昭和59年

年次経済報告

新たな国際化に対応する日本経済 

昭和59年8月7日

経済企画庁


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第4章 進展する金融の自由化・国際化

第4節 むすび

今後の自由化,国際化に当たっての留意事項等を,これまでの分析を踏まえて検討しよう。

(信用秩序の維持と金融の効率性の確保)

金融の自由化の進展に伴って,金融機関相互間の競争が激化し,金融機関の経営格差が徐々に拡大することも予想される。金融機関の経営格差の拡大は,アメリカ,イギリス,西ドイツ等で経験されたことであり,これらの国では,経営面で問題のある一部の銀行が破綻するケースもみられた。こうした点にかんがみ,今後金融の自由化を進めていく上で,金融システムの健全性の維持と預金者の保護に配慮することが必要である。このためには,なによりも各金融機関の環境変化に対する自主的かつ積極的な対応が基本であり,金融組織の効率化を図っていかなくてはならない。しかし,次のような点にも留意していく必要があろう。

今日既に,金融機関の業務分野の間での競合や,周辺業界との競合が強まってきている。このため,各業態の規制等について,バランスにも配慮しつつ自由化を進めることが肝要と考えられる。また金利規制が緩和されていく中で自己資本比率,流動性比率,大口融資規制等のバランス・シートに対する規制を重視していくとともに,金融機関に対する検査の充実を図っていくことも考えられる。

さらに,一部の金融機関の経営破綻が金融機構全体に波及するのを防止するため,預金保険制度の充実につき検討していく必要もあろう。西ドイツでは,1967年の預貸金利の全面自由化の後金融機関の整理淘汰が進んだが,1974年にはヘルシュタット銀行をはじめとした一連の中小銀行の経営破綻が表面化したこともあって,1976年に預金保険制度の拡充が行われた。またイギリスでも1971年に金利の自由化が行われたが,その後,1973年から1975年にかけての中小銀行の破綻により,信用秩序の動揺がみられた。このため,英蘭銀行の銀行監督権限の強化とともに1982年には預金保険制度が導入された(第4-24表)。我が国では既に1971年に預金保険制度を導入済みであるが,その基金残高は1,815億円(本年3月末現在)で,57年3月末では被保険預金の0.056%と,この制度での先進国であるアメリカに比較してなお,小さなものとなっている。

一方債券の発行条件の自由化・弾力化に伴い,今後社債の投資家保護のシステムが徐々に変化していくと考えられる。これまでの有担保原則は,投資家保護の上で一定の役割を果たしてきたものと評価できよう。今後有担保原則を弾力化していくとすれば,投資家の自己責任原則をつらぬくためにも債券の格付け,発行会社のディスクロージャー,配当制限等の財務制限条項等についても検討が必要となろう。

(円の国際化と金融政策)

円の国際化が進展し,ユーロ円インパクト・ローン等の本邦企業の海外からの円借入れが拡大すると,本邦の銀行の円貸出のみを量的に規制している現在の窓口指導の有効性は,さらに低下すると予想される。このため,これまでの量的規制を併用した金融政策の運営は困難になり,金利機能をより活用する必要が高まると考えられる。

また,今後とも円建シンジケート・ローンの拡大が続いていくと予想される上,最近の円建外債の拡大,ユーロ円債の自由化,ユーロ円貸出の拡大により,円が発展途上国等のファイナンスにこれまで以上に使われるようになると,我が国の金利変動はこうした国の経済活動にまで若干は影響を及ぼすようになる。このため,現在のアメリカほどではないにしても,国内均衡の面から引き締めを行おうとすると,他国の経済運営に影響を与えるという事態が発生することも考えられる。一方我が国の企業や機関投資家の外貨での運用・調達が今後更に活発化するに従って,海外の金融情勢が直接日本経済に影響を与えるようになろう。

こうしたことから,金融政策の運営は金融の国際化につれて,これまで以上に制約される可能性があるので,各国とも調和ある政策運営を行っていく必要があるものと考えられる。とくにアメリカ経済の金融面での影響力の大きさにかんがみ,アメリカが財政政策を含めて節度ある政策運営を行なうことが期待される。


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