昭和60年

年次経済報告

新しい成長とその課題

昭和60年8月15日

経済企画庁


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第1章 昭和59年度の日本経済

第6節 財政金融政策の動向

1 金融政策の動向

金融政策は,55年8月以降量的には緩和基調で運営されてきた。59年度に入ってもこの基調は維持され,全国銀行貸出残高増加額は,58年度11.4%増の後,59年度も12.9%増と高い伸びとなった。企業サイドでも,景気の回復・拡大を反映して,中小企業の設備資金,運転資金を中心に資金需要は拡大している。

(長期金利の動向)

長期金利は,59年度前半に,米国の長期金利が財政赤字と設備投資の活発化等によって上昇したため,一時的に下げ止まった。

しかし,その後,米国の長期金利は,物価の安定,成長減速やマネーサプライの落ち着きを反映して急落し,我が国の長期金利も秋口以降低下傾向となった。

このように,我が国の長期金利は,米国の長期金利に対応した動きを示した。

これには,金融の自由化及び円の国際化の進展により,金利を通じた円資産とドル資産の裁定が活発化したことも寄与しているものと思われる。

以上の点に関連して,アメリカの長期実質金利,日本の短期実質金利が,日本の長期実質金利に及ぼした影響について,多変量時系列モデルを用いて分析してみる。( )

アメリカの長期実質金利,日本の長期実質金利,日本の短期実質金利からなる3変数の自己回帰モデルを,54年1月から59年12月のデータで計測した上で,①アメリカの長期実質金利が1%上昇した場合,②日本の短期実質金利が1%上昇した場合,に各変数に与える影響をシミュレーションしてみたのが, 第1-42図 である。これによれば,アメリカの長期金利が独立に1%上昇した場合,日本の長期実質金利に及ぼす影響は,日本の短期実質金利が1%独立に上昇した場合に比べて,大きなものであることが分かる。

(短期金利の動向)

短期金利は,58年10月の公定歩合引下げ後,安定的に推移している。この水準を過去の金融緩和期に比べると相対的に高い水準にあるとも言えるが,その要因としては,景気拡大に伴う資金需要の活発化を反映したことや日本銀行が景気,物価動向に加え為替レートに配慮した政策運営を行ってきたこと等によるものと考えられる。

これに関連して,変動相場制移行後におけるコール・レート誘導の要因分析を行ってみたのが 第1-43図① である。ここでは物価の有意性が高いことに加え,実質為替レート(名目為替レートと通貨当局が想定する均衡レートとしての購買力平価レートとの乖離を示す代理変数)及び経常収支の有意性が高くなっている。一方,有効需要は有意でない。このことから,日本銀行が物価安定を基本としつつ,為替相場にも配慮した政策運営を行っていることがうかがえる。

(マネーサプライの動向)

マネーサプライM 2 +CD平残前年比伸び率)は,58年度7.5%の後,59年度に入っても7%台後半から8%台前半と,安定した伸びを示し,年度ベースでみると,7.8%となった。これは景気の回復・拡大に伴う資金需要の高まりを映じて,法人預金通貨・準通貨やCDの伸びの寄与が大きくなったためである。

これに関連してマーシャルのkの推移をみると( 第1-43図② ),金融緩和を反映してこのところかなり上昇トしンドにある。しかし金融資産間のシフトの影響を除去するため,試みに通貨のユーザーコストを勘案したフイツシャー指数によるマネーサプライ指標を作成し,マーシャルのkを計測してみると,その上昇テンポは緩やかなものとなっており,水準でみても前回緩和期並みとなっている。従って,マネーサプライは適切な水準に維持されているとみることができよう。

2 金融の自由化・国際化と金融市場

(金融の自由化・国際化の状況)

近年の金融の自由化・国際化の進展については59年度年次経済報告で詳細に分析したところであるが,その後の動向をみても,いくつかの自由化措置が講じられる等,進展をみせている。即ち,国際金融取引面では,ユーロ円貸付,ユーロ円債,ユーロ円CDの規制緩和や円転規制の撤廃措置を行い,また,内外資本交流の面でも自由化が進められた。一方国内金融・資本市場についても,MMC(市場金利連動型預金)の取扱開始,CD(譲渡性預金)の小口化・短期化等の自由化措置に加え,本年6月から円建BA(銀行引受手形)市場が創設された。

(金融の国際化と国際金融取引)

金融の自由化,国際化の影響を国際金融取引面でみると,まずユーロ円市場の拡大を挙げることができる。すなわち,ユーロ円債の発行は,58年においては米ドル換算で2億ドル,ユーロ債合計の0.4%であったが,59年には同12億ドル,同1.5%へと増大している。

次に,居住者の対外投資については,内外金利差の拡大を主因に証券投資が拡大しているのに加え,①本邦為銀による円建対外貸付の自由化,②円建外債の発行運営ルールの弾力化により活発な動きを示している。中でも円建対外貸付については,59年7月前後,金利先高感等もあって先進国向けに多額の実行が行われた。また対外直接投資についても,我が国製造業が海外からの部品調達や現地生産を引き続き拡大したことに加え金融の国際化に対応した金融機関の大口案件があい次いだこともあってかなりの規模に上った。

これらに対して外国資本の動向を対内証券投資でみると,外債については本邦企業によるスイス市場における転換社債を中心に,発行が活発であり,流通市場においても株式,債券ともに,外人投資家のウェイトが増してきている。

なお,59年中は総じて株価が高水準であること9円安傾向が見込まれたこと等を背景に外人投資家の株式の処分超傾向が続いた。

(金融の自由化と金融・資本市場)

一方,国内金融市場の動向をみると,短期金融市場における円転規制撤廃の影響と,資本市場における転換社債発行の増加が目立った。

まず円転規制(直物外国為替持高規制)の影響をみると,59年6月の撤廃措置以来,ユーロ円市場と国内短期金融市場及び国内短期金融市場間の金利裁定取引がより円滑化されたものと考えられる。すなわち,円転規制(直物外国為替持高規制)の撤廃の結果として,円転( )が自由化されたため,より多くの為銀がインターバンク市場を勘案しつつ,ユーロ円市場経由の資金調達をより大幅に行うようになった。この結果,ユーロ円市場とインターバンク市場との裁定が一段と働きやすくなり,ユーロ円レートはインターバンクレートに見合った形で安定的に推移するようになった。

第1-44図 は,ユーロ円レートとコールレートの関係を,円転規制の撤廃の前後について検討したものであるが,これをみると,円転規制撤廃以前は,双方の金利の間に,かなりの乖離があり,また動きも食違ったものとなっていたのに対し,撤廃以降について,これらの乖離が,より小さなものとなっていることが分かる。

つぎに,資本市場における転換社債発行の増加については,59年度について,転換社債については,国内転換社債の発行額は1兆6,115億円,前年度比87.2%増となった。また,51年度以降海外転換社債の発行が国内転換社債の発行額を上回っていたが,59年度はこれが逆転している。

国内転換社債増加の要因は,①基準金利引下げ及び条件決定方式の弾力化,②株式市場の活況を背景とした新発債の順調な消化,③国内流通市場の拡大,④59年4月の無担保適債基準の緩和などであったと考えられる。

3 財政政策の動向

(財政政策の推移)

近年においては,厳しい財政事情の下で,財政の改革を強力に推進し,その対応力の回復を図る努力が続けられている。59年度予算は,このような観点から,一般歳出(一般会計歳出から国債費,地方交付税交付金を除いた部分)を前年度比マイナス0.1%に抑えるとともに,一般会計の歳出規模は0.5%増と昭和30年度以来の低い伸びに抑制された。また,地方財政計画においてもおおむね国と同一の基調に立ち,経費全般についてその抑制が徹底して行われた。

こうした中で一般会計公共事業関係費は,前年度比2.0%減となったが,財政投融資等の活用により一般公共事業の事業費としては前年度を上回る水準を確保することとなった。また上半期における公共事業等の事業施行等については,内需の振興に資するような執行を行うこととし,景気の動向に応じて機動的・弾力的な施行を推進するとともに,景気回復の遅れている地域においては必要に応じ施行の促進を図ることが決定された。

なお,GNPベースの公的固定資本形成(実質)は,59年度全体では1.2%減となった。

(厳しく編成された60年度予算)

60年度予算も,引き続き財政の改革を強力に推進し,その対応力の回復を図るという見地から厳しく編成された。即ち,特に,歳出面において,経費の徹底した節減合理化を行うことを基本として,その規模を厳しく抑制しつつ,限られた財源の中で質的な充実に配意することとし,併せて,歳入面においても,その見直しを行い,これにより,公債発行額を可能な限り縮減することとしている。

この結果,一般歳出の規模は3年連続して対前年度減額となり,一般会計歳出の規模も,前年度3.7%増に抑制された。こうした中でも,補助金等については,すべてこれを洗い直し,徹底した整理合理化を積極的に進めるとともに,その総額を厳しく圧縮することとされた。また,地方財政計画においてもおおむね国と同一の基調にたち,経費全般についてその抑制が徹底して行われた。

公共事業関係費についても,我が国財政を取り巻く環境が極めて厳しいことにかんがみ,その規模を極力圧縮することとし,一般会計では2.3%減とマイナスとされているが,国民生活充実の基盤となる社会資本の整備を推進し,また,経済の持続的拡大に資するため,種々の工夫を行い,一般公共事業の事業費としては前年度を上回る水準(前年度比3.7%増)を確保することとなった。

また,上半期における公共事業等の事業施行については,景気の動向に応じて機動的・弾力的な運用を図るとともに,各地域の経済情勢に即した適切な施行を行うよう配慮するものとされた。

歳入面においては,最近における社会経済情勢と現下の厳しい財政事情に顧み,税負担の公平化,適正化を一層推進する観点から,貸倒引当金の法定繰入率の引下げ,公益法人等及び協同組合等の軽減税率の引上げ,利子・配当等の課税の適正化,租税特別措置の整理合理化等を行うとともに,基盤技術研究開発の促進,中小企業技術基盤の強化等に資するため所要の措置が講じられている。これらの税制改正の結果,60年度予算においては,初年度3,160億円,平年度ベース2,140億円の増収が見込まれている。

4 行政改革の推進

(行政改革の推進)

臨時行政調査会の五次にわたる答申を受けて,政府は,内外の環境変化の中で,国・地方を通ずる機構,制度及び施策の全般にわたり,その根本にまで遡った改革・見直しに本格的に着手した。58年12月に召集された第101回特別国会においては,電電公社及び専売公社の改革,年金制度及び医療保険制度の改革,特殊法人等の統廃合等の行政改革関連法案が提出され,同国会及びこれに続く第102回国会において成立に至った。

上記のうち,年金制度及び医療保険制度については,第3章で詳しく論ずることとし,以下では電電公社及び専売公社の改革について概観し,あわせて,国鉄の事業再建への取組みについて論ずることとしよう。

(公社制度の改革)

電電公社については,59年12月20日に成立した電気通信改革3法(印本電信電話株式会社法」,「電気通信事業法」及び「日本電信電話株式会社法及び電気通信事業法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」)により,60年4月1日以降,公共企業体としての経営形態が変更され,日本電信電話株式会社として新たに発足するに至った。

この日本電信電話株式会社は,いわゆる特殊会社として性格付けられ,従来の公社制度に比して,その当事者能力が高められ,自主性,機動性に富んだ事業体となっていると言えよう。また,これと同時に,従来,電電公社及び国際電電以外には認められていなかった電気通信事業を開放し,新規参入を認めることにより,高度情報社会の実現へ向け大きな一歩を踏み出すものとなっている。

専売公社についても,59年8月3日に成立した専売改革5法(「日本たばこ産業株式会社法」,「たばこ事業法」,「塩専売法」,「たばこ事業法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」及び「たばこ消費税法」)に基づき,60年4月1日以降,公共企業体としての経営形態が変更され,日本たばこ産業株式会社として新たに発足するに至っている。また,この改革においては,我が国に対する市場開放要請に応えるため,従来,専売公社及びその委託を受けた者に限られていた製造たばこの輸入が自由化されることとなっており,新会社においてもより一層競争力の強化を図るため,経営の合理化,事業運営の改善が進められている。

国鉄(日本国有鉄道)においては,39年度に単年度赤字を生じて以来,その経営は悪化の一途をたどっている。60年度予算でその状況をみると,欠損額は単年度で1兆6,734億円にのぼり,長期債務残高は年度末に23兆5,971億円という巨額の水準に達するものと見込まれている。

その事業の再建は今や一刻の猶予も許されない国家的課題となっている。このような情勢の中で,当面する国鉄の経営悪化を極力防止し,効率的な経営形態確立の円滑化に資するため,臨調答申や国鉄再建監理委員会の二次にわたる緊急提言等を踏まえ,職場規律の確立,要員合理化,設備投資の抑制,地方交通線の整理の促進等の各般にわたる緊急対策が講じられてきたところである。

さらに,効率的な経営形態の確立,長期債務問題等の抜本的対策については,国鉄再建監理委員会において鋭意検討が進められ,本年7月,内閣総理大臣に「国鉄改革に関する意見」が提出されるに至った。

同意見は,国鉄の経営が悪化した最大の原因は,公社という自主性の欠如した制度の下で全国一元の巨大組織として運営されている現行経営形態そのものに内在するという認識の下に,国鉄改革の内容として,現行経営形態を改め分割・民営化することを基本とし,あわせて,巨額の債務等について適切な処理を行い,過剰な要因体制を改め,健全な事業主体としての経営基盤を確立した上で,国鉄事業を再出発させることを骨子としている。これを受けて政府は,同意見を最大限に尊重し,国鉄改革のための措置について速やかに成案を得て,所要の施策を実施に移すものとすることとした。

(行政改革の展望)

行政改革は本格的な実行段階を迎え,全体として着実に推進されつつある。

しかし,臨時行政調査会答申の推進状況を個別にみれば,今後実施に移すべき改革課題もなお少なくなく,行政改革は今や正念場にあり,今後一層の推進が求められている。