昭和58年

年次経済報告

持続的成長への足固め

昭和58年8月19日

経済企画庁


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序章

7. 財政均衡化過程における景気調整政策

現在国の財政はその構造的赤字を解消し健全性をとり戻すため,財政の均衡化と効率化を推進しつつある。これは前に述べた公共部門の一部にある非効率性と,受益と負担の関係の不明確化が国の一般会計の赤字に集中的に反映されているからに他ならない。

こうした財政均衡化の過程は短時日には達成できず一定の期間を要するとみられるが,その間財政の景気調整機能についてどう考えるべきであろうか。その間の緊縮的運営が,経済に一定のデフレ効果をもたらす惧れがあると考えられる。また他方,景気変動が対外均衡へ及ぼす影響にも留意する必要がある。

財政の景気調整機能に関しては,確かに日本の場合は法人所得の変動が景気感応的であるため,自動調整機能はかなり有効に機能しているとみられ,その機能は十分活用していかねばならない。しかし財政均衡化過程でも裁量的政策を効果的に運営することが要請される場合があろう。そうした場合,裁量的政策の硬直化をなくし,真にカウンター・シクリカル(景気変動を標準化すること)な政策として機能しうるようにしなければならない。

一方,景気調整策の有効性については,政策運営の自由度が狭まり,政策のコストが増大しているのではないかという点も十分考慮する必要がある。景気調整策の行き詰りと持続的なスタグフレーションに悩んだ他の先進諸国に比べると,日本における政策の有効性は相対的には高く維持されたが,やはり制約となりうるいくつかの要因が生じている可能性がある。その一つは,大幅な財政赤字が政策運営の自由度を狭め,将来公的負担が高まるのではないかとの予想が生ずる可能性のあることである。第二は,公共部門の活動領域の拡大が,民間の活力低下を招くことがあるとすれば,短期と長期の政策目標との間に整合性が失われる可能性のあることである。また第三は,景気刺激のための財源調達が,経済動向の如何によっては却って民間活動のための資金供給を阻害する恐れがないかという点である。さらに財政政策による景気刺激効果の乗数は過去に比べて低下しているのではないかという懸念もある。

金融の景気調整機能は,金融政策を取り巻く環境が大きく変化している中で,金利機能の活用と通貨量を重視した政策運営により,その有効性は維持されてきたと言ってよい。しかしながら,近年,海外金利,円相場,長期金利の高止りなど内外両面の制約が生じており,金融政策も政策運営の自由度を狭められている。こうした制約条件の下においては,金融政策の運営上従来にもまして機動性が要請されていると言えよう。また,対外面の制約条件となっている米国高金利についてはその是正が望まれていることは言うまでもない。

こうした状況の下では,景気調整策を実施するに当たって,経済のインバランスの程度,その構造要因と循環要因の相互関係,また政策の有効性とコストを総合的に判断しなければならない。

以上述べたように,現在の景気回復の動きを内需中心に確実なものとし,さらに安定的発展につなげていくためには,経済の現局面に対する的確な判断を行うとともに,政策の対象範囲を拡げ,複合的な政策の組み合せによって実効性を高めていく努力が要請される。さらに,短期および長期の経済政策についてその必要性と有効性に十分な検討を加え,必要と思われる施策については果断に推進していくことが必要であろう。


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