昭和59年
年次経済報告
新たな国際化に対応する日本経済
昭和59年8月7日
経済企画庁
第4章 進展する金融の自由化・国際化
(金融政策の目標の変遷)
金融政策の目標は,時代とともに変化してきた。過去の公定歩合変更時における日本銀行政策委員会議長(慣習的に日本銀行総裁が兼任)の談話をみると(第4-17表),48年3月までの固定相場制時代には有効需要と国際収支の動向が公定歩合変更の理由として言及されていた。しかし48年の変動相場制移行後は,第1次石油危機におけるインフレの苦い経験もあって,物価の安定がより重視されるようになった反面,国際収支はさほど言及されなくなった。さらに53年の円高とその後の円安期には,為替レートの変動が国内経済に与える影響が注目され,為替レートの安定も重要な目標となっている。
こうした点については,日本銀行が日々の金融調節を行っているコール市場において,その金利をどのような経済指標に基づいて誘導しているかを一定の仮定の下に回帰式(同表)により分析してみると次のようになる。すなわち,固定相場制の期間においては,経常収支の有意性が最も高かったのに対し,変動相場制に入ってからは,経常収支の有意性が低下する反面,物価の有意性が高まっているほか,実質為替レート(名目為替レートと通貨当局が想定する均衡レートとしての購買力平価レートとの乖離を示す代理変数)も有意となっている。
(マネーサプライ重視の運営へ)
また金融政策の運営方法も,名目金利の誘導や銀行の貸出に対する規制を中心としたものから,マネーサプライを重視したものへと変化してきた。この理由には,まず,石油ショック時のようなインフレ期待が不安定な時期には,名目金利の変動は,実体経済に影響を与える実質金利が変動したのか,インフレ期待が変わっただけなのかが不明確になることがある。このため,マネーサプライのような量的な変数を政策運営上の指標として重視する必要が生じてきた。また高度成長期には,金融機関貸出は,民間部門の投資活動を反映していたほか金融機関の信用供与のほとんどを占めていたため,マネーサプライの変化にほぼ対応していた。しかし安定成長への移行に伴い,金融機関の国債投資を通した公共部門への与信活動のウエイトが拡大してきた結果,金融機関の貸出しはその総与信に対応しなくなった。その結果貸出しよりも金融機関の総与信に対応関係のある,マネ一サプライがより適切な指標となった。さらに,47~48年のマネーサプライの急増が激しいインフレを引き起こしたという苦い経験も重要な要因である。こうした理由により,日本銀行は53年7月から四半期ごとにマネーサプライ増加率の見通しを公表するなど(当初M2,54年7~9月期以降M2+CD),マネーサプライを重視した政策運営を行ってきた。この結果もあって第2次石油危機においては,大幅な原油価格引上げにもかかわらず消費者物価の上昇率は穏やかなものにとどまるなど,日本経済は比較的良好なパフォーマンスを示してきた。
ここで,マネーサプライの変動が我が国経済に与えた影響について,多変量時系列モデルを用いて分析してみよう。マネーサプライ,名目GNP,GNPデフレーター,円の対ドル実質為替レート,実質金利からなる5変数の自己回帰モデルを,48年第2四半期から58年第3四半期のデータで計測した上で,マネーサプライの1%の増加が各変数に与える影響をシミュレーションしてみたのが第4-18図である。これによれば,マネーサプライが独立に1%増加した場合には,当初,物価(GNPデフレーター)よりも名目GNPの増加が大きく,第3四半期目にその伸びはピークに達する。しかしその後は物価の上昇率が高まり,6四半期目にそれがピークとなるほか為替レートもかなり低下するという試算結果が得られる。この計測によれば,マネーサプライの増加は,当初実質GNPを押し上げる効果があるものの,長期的には物価の上昇を招くほか為替レートを低下させることとなる。このためマネーサプライを実体経済の成長に見合って安定的に管理していくことが必要であると考えられる。
こうして我が国の金融政策は石油危機以降もマネーサプライを重視した運営により,比較的良好なパフォーマンスを維持してきた。
金融の自由化・国際化は,種々の金利が市場の需給をよりよく反映するようにするため,それによって金融政策の金利メカニズムを通した効果が強まり,金融政策の機動性も増大する。しかし,その一方で為替レートの変動が金融政策運営を制約している面もある。
振り返ると53年の急激な円高期においては,同年3月の公定歩合引下げにあたり,円相場の動向が考慮された。またその後の第2次石油危機における引締め期(54年4月~55年8月)には,円安が公定歩合引上げに際して考慮された。しかしこの二つの時期においては,為替相場の動向は確かに金融政策運営に影響を与えたものの,国内均衡の達成に必要な公定歩合操作が,為替レートにも好ましい影響を与えるという意味で,政策運営上のジレンマはなかった。
これに対して55年8月からの緩和期には,円安が重なり,国内均衡上は金利引下げが望ましいものの,為替レートに対する影響の上からは緩和が困難になるというジレンマが生じた。すなわち,金利の引下げにより仮に為替レートが下落した場合,当時から既に問題になっていた貿易摩擦を激化させることが予想された。また為替レートの下落に伴う輸入原材料のコストの上昇は,物価上昇をもたらすほか,不況が最も深刻な素材産業の収益を更に悪化させ,金融緩和の効果を無効にすることも懸念された。このため,円安の進行を食い止めるために,57年3月央以降秋口にかけて,短期金融市場金利の高目誘導が行われた。
(為替レートの決定要因)
このように,金融政策運営に大きな影響を与える為替レートは,主に次のような要因で決定されると言われている。
まず長期的には,各国産業の輸出競争力を規制する相対的な生産コスト水準が重要である。生産コストの水準は主に賃金や物価の動向で決定されることから,これは購買力平価(通貨の購買力の均一化の意)要因と呼ばれている。
また近年,国際資本取引が活発化してきているため,資金の運用利回りや借入れコストを規定する金利水準の動向も短期的な為替需給に大きな影響を与える。
この各国における資金コストの格差には,名目金利差だけではなく,当然為替レート変動の見通しが重要な要因となる。長期的には,購買力平価に沿って為替レートが変化すると予想される場合には,内外のインフレ格差が為替レートの基調的な変化方向を決めると考えられる。この結果,名目金利差とインフレ格差の差である各国間の実質金利差が,為替レートの決定要因として重要であるとの認識が強まってきている。
また,国際収支の動向も為替需給に影響を与えると考えられている。例えば日米2か国の場合において,日本がアメリカに対して経常収支の黒字を出し続けていれば,日本の投資家の手許にはドル建資産が,またアメリカの投資家の手許には円建負債が徐々に蓄積されていく。このため,こうした経常収支不均衡の累積は,いずれ日本の投資家によるドル売りないしはアメリカの投資家による円買い圧力を生み出し,円高・ドル安要因となると考えられる。現実には,内外の投資家にとっては,円,ドルばかりでなく,マルク,ポンド,スイス・フラン等も資金の運用・調達に用いることができるので,円・ドル為替レートには,日米だけでなく西欧諸国等の第三国の経常収支動向なども影響を与える。
さらに短期的には,各国通貨を売買する投資家の為替レートの先行きに対する期待のフレも,為替レートに大きな影響を与えるとされている。
こうした為替レートの決定要因の相対的な重要性は,為替管理の緩和等の条件変化により変わっていくと考えられる。すなわち,最近の新外国為替管理法の施行により,外貨での資金の運用・調達活動が貿易取引に比較して活発化してきているため,実質金利要因の重要性が高まった反面,経常収支不均衡の累積の影響力が弱まっているようである。ちなみに,上述の要因を考慮した実証分析によれば(第4-19表),第三国の要因も考慮した累積経常収支(直接投資を含む)要因の有意性が低下している反面,長期実質金利差の有意性が高まっていることが確認される。
最近の円相場の動向に即して考えれば,56年以降の我が国の経常収支黒字は円高圧力として働いてきたものの,為替管理の自由化による対外投資の活発化と,アメリカの実質金利の上昇により相殺されてしまったと考えられる。アメリカの大幅な財政赤字等による実質高金利は,最近のドル高の主要な要因になっており,我が国の金融政策運営に対して制約要因となっている。
(為替レート変動と政策対応)
しかし,国際資金移動が極めて活発化した今日,為替レート変動に対応できる有効な政策手段が多くはないのが実情である。金融の国際化が進展し,我が国企業にとって外貨での運用・調達は日常業務に組み込まれてしまっている。また非居住者にとっても,円での運用・調達はなくてはならないものになりつつある。
こうした中で,為替レートに影響を与え得る,厳しい為替管理の発動は,大きな混乱を引き起しかねず,非常に困難になっている。仮に円安防止のために非居住者の円借入れや本邦企業のドル運用を停止したとしても,既に円投資をした非居住者やドル借入れを持つ本邦企業に対し,円を売って投資を回収することや,ドルを買って借入れのヘッジをすることまで禁止することはむつかしい。このため,為替レートを操作するために為替管理を発動することは,極めて例外的な緊急避難としてしか,できない状態になってきている。
また通貨当局は介入により為替レートの乱高下に対処してきているが,相場の基調を変えるのは困難である。
こうしたことから,為替レートにかなりの影響を与える機動的な政策手段としては金融政策を考えることができるが,これにも先に述べた国内均衡とのジレンマがある。金融国際化が進展してきている今日のような状況の下では,為替レートの安定のためには,主要国が調和ある政策運営を行っていくことがますます必要となっていると言えよう。
金融の自由化・国際化と為替レートの動向に配慮した金融政策の採用によって金利の国際波及が生じてきた。
近年,我が国の長期債利回りは,海外金利,特に米国金利の影響を強く受けるにようになってきている。55年後半から56年央にかけての米国金利の上昇が,我が国の国債利回り上昇の大きな要因となったことは,57年度および58年度年次経済報告で示されたとおりである。こうした海外金利の影響は,我が国のみならず,為替管理が自由化された先進主要国にとっ℃も同様に大きなものになっていると考えられる。
第4-20図の上段は,日本,アメリカ,西ドイツ,イギリスの4か国の長期実質金利の動きをみたものであるが,各国の為替管理の自由化が本格化した1980年以降には,イギリスの金利が1980年以降大きく上昇し,各国の実質金利水準に接近するなど,主要国の金利水準はそれ以前より密接な動きを示すようになってきている。このため,1981,82年の米国金利の高止まりが,我が国のみならず,西ドイツ,イギリス等の国にとっても国内実質金利高止まりの大きな要因になってきたことが伺われる。
一方,同じく主要国の短期実質金利の動きをみると,長期金利の動きと比べ各国ともかなりの独立性がみられるが,このところ次第に,一連動関係が増してきているようにみてとれる。
こうした金利の国際波及が発生する理由には,次のような二つの経路が考えられる。まず第1に,通貨当局の政策反応によるものがある。すなわち,海外の金利上昇は自国通貨の下落圧力となるため,自国の為替レートを防衛するために,通貨当局は短期金利を高目に誘導することがある。これは我が国で57年春から秋にかけて行われた。また西ドイツでも,ブンデスバンクは1981年から82年にかけてマルク防衛のために特別ロンバートレート(通常のロンバートレート〔債券担保貸付金利〕を上回る臨時的な貸付金利)を発動して,金利を引き上げた。
こうした通貸当局の政策対応は,短期金利のみならず長期金利をも押し上げる方向に働く。
第2に,民間投資家の国際的な資金の運用・調達活動のシフトという経路がある。すなわち,海外長期金利の上昇は,資金運用を国内の市場から海外ヘシフトさせる。これと同時に,資金調達は海外から自国にシフトしてくる。こうした資金需給の変化は,自国の金利を上昇させる圧力となる。
ここで金利の国際波及の程度をみるため,日本,西ドイツ,イギリスについてほぼ同一の定式化による長期金利関数を計測してみよう。すなわち,各国の長期金利をそれぞれの国の短期金利,インフレ率,国債残高の民間金融資産に占める割合という三つの国内要因と,それぞれの国からみたドル建長期資産の期待収益率という海外要因で回帰分析したものが第4-21表である。この表によれば,日本では,為替管理が実質的に自由化された54年2月以降の期間においては,米国金利要因が長期金利の押し上げ要因として効いていることが分かる。また1974年から為替管理が自由化されていた西ドイツでも,長期金利の決定要因として米国金利が重要となっている。これに対し,イギリスでは日本・西ドイツと同じ定式化では,米国金利要因が効かなかったものの,国内要因からインフレ要因を除いた式では,米国金利の影響が見いだされた。
(制度上の差異の影響)
現在,各国の間で,財政金融面での制度上の差異がある。これは各国における長い歴史と慣行に根ざしたものであるが,これらの差異により,国際的に波及した実質金利のもたらす効果が国により異なってくることになる。
こうした観点からみると,例えば,アメリカでは,利子・配当所得については総合課税がなされている。その反面,個人の住宅ローン等すべての借り入れについて,支払金利のほぼ全額が所得から控除されるという,主要国には例をみない特異な税制がとられており,主に高額所得者により利用されている。この例にみられるような特異な税制が存在していることもあり,極端な財政資金の散布を主因とする高い実質金利が持続することとなったものとみられる。またこれがドル高を通じアメリカの経常赤字の拡大の一因となっているのは既に第2章でも述べたとおりである。米国では当面大幅な財政赤字が続く見通しとなっている上,上記のような税制が一面では金融政策の効果の阻害要因として働いていることをも考慮すると,同国の高い実質金利は,ここ当分解消されない可能性が高い。
このようなアメリカの税制は,貯蓄増強という所期の目標を達成できなかった上,財政赤字の大幅な拡大とそれに伴う高金利をもたらしたほか,タックス・シェルターの濫用を招く等,アメリカ国内においても幣害を生み出している。さらに,アメリカの高金利は,国際的にみても,発展途上国の債務累積問題や,先進工業国の内需拡大に悪影響を与えていることも否定できない。従って,アメリカが高金利是正のため財政赤字縮小につとめ,税制面についても見通しを図っていくことが要請されよう。
金融の自由化・国際化は,次のような二つの経路を通して金融政策の中間目標であるマネーサプライと最終目標である名目GNP等との関係を不安定にする。
(1)金融の自由化は金融上の新商品の導入や,既存の商品の利回りや利便性の変化により通貨需要関数(所得や金利と通貨需要どの関係)を不安定化する。
(2)金融の国際化は,実物取引が行われ所得が発生する国と,その取引がファイナンスないし決済される国を異ならせることにより,金融変数と名目GNP等の実体経済の変数との関係を不安定にする。
アメリカでは,こうしたマネーサプライ管理上の問題が既に生じている。まず(1)については,金利規制の相次ぐ緩和や,既存の規制を逃れる形で生み出されたMMMF,NOW勘定,MMC(本章第2節参照)といった金融新商品の導入に伴い,通貨需要関数が不安定化し,1970年代後半にはM1の需要が大幅に落ち込んだため,金融政策の運営目標が不明確になってしまうという弊害が発生した。この結果マネーサプライの定義をしばしば変更せざるを得なくなっている。すなわち1980年にはM1を従来のM1と同じM1-Aと,NOW勘定等の流動性の高い新金融商品を含むM1-Bの二つに分けたほか,M2については従来のM2にMMMFや翌日物リパーチェス・アグリーメント等を加えてより広い範囲の流動的な資産を含むようにした。さらに1982年1月には,このうちM1-Aの公表を停止した。また(2)の点については,米国居住者によるユーロダラー預金の保有増加から,M2に米国居住者が保有する翌日物のユーロダラー預金を加えているが,統計的把握に困難が生じている。
我が国ではアメリカほど深刻な事態は発生していないものの,やはりマネーサプライの内容に変化が進行している。このためマネーサプライの伸びを評価する場合に,構成要素を単純に合計したM1,M2+CD等の指標だけでなく,その内訳の変化についても考慮する必要が強まっている。例えば,マネーサプライが所得と比較してどの程度の水準にあるかを判断するためによく用いられるマーシャルのK(マネーサプライと名目GNPの比率)をみると,狭義マネーサプライであるM1については近年下方トレンドがあり,通貨の節約が進んでいることを示しているのに対し(第4-22図),日本銀行が主な政策目標としているM2+CDや,広義のマネーサプライであるM3+CDに関しては,かなり強い上方1・レンドがあり,所得に対してマネーザプライの伸びの方が高くなっている。そこで,M3+CDの増加額の内訳をみると,第4-22図①に示されたように,金利が付利されないか,利回りの低い現金や預金通貨(普通預金,当座預金等)の寄与率が低下している反面,利回りの比較的良い準通貨(定期預金類),貸付信託等の寄与率が増加してきているのが分かる。このように従来のマネーサプライは流動性の異なる多くの資産を,一定の基準でマネーとマネー以外に2分して,そのうちマネーに入ると決められた要素を単純に合計しているため,マネーサプライの内訳の変化や,マネーとマネーに近い性質の資産の間の代替関係等を捨象しているという限界がある。
(フィッシャー・マネーサプライ指標の試算)
そこで,内訳の変化によるマネーサプライ指標のゆがみについて考慮した,マネーサプライの加重合計指標(フィッシャー加重マネーサプライ指数)を試算した上で,マーシャルのKを求めたのが第4-22図の実線である。フィッシャー指標とは,各通貨性資産の利回りと市場金利との差を,それぞれの通貨性資産を保有するために支払われた価格の指標と考え,この金利差のウエイトを用いて各通貨性資産を加重合計したものである。すなわち,金利の低い資産が金利が低いにもかかわらず保有されるのは,その保有に伴う取引決済上の利便性が高いからであり市場金利との差はこの利便性を買うために支払われた価格であると考えるわけである。同図から分かるように,フィッシャー指数はM2+CD,M3+CDのいずれも,対応ずる通常のマネーサプライ指標よりもマーシャルのKの上方トレンドが小さく,名目GNPとの関係が安定していることを伺わせる(注)。
これまでも,CDの出現,中期国債ファンドの拡大等,通貨需要の構造を変化させるような問題が発生してきた。今後の金融の自由化・国際化に伴って,既存の資産の性格の変化や,金融新商品の導入は一層早まっていくと考えられる。このため,現在指標とされているM2+CDについても,その構成要素間のシフトやそれ以外の資産との間の資金シフトがさらに激化することが予想される。そこで,通貨の適正水準を判断するためには,こうした変化を的確に把握すると共に,将来においてはフィッシャー指数のような資産間の流動性の差異を考慮した指数も併用していくことも検討に値しよう。
(金融国際化のマネーサプライに及ぼす影響)
一方,金融の国際化に伴い,現在マネーサプライ統計に含まれているもののウエイトの小さい非居住者の我が国への預金や,居住者の外貨預金が増加することが考えられる。すなわち,非居住者が本邦に保有する円預金は59年2月現在でまだ1.5兆円で,M2+CDに対する割合も0.6%にすぎない。これは上記残高に金融機関保有分が含まれることを考えると極めて低いものにとどまっており,なお問題となる水準には達していない。また外貨預金も金融機関保有分を含めても58年12月現在で12.2兆円とM2+CDの規模(同269兆円)に比して低水準にとどまっている上,先物でカバーされた預金が多く実質円建とみなせるため,現行のマネーサプライ統計に含まれていても,さほど問題は生じていない。
しかし,非居住者と居住者では,その通貨保有に対する行動が当然異なると考えられる。またカバーなしの外貨預金については,明らかに為替変動リスクがあり,他のリスクの小さい円預金と同一視するには無理があろう。しかも,非居住者保有の本邦への預金や居住者の外貨預金は今後増加するであろう事を考慮すれば,これらをマネーサプライ統計上どのように扱うかについても今後検討を深めていく必要があろう。
なおアメリカでマネーザプライ統計上の困難を引き起している,居住者の海外への預金は,我が国では現在実態把握が可能なので問題となっていない。