘導手法の研究」60年3月),現在のニーズは,個人生活関連では予約など,社会サービス関連では教育,医療,高齢者の安全,住環境の保全,交通管制などで特に高いことが分かる。一方,2000年においては,個人生活においてはカタログ販売,買物,予約等,キャッシュレスなどが高い普及率となると予測されている一方,社会的サービスにおいては,教育,医療,高齢者の安全,住環境の保全,交通管制などが比較的高い普及率となるとの予測であった。すなわち,個人生活関連においては,現在のニーズを上回るサービスが将来供給されると見られる傾向があるのに対し,社会サービス分野は概ねニーズに対応して情報化が進むことが期待されているわけである。情報技術の進歩が高齢者の安全・健康ケアも含め治療技術の画期的な改善に結びつけば,高齢化社会における医療費負担を軽減する要因になることが期待できよう。また,在宅勤務,生涯教育サービス等が普及することになれば,高齢者にとっても自らの能力と活力を発揮する可能性を高め,ひいては現役世代の負担増を軽減する余地を拡大することが期待できるのではなかろうか。

(新たな産業の創出)

産業部門における情報化は,前述のように産業の情報化とともに情報の産業化をもたらす。すなわち,既存企業の情報部門が発展するだけでなく,情報サービス業をはじめ,新たな需要に対応する新たな産業を生み出す。ここでは,その代表例として,ソフトウェア業といわゆるVAN業(alueAddedNet-work)を採り上げることとする。

① ソフトウェア業の急拡大

情報化の進展は,コンピュータ・端末機器・光ファイバー等の需要を急拡大させるとともに,それに必要なソフトウェア需要を拡大させている( 第2-20図 )。もともとソフトウェアはコンピュータを動かす上でなくてはならないものであり,旧来は製造メーカーが開発していたが,ソフトウェア開発とコンピュータ生産の就労形態が大きく異なることや,特に優れたソフトウェアの生産のためにはかなり高度の専門的知識を必要とすることなどから,親企業からの情報部門の分離も含め,次第に独立のソフトウェア業者が増加した。ソフトウェアの売上げの伸びは,世界的に年率3割を上回る。また,アメリカが全世界の売上の約7割を占めていると言われる。

我が国の情報サービス業は,50年ころまでは事務計算,カードパンチ等が中心であったが,最近になってソフトウェア開発,プログラム作成業務が急成長してきた。54年から59年までの売上成長率は年率31.8%に及んでいる。コンピュータ価格が低下し導入企業が増える中で,かつてのような計算業務は相対的に企業内部での対応が進んでいる。これに対し,専門技術・知識を要するソフトウェア開発は外注化する傾向が進んでおり,こうした傾向は今後も一層急速に進展していこう。

この場合,問題はむしろ必要な人材の確保にかかっている。この問題については,65年度の必要技術者160万人に対し,不足技術者数は60万人に上るという事態が予想されており(通産省試算),専門的知識と技術を身につけた技術者を確保することは緊急の課題である。その養成については,今後技術の高度化が急速に進展していく中で,質及び量の両面からの慎重な検討が必要である。

② いわゆるVAN業の展開と他産業への影響

次に,いわゆるVAN業(Value Added Network)を取り上げてみょう。

我が国でいういわゆるVANの基本サービスについては,通信処理手順が異なるためそのままでは通信できない異機種コンピュータ間の通信を可能にしたり,同時に多数の相手先との通信を実現する等のサービスと考えられているが,多種多様なサービスの発展が見込まれている。

流通業などを中心に,消費者の需要の多様化,嗜好の変化への迅速な対応というニーズが強まった一方,供給面では情報関連技術の進歩によるコスト低下が進んだ。こうした需給両面の変化が合致し,制度的にもデータ回線が他人の用に供するために利用できるようになったところに,新しい産業が発展する基盤があった。

いわゆるVANの利用者は今まで中小企業が大部分であり,またその多くは流通業者であった。これは,いわゆる中小企業VANの自由化が暫定的に認められたためでもあるが,自企業内に大型コンピュータを持つたり,ソフトウェアを開発する能力のない中小企業が,いわゆるVANを利用することによって需要の動向を迅速に把握するとともに決算などの処理も依頼できるなど,中小企業の経営力を向上させる上で大きなよりどころとなっていることから,需要が急増したものである。制度発足当初わずか4社だったいわゆる中小企業VA Nは,旧公衆電気通信法の下で100社近くまで増加しており,そのうち85社が60年4月1日の電気通信事業法施行に伴い一般第二種電気通信事業者とみなされ,新規届出も加わり更に増加を続けている。また,大規模なネットワークを使いサービスを提供する特別第二種電気通信事業者も数社登録を行った。また,大企業者のいわゆるVAN利用もかなり出てきておりまた今後増加すると考えられる。

経済企画庁の委託調査(「高度情報化社会に関する企業・有識者調査」60年3月)では,ネットワーク構築の方法として,従業員2,000人未満の企業では37%がいわゆるVAN業者等のサービスを買うとしている。ネットワーク構築の適切さやそれによって得られる情報の正確さ等は企業経営の根幹に関わるものであるが,こうした企業の将来を左右しかねない重要な事項についても,外部からの購入によるとするものが,特に中小企業で多い。この点は,中小企業の側における人材の育成等の対応策の重要性を示唆していると言える。

60年4月の電気通信事業法の施行により,いわゆるVAN業は本格的に民間に開放された。これにより,産業の効率化と新産業の発展に向けての体制整備の第一歩が印されたと評価できよう。

(雇用の創出)

産業における情報化は,OA機器,FA機器などを見る限り導入分野においては労働と代替関係にある面もあるが,他方では上に述べたような新たな産業を作り出すことにより,新たな雇用をつくり出す。OA・FA機器・電子関連の製造業に,情報サービス業,さらにOA・FA機器の取扱高が高いリース業を加え,その規模をみると,売上高の名目GNP比は49年の6.3%から58年の10.1%へ,従業員数の全就業者数に占める割合は同1.8%から2.4%へと増加している。なお,視点を変えて,全産業ベースで情報活動に従事する雇用者( )のウェイトは,経済企画庁調査(59年度経済企画庁委託調査「情報化が経済成長に与える影響及び情報化の総合指標に関する調査」)によれば55年に既に全雇用者の36%に達している。

このように,情報の産業化は,産業の情報化とあいまってOA化・FA化による労働生産性の向上によって生じる余剰労働力を吸収することにより,雇用の安定化に資している面もあると考えられる。特に,ソフトウエアは,情報の塊であるとともに人件費の塊であり,先に述べたソフトウエア技術者の不足と併せて考えると,今後,高度の専門知識を持った者の雇用の場が情報分野から提供される傾向は,ますます強まってこよう。

2 情報化と設備投資

(情報化関連設備投資の動向)

第1章でみたように,最近の設備投資の盛り上がりは,情報化関連投資をはじめとするハイテク関連投資によってもたらされたものである。今後の「新しい成長の時代」においても,設備投資を担うのはこれらハイテク分野であり,これが経済成長をリードするものと期待される。ここでは,情報化関連投資がどの程度の規模になっているかを,次のような面から見ることとする。一つは,生産された電子応用機械設備がどれだけ設備投資されたか,二つは,情報関連機器製造部門での設備投資動向,三つは,情報・通信部門での設備投資動向である。

(OA・FA機器の設備投資動向)

第1の,電子応用機械設備の投資動向を見るため,OA・FA機器の国内向け出荷(出荷額に輸入額を加え,輸出額を除いた金額)を国内設備投資額と考えると,59年には4兆9千億円,民間設備投資に占める比率が11%となっている( 第2-21図 )。59年の増加額は9千億円で,設備投資増加額4兆円の2割強に達する。OA・FA機器への設備投資の設備投資に占めるシェアは,49年の8.4%から59年の11.0%へと上昇率は比較的緩やかであるが,これは名目値のためであり,既に述べたコンピュータ価格低下などをみても,実質では伸びは非常に高いと思われる。なお,アメリカにおいても,事務用機器・店舗用機器・通信設備への設備投資の総投資額に占める比率(名目)は1974年の10.2%から1984年には16.3%へと上昇しており,電子応用機器に対する設備投資の増加が目立っている。

今後のOA・FA機器の導入についても,企業は極めて積極的である。経済企画庁「企業行動に対するアンケート調査」(60年1月実施)によれば,主要なOA・FA機器について,機種による違いはあるものの,6割~9割近くの企業が導入ないし増設を予定している( 第2-22表 )。

(OA・FA機器製造部門での設備投資)

第2に,上記のOA・FA機器の需要増は,それら機器やシステムを供給する産業での生産能力増強投資,合理化・省力化投資,研究開発投資を呼び起こす。通商産業省「主要産業の設備投資計画」(60年2月調査)により,電気機器産業の設備投資についてみると( 第2-23図① ),53年度から59年度(実績見込み)までの間に設備投資額は約5倍に増加しているが,その中でも電子部品のための投資が58,59年度に大幅にシェアを高めているほか,電子計算機もシェアを高めている。また,試験研究のための投資も堅調である。次に,産業機械についてみると( 第2-23図② ),事務機械のための投資の全設備投資に対するシェアは58年度26.2%から60年度(計画)33.8%へ,産業用ロボット同5.9%から12.0%へとそれぞれ高まっており,ハイテク部門のウェイトの高まりを示している。なお,リース産業を通じた設備投資が拡大しているが,この中にも情報化関連機器のウェイトは高い。

OA・FA機器をはじめとする情報化関連機器製造のための設備投資の今後を占うには,これら機器の将来需要がどう見込まれるかが重要であるが,総じて高い伸びが予想されている。例えば,日本機械輸出組合が行った「次世代産業技術の展望等に関する調査」(60年5月)によると,電子・情報分野関連生産額の規模は1984年の約13兆円に対し,1990年には約30兆円(航空,宇宙,新素材,バイオテクノロジー等の6分野を含めた合計では37兆円,GNPの約10%)に達すると見込まれている。

(情報・通信部門での設備投資)

第3に,高度情報社会においては情報・通信部門での設備投資も大幅なものになるとみられる。この分野で設備投資の大部分を占めるのは第一種電気通信事業者によるものである。ちなみに,旧電電公社は59年度には1兆7,100億円の建設投資を予算として計上している。この大部分は在来型の電話系の投資であるが,ディジタル・非電話系( )投資額だけで59年度は3,784億円となっている。今後,さらにこの分野での新規参入が本格化すれば,更に大幅な設備投資増を見込むことができよう。

また,情報サービス業(ソフトウェア業,情報処理サービス業,情報提供サービス業等)の設備投資額は,58年において機械装置259億円,構築物等311億円,計570億円と,コンピュータが通常はレンタル・リース等で導入されることもあって投資規模は比較的小さい(通産省「特定サービス産業実態調査」による)。

(ソフトウェア蓄積の重要性)

以上のように,情報化関連投資は現在まで順調に伸びてきており,今後も中期的に根強い動きを示すとみられる。ただ,情報化関連投資等は,資本節約的であり,設備投資総額としては比較的小規模なものにとどまるのではないかとの指摘がある。しかし,これら分野は,同時に研究開発等による技術知識の蓄積が盛んに行われている分野である。また,先に述べたように,ソフトウェアの開発・蓄積はこの分野では極めて重要であり,これらソフト面の蓄積も含んで投資を考えなければならない。仮に,ソフトウェア開発,プログラム作成活動金額を企業の設備投資と考えるならば,その額は59年には4兆7,010億円,GNPベースの民間企業設備投資額の10.5%(49年2.3%)に相当する。さらに,研究開発による知識を広い意味でのソフトと考え,ソフトウェア開発・プログラム作成活動金額に有形固定資産を除いた研究開発投資を加えてみると,昭和58年には7兆1,990億円と,GNPベースの民間企業設備投資額の17.7%(49年10.5%)に達している。

(情報化投資は設備投資をリードできるか)

以上述べたように,情報化関連の設備投資は最近の設備投資増加の中でも大きな役割を果たしており,今後も設備投資へのニーズは根強いとみられる。ところで,第1章でも検討したように,58年後半からの設備投資の伸びは,輸出の伸びにリードされて出てきた面がある。60年に入って輸出が鈍化傾向となり,これが我が国の設備投資に及ぼす影響が懸念されるところであるが,次のような点から,情報化関連投資は景気の停滞ないし下降期にも余り低下せず,安定的に動くことが期待される。

その第1は,前述の情報化関連機器導入の設備投資需要である。 第2-21図 (前掲)にも見たように,OA・FA機器の国内向け出荷は,50年代には名目で年々増加を続けており,景気下降期にも,伸びはやや緩やかになっても,増加傾向は変わっていない。価格の低下傾向からみて,実質設備投資の伸びはもっと高いものとみられる。今後についても, 第2-22表 (前掲)で見たように,今後の企業によるこれら機器の導入意欲は強いと見るべきであろう。

第2は,情報化関連機器製造部門による設備投資であるが,これも,前にみたように,中長期的に情報化関連機器の市場の発展性が見込まれており,またこの将来市場の中でより大きな主導権をとるべく激しい企業間競争が展開されているところから,企業は当面の需給状況だけでなく,より長期をにらんだ投資戦略を立てているとみられ,ある程度景気の変動から独立した安定的な設備投資を行うことが期待される。

ちなみに,当庁「企業行動に対するアンケート調査」(60年1月実施)によれば,企業が設備投資決定に当たり,過去3年程度にわたって考慮した要因と今後3年程度にわたり考慮する要因を比較すると,現下の需要の動向を反映していると見られる「既存設備の稼動状況」を考慮する企業は,製造業では過去については46%あったが,今後については23%と大幅に減っている。これに対し,「技術革新への対応」が51%から69%へと著増しており,また技術革新が一つのきっかけとなるとみられる「多角化」も9%から18%へと倍増している。これらの結果は,企業が設備投資の決定に当たって,今後中期的に,目先の需給動向よりも,技術革新への対応や企業の多角化など,長期の企業戦略に従って投資を行う傾向を強めようとしていることを示すものである。