昭和60年
年次経済報告
新しい成長とその課題
昭和60年8月15日
経済企画庁
第1章 昭和59年度の日本経済
58年1~3月期の景気の谷から2年半を経過した現在,我が国経済は内需を中心に拡大を続けている。物価は安定しており,その中で経済活動が活発化する,いわゆる「数量景気」が続いている。
国内民間需要をみると,設備投資がハイテク関連をはじめとして依然着実な増加を続けており,リース業等非製造業等へも裾野が広がってきている。また,出足の遅れていた家計の消費も,レジャー等選択的支出の増加が目立つなど,このところやや伸びを高めている。住宅投資は緩やかに持ち直している。一方,公的需要は,財政改革下で厳しい歳出削減が図られているところから,経済成長への寄与は小さなものとなっている。
海外経済をみると,アメリカ経済は昨年までと比べ景気拡大の速度は鈍化しているが,個人消費等を中心に国内需要の拡大が続いている。欧州諸国においても,景気は緩やかながら総じて回復から拡大の方向にある。こうした動きを反映して,我が国の輸出も,60年1~3月期には一服したもののその後再び増加しており,鉱工業生産も一時の一進一退の動きから最近は持ち直している。
輪入も製品類を中心に基調としてはやや持ち直している。
このように,我が国経済では,外需が緩やかな増加を続ける一方,設備投資が着実に増加し,家計部門の需要も次第に改善するなど全体として景気は拡大を続けている。こうした状況にあって,遅れていた雇用も改善しつつあり,高水準にあった倒産も落ち着いてきている。
ただ,経常収支は依然として大幅な黒字を続けている。一方資本の流出が続いており,ドル高(円安)の是正も遅れている。
アメリカ経済は拡大速度は鈍化したものの,当面拡大が続くものとみられるが,連邦政府赤字と経常収支赤字の「双子の赤字」を抱え,先行きに不透明さを内包していることは否定できない。この問題については,アメリカ国内でも改善のための努力がなされているところであり,我々もその動きを見守っていかなければならない。
我が国としては,物価の安定を確保しつつ国内民間需要を中心とする景気の持続的拡大を図るため,内外の経済動向を注視し,適切かつ機動的な政策運営を進める必要がある。このような経済運営の下において,我が国経済は当面内需中心の経済成長が続くとみられ,物価の落ち着き,技術革新の進展を背景とする設備投資需要の強さ,生活の個性化,多様化を背景とするサービス消費の堅調,太平洋地域等の高い成長ポテンシャルなどを軸に新しい成長の時代を迎えつつあると考えられる。こうした中で,将来の高齢化社会を前に,活力ある経済社会と安心で豊かな国民生活の実現を目指し,我が国経済社会の中長期的な発展基盤の整備に積極的に取り組んでいく必要があろう。