昭和58年

年次経済報告

持続的成長への足固め

昭和58年8月19日

経済企画庁


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第2章 景気回復と持続的発展の条件

第4節 サービス経済化・技術革新と成長力

既に第1章第2節でも述べたように今回の景気調整局面における1つの特徴は,サービス支出・耐久消費財支出を中心にした個人消費の緩やかな拡大が景気の下支え要因として働いたことである。また雇用の面においても第1次石油危機以降製造業では雇用の減少傾向が生じたのに対し,サービス関連産業を中心に雇用の増大がみられる。その反面,サービス経済化が進展するなかで,わが国の成長力や国内需要の伸び鈍化するのではないかとの危惧が表明されることがある。こうした問題は,わが国において内需主導型の持続的な成長がどの程度可能なのかという問題と密接な関わりがある。わが国の場合サービス経済化は情報化を中心とした技術の進展により促進された面が大きいと考えられるが,こうしたサービス経済化・情報化がわが国の景気変動や経済成長力にどのような影響を与えたのか,就業構造,家計の支出構造,産出構造,技術進歩等の観点から調べることにしよう。

1. サービス経済化・情報化の進展

(わが国におけるサービス経済化の特徴)

一般に経済発展が進むにつれて資本,労働力,所得が第1次産業から第2次産業,さらには第3次産業へと移動してゆくと言われている。(ペティ=クラーク=クズネッツの仮説)。すなわち1人当り所得水準の向上,工業化に伴う都市化の進展,余暇時間の増加,教育水準の高度化,人口の高齢化などを背景として財よりも次第にサービスに対する需要が生産および支出の両面で高まるとされている。そうした一般的な意味では,わが国の場合も近代化への歩みを開始した時点からサービス経済化は始まっていると言えよう。しかしながら,わが国におけるサービス経済化が本格化した段階に達したのはかなり最近のことと考えられる。サービス経済化への質的変化の尺度としては就業構造に関して次の2つの考え方がある。その1つは,第3次産業の就業者が経済全体の就業者の半分以上をしめるようになったことをもって本格的なサービス経済化の始まりとするものである。この定義はダニエルベルによって脱工業化社会の始まりを示すものとして用いられている。

もう1つの尺度は,第2次産業の就業者の構成比が減少すると共に第3次産業の就業者の構成比が上昇することをもって本格的なサービス経済化の始まりとするもの(ガーシュニイ)である。この考え方は,経済の発展につれて第1次産業の就業者が全就業者にしめる割合は減少するが,当初は第2次産業と第3次産業の双方の就業者の構成比が増大する。従って,本格的なサービス経済化の始まる時期としては第2次産業での就業者の構成比が減少して,第3次産業の構成比のみが増加に転ずる時期を用いることが適切であるとするのである。

第2-24図 は,日本,アメリカについての時系列での就業構造と1人当り国民所得との関係を示したものであり,他の先進国についても最近時点の両変数の関係がプロットされている。この図からわが国の第3次産業の就業者の構成比が50%を越えたのは,かつてのアメリカと同じく1人当り国民所得がほぼ3,000ドル(1972年米ドル価格)となった1970年代半ばであることがみてとれる。さらに,ほぼ内同じ時期にそれまで一貫して上昇傾向を示していた第2次産業の就業者は減少し始めている。従って就業構造に関する2つの尺度のいずれから判断しでもわが国が本格的なサービス経済化の段階に達したのは1970年代半ばの高度成長から中成長への移行期であったと言えよう。この時期は同時に情報化が大きく進展した時期に当たっている。アメリカにおいてはすでに1950年代半ばにこうした就業構造の変化が生じており,わが国はアメリカと比べると4分の1世紀ほど遅れていることが分る。

わが国のサービス経済化を他国と比べた場合の特徴としては以下の諸点があげられる。その第1はサービス経済化が急速な進展を示したことである。わが国のサービス経済化は先進国のクロスセクションのデータから予想されるパターンにほぼ沿った形で展開して来た。しかし,その変化は急速であり,第1次産業の就業者構成比は昭和35年の32.5%から昭和55年の10.8%へと急速に減少している。一方,第3次産業の就業者構成比は,同じ期間に38.2%から55.4%へと急上昇している。こうした比較的短期間における就業構造の大幅な変化は他の先進国をほるかに上回るダイナミックなものであった。また同時に,この背景には急速な都市化の進展があった。戦後直後のわが国の都市人口比率は約28%であったが,昭和45年には約72%となっており,アメリカとほぼ等しい水準に達している。アメリカにおける都市人口比率が28%程度であったのは1880年代であり,わが国の都市化の進展は戦後の市町村合併といった行政区域再編成の効果が含まれているものの,アメリカと比べて極めて急速であったことが知られるのである。

さらに第2に,第3次産業においても狭義のサービス(対個人サービス,コミュニティ・社会サービス)に従事している就業者の比率は55年に約20%であり,他の先進国よりもやや低い水準にある。他方,事業所関連サービスの伸びは,情報関連サービスについで大きい。このことは,近年惣菜宅配サービスなど伸びの高い個人サービスもあるが,わが国のサービス経済化の進展は産業需要の高い伸びを背景としたものであることを示唆していよう。

第3に,わが国のサービス経済化が情報化が進む中で大きく進展したことである。とりわけ50年代に入ってからの情報関連サービス業の伸びは大きく,第2次産業内部での情報処理体制の充実も考慮すると情報化の進展は著しいと言える( 第2-25図 )。

今後のサービス経済化の進展については,わが国が他の先進国のクロスセクション・データから予想されるパターンをたどるとすれば,第3次産業の就業者比率は約60%,第2次産業のそれは約35%へ近づくものとみられる。ただし,先進諸国における第3次産業比率と1人当り国民所得との関係にはややばらつきが大きく,アメリカ型のように所得水準に比して第3次産業比率の高い国と西ドイツ型のように低い比率の国があり,かりにわが国がアメリカ型をたどるとすれば第3次産業の就業者構成比は,65%程度まで高まる可能性があろう。さらにわが国の狭義のサービスについても人口の高齢化等を背景に北欧型のパターンをたどるとすれば社会・コミュニティ・サービス,対個人サービスの就業者比率は30~33%まで高まる可能性もあると言えよう。

第2-26表 第3次的職業の構成比

以上わが国のサービス経済化の進展を主として,就業構造の面から観察して来たが,そこで注意すべきことはサービス経済化には,内部化と外部化の2つの側面があることである。第3次産業の就業者比率の増加は,サービスの外部化をはかる尺度としては適切であるが,サービスの内部化の進展の度合いを知ることは出来ない。内部化されたサービスを正確にはかることは極めて困難であるが,就業構造を第1次,第2次産業就業者の中でも,販売・管理・事務部門などサービス生産従事者を取り出すことによって内部サービスも含めたサービス経済化の進展をより正確に把握することが出来よう。 第2-26表 は国勢調査を用いて,物財の生産に従事する第1次的,第2次的職業従事者とサービス生産に従事する第3次的職業従事者に分類したものである。これによると第3次的職業従事者の構成比は昭和55年に64%となり,第3次産業の就業者比率55.4%を10%程度上回っていることがかわる。ここからも財生産部門である第1次,第2次産業内部においてサービス化ががなり進展していることが見てとれよう。

2. サービス経済化と景気変動

サービス経済化が進むと,①サービス生産は財生産と比べて消費関連需要への依存度が高いこと,②在庫が存在しないため在庫変動が生じないこと,③サービス生産部門での資本産出高比率が財部門のそれよりも低いことから景気循環の振幅は小幅化し,安定化するのではないかと言われることがある。

いま消費需要の増加により誘発された第3次産業の生産増が,第3次産業全体の生産額の中でどの程度の割合をしめているか(消費依存度)を調べてみると約0.8程度ある。これは製造業の倍近い大きさである( 第2-27図 )。このことは消費の変動幅が他の需要項目より小さい限り,サービス生産の変動幅が財生産のそれを下回ることを示唆していよう。また,第3次産業の中でも消費依存度の高い業種では変動幅がより小さくなる傾向がある。しかし他方で,個人サービスと公務・公共サービスは共に消費依存度が1にほぼ等しいにもかかわらず,前者は対事業所サービスと同程度の比較的大きな変動幅を示している。これに対し後者は変動幅がほとんどゼロに等しくなっている。これは同じ個人に対するサービスであり,消費依存度が等しい場合であっても,必需的サービスと選択的なサービスとではその変動幅に大きな差があると言えよう。また,消費に関連した生産活動の中でも耐久消費財生産の変動幅は,製造業全体のそれを上回っている。以上のことから,個人消費支出の中でも選択的サービス支出,耐久消費財支出の割合が増加するにつれ個人消費の景気感応度は,大きくなる傾向があると考えられる。

(個人消費支出におけるサービス化)

第2-28図 は57年における所得階層別の食料支出(外食を除く),耐久消費財支出,サービス支出(外食を含む)の全支出にしめる割合を示したものである。この図から食料支出の割合は所得(月収)が高くなるほど小さくなっている(エンゲルの法則)のに対して,耐久財支出,およびサービス支出の割合は上昇傾向を示していることが分かる。特に,耐久財支出の割合は,月収50~60万円の所得断層以上では頭打ち傾向にあるのに対して,サービス支出の割合は所得水準の上昇と共に増加を続けている。すでに述べたようにサービス経済化の進展には内部化と外部化の2つの側面があるが,家計についても一方では耐久財の購入によりサービス支出が代替される(内部化または,セルフ・サービス化)面もある。たとえば,家庭内のテレビ,有線放送の普及が映画館に代替することがこれである。内部化の進展は耐久財生産部門における技術革新や新製品の登場によって影響を受けると考えられるが,耐久財の購入が一巡した高所得層では,サービスの内部化に限界があり,外部化されたサービス支出の購入に対するウエイトが高まると考えられる。

最近におけるサービス支出の特徴を調べるために,サービス支出を財支出と同じく必需的サービス支出(家賃地代,文通,授業料等)と選択的サービス支出(外食・家事サービス宿泊料,自動車整備費,関連サービス等)に分けてその所得階層別の動きをみると次のようなことが指摘出来る( 第2-29表 )。まず第1に50年と57年をとって比べてみるといずれの階層でも選択的サービス支出の伸びが高い。特に高所得層では選択的サービス支出の伸びが他の支出項目に対する伸びをはるかに上回っている。しかも,実質ベースでは選択的サービスに対する支出のみがプラスとなっており,選択的財支出の伸びはマイナスとなっている。これは高所得層では家庭用耐久財や自動車の購入がすでに一巡していることによると考えられる。

第2に,家計の支出構造を年齢階層別にみると,必需的サービス支出は授業料等の教育支出の増加から40歳代で最も高くなっている。他方,選択的サービス支出は40歳代が最も低く,20歳代と59歳以上で高くなっている。これは若年層で自動車関連サービスの支出が高く,高年齢層ではパック旅行者など宿泊料のウエイトが高いためである。この結果,サービス支出全体をとってみると,わが国の場合これまでのところ年齢階層間でサービス支出比率に特に目立った差異はないと言えよう。

第3に,これら4つの支出項目の所得弾性値,価格弾性値をみると選択的サービス支出がいずれの弾性値をとっても最も高い(1.47と1.05),必需的サービス支出と選択的財支出は,所得弾性値がほぼ等しい(0.9)が,価格弾性値は後者の方が大きい(それぞれ0.06,0.71)。従って,サービス経済化の進展がとりわけ選択的サービス支出と耐久財支出の増加を伴う限り,個人消費支出の景気感応度はより高まる側面もあると考えられる。しかし,個人消費そのものの景気感応度が高まるにせよ個人消費の変動幅は依然として他の需要項目と比べて小さい。

(サービス経済化と在庫)

サービス経済化の進展により景気変動がより緩やかなものになると考えられる第2の要因はサービスには在庫が存在しないことである。需要項目の中でも民間在庫投資はその変動幅が最も大きく経済変動に対し大きな影響を与えている。この在庫投資がサービス部門に存在しないことそれ自体は,経済変動の幅を小さくする要因であると言えよう。しかし他方で,サービス需要は一定時間に集中するといった問題もあり,そうしたサービス需要の変動に対しては在庫の変動がないために,雇用面での調整,価格または企業収益,さらには,資本稼働率に直接影響を与える可能性が強い。事実,第3次産業においては雇用者所得の変動幅は第2次産業のそれよりも小さいものの営業余剰の変動幅は第3次産業の方が大きくなっている。また雇用面でも雇用調整の容易なパート,臨時日雇に依存する度合いが高まり,雇用の変動はサービス経済化が進むにつれてむしろ増大する可能性もある。しかしながら,現実に第2次産業と第3次産業における雇用者数のトレンドを除去した変動の度合いを比較してみると,45年から57年にかけて前者は1.6,後者は0.6であり,第3次産業の方が雇用変動は小さい。従って,第3次産業の生産活動に対して大きな影響力をもつ需要の変動が主として消費に関連したものであることの効果が,在庫変動のないことによる雇用の景気感応度の高まりの効果を上回っていると言えよう。

(サービス経済化と設備投資)

サービス経済化が景気変動に与える第3の効果は設備投資を通ずるものである。ちなみに第3次産業の設備投資が全産業の設備投資にしめる割合は,40年の38.8%から56年には43.1%へと高まっている。サービス部門における設備投資の需要変動に対する感応度や金利感応性の高いことは,設備投資の景気感応度を高める要因であると考えられる。しかしながら,①サービス部門では限界資本・産出高比率が財部門よりも小さいため,一定の最終需要の変化に対する設備投資の変化幅は財部門のそれよりも小さくなること,②非製造業の資本ストック調整速度は製造業のそれよりも長く,明瞭な変動パターンが観察しにくいこと,③需要の変動といってもそれが主として消費に関連したものであることを考慮すると,サービス経済化の進展は,全体として設備投資循環の波をよりなだらかなものにすると言えよう。

他方,情報化等の進展に伴い第3次産業の資本装備率が上昇するとともにその設備投資の割合が高まることは,同時に第3次産業が第2次産業の経済活動に対し従来より量的にも質的にも,大きな影響を与えるようになっていることを意味している。さらに最近のリース業の発展にみられるように,第2次産業の設備投資をサービス部門で直接代替する動きが生じている。こうした動きは,サービス経済化の進展によって財生産部門とサービス生産部門の相互依存性が一層強まっていることを意味しており,景気変動に対する財部門とサービス部門の共変性を強めると考えられる。

以上,サービス経済化の進展と景気変動については,最終需要との関連では消費依存度が高いこと,およびサービス部門での設備投資のシェアが高まることは,景気変動を小幅化するよう作用すると考えられる。また,サービスに在庫が存在しないことは在庫循環の景気変動への影響度を減少させると考えられる。他方,①在庫の存在しないことは同時に,サービス部門の生産・雇用・価格を需要変動に対し感応的にすること,②サービス経済化の進展に伴い,耐久消費財支出や選択的サービス支出が増大することを通して個人消費の景気感応性が高まること,③サービス部門と財部門の相互依存性が強まっていることは無視出来ない。こうしたサービス経済化に伴う景気感応度の高まりがあるにせよ,全体としてサービス生産は消費関連需要とのつながりが強いことから景気変動をより安定させる効果の方が大きいと考えられる。

3. サービス経済化・技術革新と成長力

(産出構造からみたサービス経済化)

一般にサービス経済化が進むと,①サービス生産部門の生産性は財生産部門の生産性よりも伸びが低く,②サービス価格の上昇率は財価格のそれを上回ることからスタブフレーション的傾向が強まると言われることがある。

産出構造の面からサービス経済化の進展をみると名目GNPの構成比では第3次産業のシェアは昭和45年には52.8%であったものが56年には60.1%になっている。また,第3次産業の中のサービス業の構成比をとってみても同じ時期に9.6%から11.8%へと増加している。しかしながら,これを実質GNP(昭和50年価格)の構成比でみると第3次産業の構成比は同じ期間にほぼ横ばい気味であり,かつサービス業の構成比は昭和45年の11.9%から56年には10.0%へと減少している。従って,名目GNPの構成比からみたサービス経済化と就業構造の変化とは斉合的な動きを示しているが,実質GNPの構成比とは必ずしも斉合的なパターンを示していない。

こうした産出構造面と就業構造面におけるサービス化の進展に関する動きについては以下のようなことが言えよう。まず財およびサービス需要の所得弾性値を比べた場合,かりにサービス需要の所得弾性値が大きいとすれば,これは経済の成長過程で第3次産業の産出・就業両面におけるシェアを増大させるよう働く。他方,労働生産性の伸びについては財部門の方が高いとすると,財およびサービス需要の伸びと所得弾性値が同じであるとしても第3次産業の相対的な雇用吸収力はより大きいことになる。また,財およびサービス部門での名目賃金率には差がないとすれば(事実就業者1人当り雇用者所得でみると第2次産業と第3次産業ではほとんど差がない),サービス部門での価格上昇率は財部門のそれを上回る傾向が生じよう。この時,サービス価格上昇によるサービス需要減退の効果よりも,財とサービスの所得弾力性および労働生産性の差から生ずる効果の方が大きい限り就業・産出構造における第3次産業化が進むことになる。

第2-30図 産業別就業者数増減の要因分解

この就業構造の変化の問題について,産業連関表を用いて分析してみると,第3次産業への労働人口のシフトは両部門における労働生産性の伸びの差による面が大きいことが分かる( 第2-30図 )。また,第3次産業から第3次産業に対する中間投入の増大を反映して第3次産業の投入構造はより労働多用的になっていると言えよう。さらに最終需要の産業別構成比の変化は,第3次産業の就業者を増加させるよう働いている。他方,生産の迂回度を示す付加価値率の変化は,サービス生産過程における合理化の進展を反映して第3次産業の就業者を減少させるよう作用している。

以上の要因が作用した結果,就業構造での第3次産業化が進展して来たと言える。結局産出面で時系列でみた名目GNPと実質GNPの構成比変化の差異は,主として財とサービス部門の生産性格差から価格の相対的な上昇率の差が生ずることを反映したものと言えよう。

しかしながら,実質産出構造については①サービス部門にも金融保険業など製造業とほぼ等しい労働生産性の伸びを示す業種が存在し,しかもそうした業種での売上高の伸びの大きいこと,②いわゆるサービス料金の上昇率には,サービスの質的向上が含まれていること,③第2次産業部門でのサービス化の進展といった点を見逃すことは出来ない。

ここでサービス価格の形成について,1つの例示としてビジネス・ホテルの料金決定を調べてみると,52年から56年にかけて,料金は27.6%上昇している。このホテル・サービスの料金は,そのサービスのもつ様々な特性-たとえば部屋の広さ,風呂・トイレの有無といった部屋の属性のほかに交通の便がよいこと,情報の集積している地域に立地しているといった地域的属性-を反映して決定されていると考えることが出来る(価格決定に関するヘドニック・アプローチ)。こうした特性の変化を考慮してホテルの宿泊料金の上昇を計算してみると,質的向上による料金上昇分( )は27.6%のうちの6.2%,すなわち約2割にも上っていることが知られるのである。

次に第2次産業におけるサービス経済化の進展については,サービスの内部化(間接部門の増加)と外部化(第3次産業からの中間投入の増加)とを考慮する必要がある。

製造業における就業構造を生産の直接部門と販売・管理といったソフトな間接部門とに分けてみると昭和40年から45年にかけては直接・間接両部門で雇用増加がみられた。ところが45年以降直接部門での雇用はむしろ減少し始め間接部門の雇用も横ばいとなった。さらに54年以降は間接部門のみで雇用増が生じている。間接部門の雇用比率は45年の27%から56年には35%と上昇している。こうした製造業内部でのソフトな部門での雇用者のウェイト増大は,不況期における企業内での雇用調整による面もあるが,中期的には第2次産業内部におけるサービス化の進展を示すものと言えよう。いま,この直接部門と間接部門における労働投入原単位の減少率を比べてみると直接部門の方が資本装備率が高く,また技術進歩率もこの間に年率6.4%増と間接部門の2.5%を上回ったため直接部門の方が高くなっている。しかし,間接部門の労働投入原単位の減少率も年々7.3%と比較的高い水準にあることは注目すべきであろう( 第2-31図 )。すなわち,製造業部門と相互依存度の高い部分のサービスの分野では,在来型のサービスよりも高い生産性の伸びが期待できることを示唆しているからである。

第2-32図 中間投入(実質)におけるサービスの推移

こうした第2次産業でのサービスの内部化に加えて,第3次産業から,第2次産業に対する中間投入の増加がみられる( 第2-32図 )。第2次産業においては,第2次産業からの中間投入係数は,傾向的に減少気味であるのに対して,第3次産業からの中間投入係数は情報関連サービスを中心に上昇傾向にある。さらに,第2次産業から第3次産業への中間投入係数も情報関連財を中心にやや高まりがみられる。こうした情報化を軸とした第2次産業と第3次産業の相互依存度の高まりは今後の成長力について多くの示唆を与えている。すなわち,高度成長の時代に第2次産業を中心として「投資が投資をよぶ」過程が高成長をもたらしながら,サービス経済化の時代において必ずしも「サービスがサービスをよぶ」形での成長が促進されるとは考えにくいことである。サービス部門は財生産部門に一層依存し,他方財生産部門も間接部門を含めたサービス部門への依存を強めることによってのみ経済成長が確保されるものと考えられるのである。

(サービス経済化と成長力)

一般にサービス経済化の進展は,一国の労働生産性や技術進歩率を低めると言われることがある。しかしわが国におけるサービス経済化と経済成長の関係を考えるに当たっては,①サービス・財両部門での相互依存性が深まる中で,技術革新が進展していること,②サービス部門での資本装備率や知識集約度の上昇によりサービス部門での労働生産性の伸びを高める余地の大きいことといった点は見逃すことが出来ない。

たとえば,技術進歩率については第2次石油危機以降それが大きく低下し,わが国の潜在的な成長力も低下したと言われることがある。しかしながら,40年代後半以降わが国の経済成長率について,①第1次石油危機以前,②第1次石油危機発生から第2次石油危機以前,③それ以降の時期の3つの時期について,その決定要因を①主として技術進歩率を示す全要素生産性,②資本ストック,③労働投入,④資本ストックが陳腐化したことによる効果の4つに分けて,調べてみると次のようなことが指摘できる。まず,第1次石油危機以前と以後では資本ストックの寄与度と技術進歩率の双方が低下し,経済成長率は半減している。これに対し,第2次石油危機以前の時期とそれ以後の時期をとってみると,資本ストックの寄与度と技術進歩率には大きな差異は生じておらず,労働の寄与度は第2次石油危機後に高まっている。一方,エネルギー価格の変化等による資本の経済的効率性の低下は第1次石油危機以降,成長率を引下げるよう作用している( 第2-33図 )。

以下は,経済全体の成長率の動向に関する分析であるが,次に同じ時期における製造業の業種別労働生産性の動きを①全要素生産性,②資本-労働比率,③需要の変化の3つの要因に分けて分析してみよう。まず製造業全体では第1次石油危機以前には全要素生産性と資本-労働比率の大きな伸びが労働生産性を大きく高めている。これに対して,第1次石油危機後には,資本-労働比率の寄与度が大きく縮小し,全要素生産性の伸びがやや低下している。さらにほとんどの業種で需要の伸びの停滞が労働生産性の伸びを低めるよう作用している。ところが,第2次石油危機前後の時期においては全要素生産性に再び高まりが見られる( 第2-34図 )。

しかし,全要素生産性の業種間の跛行性は大きい。すなわち,機械類を中心とする加工型産業では第1次石油危機以前のそれにい伸びを示しているのに対し,素材型産業では伸びが小さくなっている。また輸出を中心とした需要の伸びも加工型産業における労働生産性の伸びを高めていると言えよう。

ここで第1次石油危機後の時期における全要素生産の伸びの鈍化が目立っている。この全要素生産性の変化は主として技術進歩率の変化を示すものであるが,エネルギー価格の変化等を反映した資本の経済的効率性の変化の影響を受けている可能性がある。いずれにしても,これらの分析からは,わが国経済の製造業における技術進歩率や労働生産性が第2次石油危機を前後にして低下したとみる証拠は少なく,むしろ業種別にみるとマイクロエレクトロニクスを中心とした技術革新を背景に技術進歩率の上昇傾向すら観察されることは注目に値いしよう。

次にわが国のサービス部門の動向についてはサービス経済化を質的な側面すなわち,知識集約度,資本装備率といった面で比較してみるとサービスの経済化の進んでいるアメリカとはまだかなりの較差がある。たとえば第3次的職業の中でも人的資本の蓄積が必要とされる専門的・技術的職業従事者の比率はアメリカの方が2倍程度多くなっている。事務・販売従事者の比率は,日米間で大きな差異はないことを考慮するとわが国の場合は,知識集約的な部門でのサービス化の一層の進展をはかる余地がかなりあると言えよう。これを先進諸国における1人当り所得水準との関係でみると専門的技術的職業従事者のシェアと所得水準の間にはかなり密接な正の相関関係があり,他方,販売従事者については,伝統的な流通部門での合理化を反映してむしろ所得水準とは負の相関関係を示している( 第2-25図 )。資本装備率についてもわが国はアメリカより,はるかに低い水準にあり,資本装備率の上昇により生産性向上を図る余地もまた大きいと言えよう( 第2-35図 )。さらに高度化されたサービス投入の増加は財部門での成長力を高めるものと期待される。現実に医薬品,電気機械などサービス投入比率の高い業種では高い成長性のあることが示されているのである。

以上のことから,わが国におけるサービス経済化の進展の過程では,①資本集約度,知識集約度の面でなお生産性向上の余地が残されており,②情報化を背景として財部門との相互依存性が高まっていること,③こうした中で経済全体の技術進歩率は第2次石油危機後も,従来と同程度の伸びが維持されていることがわかる。従って,サービス経済化が直ちに成長力を低下させ,スタグフレーション的傾向を強めるものではない。また,そうした事態を回避するためにも,研究開発投資の増加による技術進歩の促進,サービス部門の知識技術集約化・資本集約化を一層進めることが求められていると言えよう。

(今後の技術革新と内需の拡大)

戦後におけるわが国の技術革新の展開を振り返ってみると,3回の大きなうねりがあったとみられる。その第1は,昭和30年代の合成繊維,プラスティック,合成ゴム,家電製品,LD高炉を中心とするものであった。第2は,40年代の自動車,大型高炉DTVを中心とするものであった。第3は,50年代に入ってからのマイクロエレクトロニクスを中心とするNC工作機械,ロボット,半導体VTR,エア・コンディショナーを中心とするものである。この第3の時期においては,生産過程の複合化,システム化が進展し第3次産業によるデータ,情報関連サービスと結びついて技術が展開していることが特徴的である。この第3の時期における技術革新は,第2次石油危機直前の時期に始まる設備投資ブームを経過する中で生産過程に体化されたものと考えられる。この結果,すでにみたように第2次石油危機以降もわが国の技術進歩率はほとんど低下せずわが国の経済成長力を維持する役割を果していると言えよう。

第2-36図 新規産業の市場規模(1975年価格)

この第3の時期の情報化の進展について,これを人類社会における,農業技術,工業技術につぐ情報技術の革命とする見方がある。これまでそれぞれの技術革新に伴って,農業社会,工業社会への移行がなされた情報化技術は情報化社会への移行期をもたらすと考えるのである。そして,この情報化革命の1つの特色はその進展が極めて速いことにあるといわれている。他方,現在のマイクロエレクトロニクス関連の技術が,雇用に与える効果は小さなものにとどまるとする見方もある。また雇用についてはすでに第1章第3節で述べたように,マイクロエレクトロニクスの導入により今後中年層の労働者や女子労働者の雇用に部分的に影響力が及ぶ可能性もある。しかしこうした問題についてはむしろ個々の企業での生産性向上努力が経済の活力を強め,雇用機会の拡大を図ってゆく方向で解決してゆくべきであろう。

第2-37図 全要素生産性上昇率と研究開発投資比率

第2-36図 は,戦前からの技術革新とそれによりもたらされた市場規模の関係を示している。戦後における50年代後半の,第3期の技術革新においては,マイクロエレクトロニクスやバイオテクノロジーは市場規模としてかなり大きく,また新素材,光産業も急速な伸びが期待される。しかし,新技術のもつ間接的効果が市場の拡大に,与える大きさについてはなお未知数の部分も多いと言えよう。わが国において研究開発投資と技術進歩率との間はほぼ3~4年のラグがあると言われており,業種別にみても高い相関がみられる( 第2-37図 )。また,新材料,バイオテクノロジー,新機能素子などの次世代技術については,自主的な開発が中心となることから研究開発から企業化までの期間は今までより長期化すると考えられる。従って,これら次世代技術の開発促進など独創的な革新技術のシーズの探索育成に力を入れることは,国内市場の需要拡大と供給能力の維持のための不可欠の条件になっている。