昭和55年

年次経済報告

先進国日本の試練と課題

昭和55年8月15日

経済企画庁


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第I部 景気上昇と物価安定への試練

第1章 昭和54~55年の日本経済

第1節 54~55年経済の概要

(54~55年経済の特微と推移)

54~55年の日本経済の特徴として次の諸点があげられる。

第1は,景気の自律的・本格的上昇がみられたことである。経済企画庁の景気動向指数によれば,今回の景気上昇は,既に50年4月から始まっている( 第I-1-1図 )。しかし総じていえば,52年頃までは,迫力に欠ける景気上昇であった。だが,53年に入ると,国内民間需要は増勢を強め,54年には景気上昇に力強さが加わった。これには,輸出の寄与も大きかったが,民間設備投資が資本ストック調整過程を経て,本格的再開段階ヘ入ったのが大きかった。最近では製造業大企業の設備投資も拡大してきている。在庫投資も増加を続けている。

第2は,第2次石油危機とその影響である。54年初以降,OPECは,それまで比較的落ち着いていた原油価格を,段階的にかつかなり大幅に引き上げた。そして,これに伴いそれまできわめて安定的であった卸売物価は急速に騰勢を強め,消費者物価も次第にその影響を受けることとなった。また,国際収支も赤字幅拡大傾向を強めた。

第3は,こうした情勢下で,特に物価安定を重視して経済政策が展開されたことである。経済政策は,景気上昇と物価安定の両方に留意しつつも,物価上昇率が加速化されるにつれ物価安定を最優先課題として実施されることとなった。

以上の結果,日本経済は安定性を維持しつつ拡大してきた。

国際収支は大幅に悪化し,現在でもかなりの赤字が続いているが輸出入の基調はそれを改善する方向にある。物価上昇率は高まったものの,輸入インフレはホームメード・インフレになることなく推移してきた。景気上昇も,基本的基調が損なわれることなく現在に至っている。雇用の改善も進んできた。

こうして,石油危機の影響は,これまでのところ今回は前回に比して,物価の面でも,景気の面でも緩やかであった。その背景には以上のような経済政策の効果と景気の力強さが大きく寄与したと思われる( 第I-1-2表 )。

こうした54~55年経済の特徴をその推移でみれば,次の3つの局面に分けられる( 第I-1-3表 )。

第1は,54年1~3月期から4~6月期までの局面である。この局面では,石油価格上昇の影響は受けつつも,まだきわめて軽微で,物価安定下で経済の拡大が続いた。国際収支は,経常収支(季節調整値)が2月から赤字に転じ,卸売物価の上昇基調は,4~6月期加速されたものの,消費者物価は,前年同月比2~3%台の上昇率で約20年ぶりの安定を維持し,その間実質経済成長率は前期比で1~3月期1.5%,4~6月期1.7%と着実な伸びを示した。需要面ではそれまで景気を支えていた公共投資はマイナスになったものの,消費者物価の安定を反映して個人消費は着実に増大し,設備投資も順調に推移した。しかし,この間石油価格は上昇基調にあり,たとえば54年1月15ドル/バーレルであったアラビアンライトのスポット価格は6月には37ドル/バーレルに達し,公式販売価格も1月から6月にかけて,13.34ドル/バーレルから18ドル/バーレルに引き上げられた。こうした原油価格大幅上昇や円相場の下落等による卸売物価の上昇傾向に対処すべく政府は2月26日第1次総合物価対策を決定し,日本銀行は,4月17日公定歩合を0.75%引き上げ,引締め政策に転換した。

第2の局面は,54年7~9月期から,55年1~3月期までである。この局面では,国際収支の大幅悪化,物価上昇の加速化等石油価格上昇の国内への影響が顕著となった。経常収支は大幅悪化傾向を続けるとともに,これらを反映して円レートは円安傾向を強めた。また卸売物価は8月には前年同月比10.9%と2桁台の上昇率に達し,以後その騰勢は続いたが,55年5月には漸く前月比でマイナスに転ずることになった。そして,日本銀行は公定歩合の数次にわたる引上げを含め金融引締め政策を強化し,政府は54年11月27日に続き第2次の,55年3月19日には総需要管理政策を中心とした第3次の総合物価対策を決定した。一方,国内経済は拡大を続けた。実質経済成長率は,54年7~9月期1.7%,10~12月期1.1%,55年1~3月期1.8%と推移した。設備投資も着実に増加し,輸出も円安とアメリカの景気の上昇を背景に増勢を続けた。個人消費支出は,消費者物価の上昇等から実質消費の伸びは鈍化したが,なお景気支持要因となった。そして,55年1~3月期には電力や各種資材の値上げを控えて,流通業者や需要家が資材を早目に手当てするという形の「仮需」がみられた。他方この間石油価格は上昇し,わが国の輸入石油価格は54年6月の17.3ドル/バーレルから55年3月には31.8ドル/バーレルと倍近く上昇した。なおこの間,アメリカ景気はインフレ,金利高を伴いつつなお上昇を持続した。

第3の局面は,55年4月以降現在に至る局面である。この局面では,内外情勢にやや変化が生じている。石油情勢では,需給緩和基調が明確化し,産油国の値上げ姿勢は強いものの,価格上昇率は鈍化し,年初来原油スポット価格は軟調となっている。国際経済情勢では,アメリカ景気が急速に後退に転じ,金利も低下してきた。そしてこれを反映して,ドルの過大評価の是正,国際商品市況の軟化が進んでいる。こうした中で4月半ば以降為替レートは円高傾向に転じた。また国内経済では経常収支は4月,5月と赤字幅を縮小し,卸売物価も大幅円高による輸入物価の下落を主因に5月以降落ち着きを回復した。そして「仮需」の調整としての流通原材料在庫の調整の動き,個人消費の伸びの鈍化もみられている。

しかし,国内経済は,設備投資,輸出の増加からこれまでのところ総じて着実な拡大を続けている。こうした中で,消費者物価にも卸売物価上昇の波及が続いており,引き続き警戒すべき状況にある。


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