昭和55年

年次経済報告

先進国日本の試練と課題

昭和55年8月15日

経済企画庁


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第I部 景気上昇と物価安定への試練

第4章 今回の石油危機における財政金融政策と物価対策

第4節 重要性増す国債管理

金融情勢の変化の中で,国債の市場価格が暴落し,国債管理のあり方をめぐる議論が高まったのも一つの特徴であった。

国債は財政赤字の反映であるが,金融情勢に大きな影響を与える。

それは,①国債の発行や償還はそれ自体が金融市場の大きな資金の流れを伴っていることに加えて,②ストックとしての国債残高の累増が経済の各部門の資産選択行動を通じて金融情勢を変化させていくからである。このように,国債問題は財政と金融の接点としての問題も大きい。本節では,54年度中の国債をめぐる環境の変化を概観するとともに,国債管理のあり方をめぐる議論を整理してみよう。

(引続く国債の大量発行)

53年から54年にかけて景気の自律的上昇が進むなかにおいて,巨額の国債発行が続いた。

このため50年度から急増していた一般会計の公債収入は53年度には10兆円を突破し,公債依存度も52年度から30%台となり,54年度において国債発行減額が行われたが依然高い水準にある( 第I-4-14図 )。

このような巨額の財政赤字は次のような原因により生じた。まず第1に,石油危機後の景気後退により租税収入がはかばかしくないにもかかわらず,景気の回復を図るため財政は公債の増加を行って積極的な役割を果たした。そして,第2に,社会保障,教育等の行政サービスの水準は租税収入の伸び悩みにもかかわらず,国民生活の安定のため一層の充実が求められてきたことによる。以上の結果,歳入と歳出との間にいわば構造的ギャップが生じたのである。ちなみに名目GNPに占める歳出及び公債を除く歳入の比率をみると,50年代に入り歳出の比率は上がっているものの歳入の比率は下がっていることがわかる( 第I-4-15図 )。この財政赤字解消のためには歳出・歳入両面にわたる抜本的な見直しが必要であるといえよう。

(ISバランスと財政)

国債問題は,国民経済の貯蓄投資バランスの面からも検討しなければならない。

前回石油ショックの前後でわが国の貯蓄投資バランスは大きく変化した( 第I-4-16図 )。

それまで個人部門の高貯蓄と法人部門の高投資によりバランスのとれていた民間部門は,石油ショック直後に一時的に投資超過になったものの,その後大幅な貯蓄超過に転じ,この傾向が続いている。

一方,景気回復を目的とした積極的運営により,政府部門の投資超過部分(財政赤字)が拡大したため事後的にこの民間部門の貯蓄超過はかなり相殺された。国債の大量発行はその意味で経済が縮小均衡に陥ることを防ぐ役割を果たしてきたといえよう。この期間中,国際収支が大幅黒字であったことは国債の発行が民間部門の貯蓄超過の範囲内にとどまっていたことを示している。51年から53年にかけて国債の発行が大量に及んだにもかかわらず,金利の大幅な上昇につながらなかったのは,こうした事情によるものであった。

だが,54年になるとこうした関係はかなり変化してきた。民間部門で企業の投資活動が活発化する一方,家計の貯蓄がそれ程は増えず,民間部門の貯蓄超過が縮小してきたからである。加えて,公共部門では高水準の財政赤字が続き,民間部門の貯蓄超過を上回るようになった。

(大量発行とその消化)

一方,発行された国債の消化については,わが国の場合,金融機関等のシンジケート団による引受方式という形態を原則としてとってきたが,40年代においては,その消化は総じてスムーズに行われてきた。

これは,①発行額が金融機関の資金量に比して小さかったうえ,②その大部分は日本銀行の国債オペレーションによって1年後には買い上げられていたため,金融機関の本来の業務である民間部門への貸出しを圧迫することにはならなかったからである。しかし,50年以降こうした状況は変わってきている。すなわち国債の発行額は成長通貨供給のための日銀オペをはるかに上回る規模に達している。またそのうち金融機関による引受け分はこれら金融機関の預金増加の大半を占めるにいたっている( 第I-4-17図 )。

(国債管理政策のあり方)

以上のような状況からみて今後の国債をめぐる問題として次の諸点が指摘される。

第1は大量の国債発行の継続はクラウディング・アウト等金融面での弊害のみならずインフレや財政の硬直化といった問題を招くおそれがある。従って財政の不均衡をすみやかに是正することが必要である。

第2は,やむを得ない範囲内の国債の発行については,これがインフレに結びつくことのないよう注意することである。そのためには,①国債の発行がマネーサプライの異常な増加に結びつかないよう,金融政策がマネーサプライの安定的管理に努めること,②国債の個人消化に努めること,③引続き市場実勢を反映した発行条件の決定を行っていくこと等が重要である。

(進展した金利の自由化・弾力化)

金融市場においては,短期金融市場を中心に金利の自由化・弾力化が一段と進んだ( 第I-4-18表 )。

特に,銀行間の短期金融市場であるコール・手形市場では,54年10月に二山越え手形の建値制が廃止されたことにより,レートの自由化が達成された。また,54年5月に導入された自由金利によるCD(譲渡性預金)の発行も順調に拡大しており,55年4月では2.2兆円と短期金融資産として重要な地位を占めるに至っている。なお,55年3月に円安対策の一環として外国中央銀行等の自由円勘定の金利が自由化された。

こうした金利の自由化・弾力化については,今後とも金融情勢の推移に応じて,弾力化・自由化を進めて行くことが,今後の財政金融政策の円滑な運営にとって重要な条件となろう。

第1に,国債の大量発行が今後も続かざるをえない状況下では民間部門と公共部門のバランスのとれた資金配分のため,市場機能を活用していく必要があるからである。

第2は,企業の外部負債依存度が低下する状況の下では銀行部門の信用を調節するだけでは金融政策の有効性を確保できにくくなってきていることである。このような経済環境の変化に対しては,金利の弾力的な変動を通じて企業部門の資産選択行動に働きかけていくことが重要になってきている。