昭和55年

年次経済報告

先進国日本の試練と課題

昭和55年8月15日

経済企画庁


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第I部 景気上昇と物価安定への試練

第5章 景気の現局面

(注目すべき特徴)

こうした内外経済の動向の中で,特に注目すべきものとして,次の諸点をあげられよう。

第1は,消費者物価への卸売物価上昇の波及が続き,ここ数か月前年同月比8%台の上昇率が続いていることである。卸売物価は,おおむね落ち着いているが,素原材料→中間製品→完成品→消費者物価の経路による物価上昇の波及は,なお警戒すべき状況にある。55年6月現在,卸売物価のうちの消費財の上昇率は前年同月比8.9%,同じく卸売物価と共通する品目の消費者物価の上昇率は12.0%に達している。

第2は,消費需要が底固さを維持しつつも,伸びが鈍化していることである。百貨店売上高は,年初3か月ほどの伸びではないが現在なお底固さを保ち,家計の消費性向も上昇してきている。しかし,家計の実質消費支出は,消費者物価の上昇を背景に,このところ増勢が鈍化してきている。

第3は,全体としての経済活動は拡大を持続しているものの,鈍化を示す動きが一部にみられることである。特に生産財産業の中では,仮需の調整の進行,海外及び国内商品市況の下落,アメリカ景気の後退と第三国市場での競争激化等を背景に,需給緩和,減産の動きがみられる。

第4は,アメリカ景気の後退である。なかでも,金利の急速な低下を背景に,ドル安傾向,国際商品市況の下落が進行した。物価上昇率も低下してきている。しかし,アメリカでは国内需要の減退を背景に,輸入が鈍化する一方,輸出圧力を強めている。また,産業活動の停滞,失業率の上昇に伴い海外からの輸入品に対する貿易摩擦の動きもみられる。

第5は,石油情勢である。目下のところ,原油価格は,需給緩和を背景に,今までのような上昇基調にはない。しかし,OPEC諸国は,本年9月の三相会議,その後年末にかけての首脳会議を控えて,新たな価格体系の検討を進めている。そして,こうした中で相対的に低い価格水準にある主要産油国の価格引上げも懸念される。


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