昭和55年

年次経済報告

先進国日本の試練と課題

昭和55年8月15日

経済企画庁


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第II部 経済発展への新しい課題

第3章 国際経済摩擦への対応

第3節 積極的な産業調整政策と製品輸入の促進

わが国の市場は,諸外国に対して一般的に閉鎖的ではないが,彼我の商慣行や制度の違いから閉鎖的であると誤解されることも多い。こうした誤解から摩擦が生じないようにするためには,機会あるごとに,わが国の制度や慣行について相手国の十分な理解を求めていくことが重要である。また,わが国の経済発展にとっては自由な貿易秩序の維持が最大の必要条件であり,国際的視野と,国内経済全体の両面の視野から産業調整を進めていかなければならない。

第II-3-9表 先進国における産業調整の例

それは,国内関係者には最大の努力を求めることになるが,世界全体としては,彼我の産業調整が進んでこそ,発展の基盤が形成されるのである。もちろん,わが国は,これまでにも国際的な分業関係の変化に伴い,産業調整を進めてきた( 第II-3-9表 )。たとえば,60年代には,石炭産業が急速な縮小を余儀なくされた。それは,石炭から石油へのエネルギー代替によるものであったが,同時に石炭の輸入比率も60年代初の10%台から70年代初には60%近くへと高まった。また石炭産業の雇用者は,約23万人から5万人弱へと大幅に削減された。それは厳しい産業調整の過程であったが,近年までの経済発展に大きく資したのである。

60年代に主として第1次産業で生じた産業調整は,70年代に入ると,中進国の追上げもあって軽工業の分野でも生ずるようになった。繊維産業では輸入比率が70年代中に4%から18%へと高まり,この間約30万人の雇用調整が行われた。はきものなど雑貨関係の業種でも同じような調整が進んだ。一方欧米諸国では,既に60年代から繊維,はきものなどの産業で調整が進んでおり,70年代に入るとアメリカ,イギリスなどは,鉄鋼業で輸入の増加に件う雇用調整が問題になってきている。

このような産業調整は,離職者の再就職や地域経済の振興など困難な問題を伴うものではあるが,わが国はこれまでこうした試練に耐えることによって経済の発展を続けてきた。

今後においても構造調整の必要性が増えてくることが予想されるが,構造調整に対して消極的であってはならない。OECDでは,近年積極的調整政策の検討が進められており,わが国は今後ともこれに積極的に寄与していくことが重要である。

(製品輪入の促進)

わが国の世界経済における地位の向上に件い,わが国経済,とりわけ輸入活動に対して諸外国の関心が高まり,特に製品輸入についてはその拡大要請が強くなされている。

製品輸入の拡大を図るためには,第1に輸出国の側における対日輸出努力が重要であるが,わが国としても輸出国における輸出努力をあらゆる機会をとらえて喚起するとともに,積極的な製品輸入促進の努力を行う必要がある。

製品輸入の拡大は国際摩擦を軽減するとともに,国際経済の調和ある発展を通じてわが国輸出の順調な拡大を可能にし,多様かつ低廉な輸入品の供給によって物価対策,消費者利益の増進に役立つほか,発展途上国に対する経済協力にも資するところが大きい。


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