昭和55年
年次経済報告
先進国日本の試練と課題
昭和55年8月15日
経済企画庁
第I部 景気上昇と物価安定への試練
第2章 景気上昇の性格
近年における住宅需要は住宅ストック水準の高まりなどを背景に安定期に入ってきている。こうした中で54年度の民間住宅投資(GNPベース,実質)は頭打ち傾向を続け,前年度比1.6%の減少となった。
住宅建設の動向を,新設住宅着工戸数の動きでみても53年度前年度比2.2%減のあと54年度も0.8%減と小幅ながらも引き続き減少した。これを資金調達別にみると,民間資金のみによる着工数は,53年度の11.2%減に続き,54年度も6.2%の減少となった。公的資金を利用した着工戸数も,住宅金融公庫の融資の拡大に支えられて8.1%の増加を示したものの,52年度(20.8%増)や53年度(17.4%増)に比べると低い伸びとなった。
また,この資金別及び持家,借家,分譲などの利用関係別に着工戸数がどういう面で増えたか(増加寄与度)をみると,53年度では,良質な住宅ストックの形成に資するとともに,景気対策の観点から公庫融資戸数が拡大されたことにより,公的資金を利用した持家や分譲住宅が増加したため,民間資金のみによる持家分譲住宅が減少した。54年度も,公的資金を利用した住宅が持家を中心に増加したため,民間資金のみによる持家も減少を続けた( 第I-2-35図 )。
こうした中で,持家住宅と分譲住宅はそれぞれ前年度比で53年度5.3%減,0.4%減のあと,54年度5.5%増,1.7%減となり,持家系住宅は安定した推移を示した。
このように,近年持家系住宅が安定化してきた背景としては,世帯当たり住宅ストックが増加したことによる面が大きい。40年代後半をピークとする活発な住宅建設活動により,住宅の量的な充足が進む一方,新規世帯増及び人口の社会移動といった新規需要要因が鈍化する傾向がみられるからである。また,平均的な住宅ストックの戸当たり居住面積の増加,耐用年数の上昇など質的水準の向上もすすんだため,需要圧力が小さくなっていることも影響している。
これに加え,近年の住宅建設の懸念材料としては,宅地取得が地価上昇を背景に困難となっていることがある。最近の地価上昇は住宅地を中心に生じており,その一つの重要な背景に素地供給の減少に伴う宅地供給減があげられる。素地供給の状況を農地の転用面積でみると,全国ベース,全用途では下げどまりとなっているが,市街化区域内における住宅地目的の転用面積は三大都市圏,地方圏ともに減少している。一方,素地の売却額を反映しているとみられる個人の譲渡所得金額も49年以降の地価上昇の影響を除けば,面積ベースで停滞していると考えられる( 第I-2-36図 )。また,54年に入ってからの原油,原木価格の上昇などから建設資材価格が大幅に上昇している( 第I-2-37図 )。
こうした最近の住宅需要の安定化の中で公庫融資戸数が拡大されたため,民間資金のみによる住宅が持家を中心に減少することとなった。これを民間資金のみによる持家住宅についてみると,近年では減少要因として住宅ストック・世帯数要因が大きく,さらに,54年半ばから地価要因,住宅ローン建設費要因が加わりつつある( 第I-2-38図 )。
このように融資条件に相違があり,住宅金融公庫の融資が促進されたから,54年度には,持家着工戸数に占める公庫持家戸数が全国平均で50%近くにまで達した( 第I-2-39図 )。
こうした状況のなかで,公庫融資の拡大は次のような影響をもたらしている。その1つは,所得が低くて家を持てない世帯を中心に持家建設の可能性が拡大されたことである。公庫資金利用者の所得分位をみると,第I,II分位比率が次第に高まってきている。2つには,大都市圏においてはマンションが居住形態として定着しつつあり,新規の戸建需要は相対的に小さいという面があるが,戸建住宅については土地取得が相対的にむずかしい首都圏を中心に結果として建て替えが促進されたことである。首都圏での建て替え比率は42%に達している。
ただし,都市部では,マンション需要が増大した。
民間持家が減少を続けるなかで,マンション需要は底固い動きであった。マンション総供給戸数は,50~51年度は低水準だったが,52年度から大幅増加に転じ,54年度も伸びは鈍ったものの,全国では10万戸近い水準に達した。
マンション供給の動向を首都圏についてみると( 第I-2-40図 ),新規供給戸数は,54年度後半やや伸び悩みがみられるものの,月間契約率は引き続き高水準を維持し,また在庫率も低水準であった。
こうしたマンション需要好調の背景としては,土地付き住宅の取得が宅地価格の上昇により困難となる中で安い価格の宅地を求めようとすれば都市の外周部にならざるをえず,これは通勤時間の増大等を伴うため,若年層を中心に職住近接のマンション需要が大きくなってきていることがある。
このため,これまでのところマンション需要は高水準に推移してきた。しかし,最近では,先行き懸念すべき材料も増えている。それは,①マンション価格がすでにかなり高い水準に達し,マンション需給に緩和のきざしがみられるとはいえ地価,建築費上昇の影響により今後とも予断を許さない状況にあること,②4,5月と住宅ローン金利引上げが行われたこともあり,マンション価格に対する資金調達可能額の比率も低下傾向に転じていること,などである。