昭和59年

年次経済報告

新たな国際化に対応する日本経済 

昭和59年8月7日

経済企画庁


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第2章 経常収支の動向とその要因

第3節 経常収支の中期的な動向とその要因

既に第1節で明らかにしたように,現在我が国には特殊要因,景気循環要因では説明できない中長期的な要因に基づく経常収支黒字が存在している。この中長期的な要因に基づく,経常収支黒字は,我が国の輸出入構造,産業構造の変化といった経済構造の変化を背景として発生していると考えられる。すなわち,第3章で詳しく論ずるように我が国経済においては,省エネルギー省資源技術や先端技術の積極的導入等により動態的な比較優位に合致した方向へ産業貿易構造を高度化する過程で,経常収支黒字が定着してきた。

本節はこの中長期な要因による経常収支黒字をマクロ経済の観点,すなわち貯蓄比率,投資比率,為替レート等の動向の分析を通じて明らかにしようとするものである。

こうした観点からみると,中長期的な要因による経常収支黒字は,我が国経済に国内貯蓄と国内投資との間に構造的なギャップが存在することを背景として発生していると考えられる。

本節は中期的な観点から経常収支の動向とその要因を分析しようとするものであるが,その際(1)国内貯蓄と国内投資のいずれが対外部門のバランスとより関係が深いか,また(2)国内民間部門と対外部門との相互依存性の強さはどのくらいあるのか,さらに(3)国内貯蓄と国内投資の差はどのくらいスムーズに対外部門を通じて調整されているのかといった問題を,我が国及び他の先進国のデータを用いて検討することにしよう。

1. 我が国の中期的な経常収支の動向

我が国の中期的な経常収支の動向を調べるためにまず民間部門の投資と貯蓄がどのような動きを示してきたかをみることにしよう。

我が国の第1次石油危機後の民間投資/名目GNP比・率は,45~48年度の26.2%から51~57年度の21.6%へ4.6%もの大幅な落ち込みを示した。これに対し,この間の国内民間粗貯蓄/名目GNP比率は30.5%から27.8%へと2,7%の小幅な低下にとどまった。(第2-10図)これは第1次石油危機後には民間部門にとって望ましい国内の貯蓄と投資の間にギャップが生じたことを示唆している。

しかしながら,このギャップは第1次石油危機後には財政部門の赤字幅拡大によってかなり吸収された。これは高度成長から安定成長への屈折に伴って租税収入の伸びは鈍化したが経常支出は引き続き増加するといった財政の歳出,歳入のギャップが生じたことによる面が大きい。さらに,第1次石油危機後の経済停滞に対し,52,53年に財政が積極的な役割を果たしたことも財政部門の投資超過傾向を強めることになった。

現在,財政部門の不均衡は財政改革の実施によって是正されつつある。財政改革の推進による財政赤字幅の縮小は民間部門の投資・貯蓄性向が不変にとどまるとすれば対外部門の投資超過傾向(経常収支黒字)を強める方向に働くことになる。ただ,現実には①財政赤字幅縮小の過程において,金利の低下から民間部門の貯蓄超過傾向が抑えられる可能性のあること,②財政部門と民間部門の間で貯蓄および投資の代替性の存在する可能性のあることを考慮する必要がある。このように,財政赤字幅の縮小が対外部門の投資超過傾向に与える効果について単純に結論づけるには困難な問題が多いものと思われる。

さらに1980年代に入ってからのアメリカにおける大幅な財政赤字等に基因する高金利は,アメリカへの流本流入を促進し,日本の資本流出傾向を強めるよう働いている。この要因は円の対ドルレートの上昇を妨げ日本の経常収支黒字の一要因となっている。

第4章で詳しくみるように,我が国は現在,変動レート制度の下で金融の国際化を進めつつある。こうした状況の下では,資本に対する収益率の差に基づく国際的な資本の流れが日本の対外部門の投資超過傾向に与える影響は従来にも増して強まっていくと考えられる。

2. 国内貯蓄-国内投資性向と経常収支

中期的な観点からみて,国内における貯蓄性向,投資性向と経常収支がどのような関係があるか調べることにしよう。ただし,その際には(1)国内部門が望ましいとする貯蓄投資の水準は直接観察が可能でないこと,(2)対外部門における不均衡発生が国内部門の貯蓄投資の水準に影響を与える可能性のあることといった問題があることに留意すべきである。以下では事後的なデータを用いて分析した場合に,国内における貯蓄性向,投資性向と経常収支がどのように関連づけられるかを考えてみよう。

いま,OECD15カ国をとって1960年代後半(1966~72年)と1970年代後半(1975~81年)の二つの時期にかけての経常収支の変化が,(1)国内投資率,(2)国内貯蓄率,(3)石油輸入比率のそれぞれの変化とどのように関係づけられるかを調べてみると次のようなことがうかがわれる。(第2-11表)

まず第一に,国内投資と経常収支の変化との関係をみると中期的な国内投資率の上昇と経常収支黒字の若干の減少が同時に発生した国が多いことが分かる。

第二に,国内貯蓄率の変化と経常収支の変化との関係をみると,相互,の間に統計的に有意な関係はみうけられない。

第三に,石油輸入比率と経常収支黒字の変化との間には負の関係があるが,その関係は統計的に必ずしも有意とはいえない。これは石油輸入比率は必ずしも中期的な経常収支ポジションと密接な関係はないという第2節での結論と斉合的な結果と言えよう。

3. 家計貯蓄率・設備投資比率と経常収支

我が国の場合について,昭和40~50年代の経常収支の動向と設備投資比率及び家計貯蓄率の動きとの関係を調べると以下のようなことが分かる。

まず第一に,経常収支黒字の対名目 GNP比率と設備投資比率の間には逆相関の関係が観察される。

第二に,これに対し,経常収支黒字の対名目 GNP比率と家計貯蓄率との間の正の相関関係ははっきりしていない。

こうした事実は,OECD諸国のクロスセクションデータを用いた分析と斉合的であるといえよう。

ところで,50年代以降の設備投資比率と経常収支黒字の対名目GNP比率に逆相関の関係がうかがえるが,もとよりこの期間は,二度の石油ショックと円レートの大幅な,変動という攪乱要因があったことを考慮すると,逆相関が発生する原因を明確に把握することは困難であるが,一応次のような関係が想定できる。すなわち,資本に対する限界収益率が上昇する時期には,(1)実質為替レートは円高傾向を示すのと同時に,(2)設備投資の増加から国内需要が増え生産と国内支出のバランスが変化することが考えられる。第2-12図は第3象限に資本に対する限界収益率と実質実効為替レートの動きが示されている。限界資本収益率が高まれば円高になるという右下がりの関係があるとみられるが,53年の過度の円高や54年以降の資本取引の自由化の進展といった要因もあって,その関係は必ずしも明瞭とはいえない。

また第2象限には,実質実効為替レートと経常収支黒字の対名目GNP比率の関係が示されている。通常実質実効為替レートの上昇は,日本の国際競争力を低下させる要因となるため経常収支黒字を縮小させる方向に働く。これは,変動為替レート制度のもつ経常収支均衡化効果が働くためであり,グラフでは右下がりの関係を示すはずである。しかし現実には,「J・カーブ効果」の存在や石油危機の発生及び財政金融政策の態様などの要因があるので,そうした作用の働きが妨げられ,必ずしも明瞭な関係が認められない。例えば昭和53年の大幅な円高とそれに続く第2次石油危機の発生の時期には実質為替レート下落と経常収支黒字縮小が生じている。しかし少なくとも中期的には実質実効為替レートの上昇ば経常収支黒字の縮小要因として働くと考えられるので,両変数は右下がりの関係を示すと考えられる。

さらに第4象限には,資本の限界収益率と設備投資比率の関係が示されている。両者の間には正の相関関係がある。すなわち,資本の限界収益率の高まる時期には設備投資比率は大きく上昇するのである。

以上のことから,資本に対する実質収益率が上昇する時期には,経常収支黒字の縮小と設備投資比率の上昇が生ずることになる。この結果,経常収支黒字比率と設備投資比率には逆相関関係が現れると考えられる。それが第1象限の右下りのグラフに示されている。

なお,昭和40年代の前半には,第1象限の点線が示しているように,設備投資比率と経常収支黒字比率は,逆に正の相関を示している。すなわち,この時期には設備投資ブームと経常収支黒字幅の拡大が併存していた。こうした正の相関関係が生じたのは次のような理由によると考えられる。

まず第一に,昭和40年末から45年央にかけての日本経済の「長期繁栄」の時期には,世界経済の拡大に加えて次に述べる為替レート調整の遅れもあって日本の輸出が大幅な増加を示した。この輸出増を反映して企業の設備投資意欲は高まり,設備投資比率は同じ資本収益率の下でも大きく上昇した。これは,経常収支黒字比率と設備投資比率との関係を右側ヘシフトさせるよう作用したと考えられる。

第二に,この時期には「調整可能な釘付け制度」が為替レート制度として採用されており,経済のファンタメンタルズを反映した為替レートからの乖離が持続しやすかったことである。これは実質実効為替レートでみても為替レート調整の遅れが生じ,為替レートを通ずる経常収支の均衡化作用が働きにくかったことを意味している。

第三,海外との資本取引についても全面的な自由化が行われていなかったことである。例えば,外国からの対日直接投資については第1次自由化が42年7月に実施されたが,ネガリストを除く自由化が行われたのは昭和46年8月の第4次自由化のことであった。また,日本の対外直接投資も44年10月に第1次自由化が実施されたが,自由化が木格化したのは,47年6月の第4次自由化以降のことであった。さらに第4章で詳しくみるように債券投資を含めた海外との資本取引の自由化が画期的な前進を遂げたのは,54年2月以降の時期である。

こうした資本取引の自由化が仮に昭和40年代前半に進展していたならば,日本における実物投資に対する期待収益率の高まりから資本流入が増大し,それが為替レート調整圧力を一層強めていたであろう。換言すると,40年代半ばにかけての時期に国内設備投資と経常収支黒字が両立しえたのは,為替レート調整の遅れと資本流出入に関する制約が一因をなしていたと考えられる。

(家計貯蓄率,設備投資比率,経常収支の相互依存性)

これまで経常収支の動向と設備投資比率,家計貯蓄率の関係を資本の限界収益率,実質実効為替レートの動きも考慮して説明してきた。しかし,これらの変数は互いに依存し合っており,実際にどの変数の変化が他の変数にどのような影響を与えたかは変数間の相関関係のみからは読みとることができない。

そこで以上の変数のうちどの変数がより独立的な性格が強く,他の変数により支配的な影響を与えているかを調べるために多変量時系列モデルを用いて分析することにしよう(第2-13表)。ただし,ここでの分析では資本の限界収益に加えて,税制や資本コストを考慮し,税調整後のトービンの限界q(資本の限界収益率と資本の限界調達費用の比)を用いている。もとよりこの分析手法は,ある変数の現在の値を予測する上で,その変数の過去の値の他に他の変数の過去の値をつけ加えた方がよりよい予測が行えるかどうかを調べるものであって通常よりも緩やかな意味での統計的な因果関係を検討しようとするものである。以下ではある変数の予測誤差の分散が,他の変数に生ずるショックの分散によってどの程度影響されるかを“与える影響”または“影響”という言葉で表現することにするが,これは通常の意味での因果関係を直接に示すものでないことに留意する必要がある。()

これによると次のことが分かる。

第一に,経常収支の行を横にみると,設備投資比率が経常収支に“与える影響”はかなり大きいのに対して,家計貯蓄率が経常収支に“与える影響”は無視しうる大きさであることがわかる。

第二に,設備投資比率の行を横にみると,自分自身の与える影響が大きく,設備投資比率の独立性が高いことが示されている。また,税調整後のトービンの限界が“与える影響”は,時間の経過とともに大きくなっている。これに対して,家計貯蓄率の“与える影響”は無視しうる大きさである。

第三に,逆に家計貯蓄率に対しては,自分自身を除くと設備投資比率,及び税調整後のトービンの限界qの“与える影響”がかなり大きい。第二,第三の事実は,家計貯蓄率に対して設備投資比率の変動がある程度“影響”しているのに対して,逆の方向への“影響”は限られたものであることを示していよう。

第四に,経常収支比率の列を縦にみると,経常収支の変化が設備投資比率や家計貯蓄率に“与える影響”は極めて小さいことが分かる。また,実質実効為替レートが設備投資比率や家計貯蓄率に“与える影響”も大きなものではない。これは対外部門における不均衡の発生が民間の貯蓄投資バランスに“与える影響”は限られたものであることを示していよう。

以上のことから,第一に民間設備投資活動が経常収支に“与える影響”は大きいが家計貯蓄率の“与える影響”は小さいということが分かる。こうした結果が生ずるのは,国内投資率の中期的な上昇がまず成長率を変化させ,それが家計貯蓄率を高めるという効果が,家計貯蓄率の上昇による実質金利の低下が国内投資率の上昇をもたらすという効果を上回っている可能性を示唆していると言えよう。また,第二に対外部門の不均衡が,国内の貯蓄や投資に“与える影響”は,実質実効為替レートを通ずる径路を除くとほとんど無視しえる大きさである。従って,国内民間部門の投資-貯蓄バランスと対外部門のバランスとの相互依存性については,前者-とりわけ民間部門の投資-が後者に“与える影響”が主要なものであり,対外部門の不均衡が国内民門部門の投資一貯蓄バランスに“与える影響”は限られたものであると言えよう。

4. 貯蓄の国際移動

一国の国内に投資超過傾向が発生した場合には,経常収支は赤字化する傾向がある。他方,資本取引面では国内の投資超過傾向が海外からの資本の流入でファイナンスされることとなる。しかしここで資本の流出入は完全な形で行われているのか,すなわち国際的な資本または貯蓄の移動は,現在何の障害もなく円滑に行われているのであろうかという疑問が生ずる,そこで次にこの問題を検討してみよう。

仮に,国際的な貯蓄の移動が完全な形で行われており,国内投資と海外投資が完全代替的であるとすれば,国内投資と国内貯蓄との間の対応関係は失われるはずである。逆に,国際的な貯蓄移動が全く行われない場合には,国内投資と国内貯蓄とは厳密な形で1対1の対応関係が保たれているはずである。さらに不完全な形であっても国際的な貯蓄移動が生じている場合には,国内投資と国内貯蓄はつながりは保たれているものの,両者の間に厳密な形での1対1の対応関係は存在しないことになる。

この三つのケースの内のいずれが妥当していたかを1960年代と1970年代の先進17カ国のクロスセクション・データをプールすることによって調べると次のようなことが明らかとなる(第2-14表)。

まず第一に,19GO年代(1960~69年)においては,国内貯蓄率が1%上昇した場合に,国内投資率1.03%上昇した。1970年代(1970~81年)には国内投資率の感応度は小さくなり,1%の国内貯蓄率の上昇に対し,国内投資率の上昇は0.96%となっている。いずれの場合も国内貯蓄と国内投資との間につながりは強いことを示している。

しかしながら第二に,国内貯蓄率にかかる係数はいずれの期間においても1から有意に乖離している。つまり両者の関係は厳密な形で1対1の対応関係が保たれているとは言えない。

以上のことから,国内投資のかなりの部分は,国内の貯蓄によりファイナンスざれているものの,不完全な形では国際間の貯蓄移動が生じていると推察できよう。

こうした国際的な貯蓄の移動はネットでは,一国の経常収支の黒字幅,赤字幅によってほぼ決定される,これは,国際収支表において経常収支の黒字(赤字)は,金融勘定及び外貨準備の変化を含むフローでの短期および長期の資本流出(流入)額に対応しているからである。

具体的な例をあげると,日本の対米経常収支の黒字は,昭和55年の63億ドルから昭和57年には143億ドルへと拡大している。従ってこの間に日本からアメリカへの貯蓄移動は80億ドル(日本の57年の名目GNPに対する比率で0.8%)増加したことになる。

一方で,日本の対米経常収支黒字の拡大は,近年の日米間の貿易摩擦の高まりの背景をなすものである。しかし,他方,それは同時に国民所得勘定の上ではアメリカの海外部門の貯蓄増加となって現れる。従って,この国際間の貯蓄移動は現在アメリカ国内において大幅な財政赤字と民間部門の投資意欲の高まりによる投資超過をある程度緩和するよう作用したと言えよう。逆に,日本ではその分だけ貯蓄超過が減少したことになる。

こうした貯蓄の国際移動は各国の実物資本に対する実質期待収益率,実質金利などの多様な要因によって多くの影響を受ける。例えば,国内の実物資本に対する実質期待収益率が景気の好転などによって上昇した場合,国内の設備投資活動のみならずその国の海外投資にも多くの影響が生ずる。第2-15図には,日本における直接投資収支の対名目GNP比率とトービンの限界q(資本の期待限界収益率と資本の使用者費用の比率)の動きが示されている。この両者の間には緩やかであるが正の相関関係が存在している。これは,為替レート等の他の事情が一定であるとれば日本国内における技術革新の進展等によりトービンの限界qが上昇すると,日本の海外投資活動が抑制され外国による日本への直接投資活動が活発化する傾向のあることを意味している。

ところで,世界各国で高雇用が達成されているのかいないのかによって一国の実質経常収支の変動に伴って発生する貯蓄の国際移動は他国の経済活動,特に雇用に異なった影響を与える。すなわち,有効需要不足に基づく失業問題に悩んでいる国において,他国から貯蓄の流入(二国間の輸入超過)があった場合には,経済にデフレ圧力が強まることになる。この時同時に他国から直接投資が行われれば雇用に対する悪影響はある程度緩和されるが,そうした事態が常に生ずるわけではない。しかし逆に,高雇用に近づき国内貯蓄が不足している国においては,他国からの貯蓄の流入は,国内の投資超過傾向を緩和する役割を果たすことになる。このように対外部門のバランス変化は国際間の貯蓄の移動をもたらし,各国における動態的な資源配分に影響を与える。

一つの例示としてアメリカのケースを取り上げてみよう。アメリカでは物価の鎮静化,金融政策の転換を基本的要因とし,それに加えて設備投資促進措置もそれ自体としては設備投資にプラスの方向に作用したと考えられることなら,1983年後半以来設備投資が活発化しているが,これはアメリカの景気回復,経常収支の大幅な悪化をもたらし,その限りにおいては他の諸国の景気回復を促進する方向に作用している。

しかしながら,第4章で詳しく論ずるように,債券市場における先進諸国の実質長期金利がアメリカの実質高金利にさや寄せられるという状況が1980年代に入って強く現われている。このアメリカにおける実質高金利は,大幅な財政赤字と低水準の民間貯蓄率によって生じており,ドル高を通じて大幅な経常収支赤字の主たる原因となっている。さらに,アメリカでは支払い利子に対する課税所得からの控除が行われていることもあって金融政策の効果が一部減殺され,これが逆に実質高金利を持続させる要因となっていることも経常収支赤字を拡大する一因となっていると考えられる。

さらに,世界各国の景気回復が進み,各国が高雇用に近づいた状況の下でも,アメリカ国内における投資超過傾向から,アメリカの大幅な経常収支赤字大幅な資本流入が続くとすれば,それは,世界経済全体の資本の配分にとって望ましいとは言えない。なぜなら,そうした状況の下では,他の国-特に発展途上国-はより安い金利で利用できたはずの資本流入が削減されることになるからである。

仮に発展途上国への直接投資の額が削減されれば,直接投資に伴う生産の拡大,投資収益に対する税収増加の機会が当該発展途上国から失われることになる。

逆に,アメリカのいくつかの州政府による合算課税(州の法人税の計算に当たって関連企業グループ(海外の企業を含む)の全所得を基礎として州内企業の所得を一定の方式で算定するもの)は,アメリカの州政府の税収を増加させるがアメリカ以外の国による対米直接投資を阻害し,資本の効率的な利用を損なうことになる。こうした対外投資収益に関するアメリカ州政府の税制は,現在の二重課税防止協定の精神にも反すると言えよう。