昭和53年
年次経済報告
構造転換を進めつつある日本経済
昭和53年8月11日
経済企画庁
第3章 経常収支黒字の背景と円高の国際収支調整効果
わが国の国際収支は,総合収支でみて43年度以降,ニクソンショック(46年8月)やスミソニアンによる円の切上げ(46年12月)にもかかわらず黒字基調を続けていたが,景気過熱と石油危機により48年度には134億ドルという大幅赤字に転じ,赤字は50年度まで続いたが,その後再び黒字になり,52年度には121億ドルの大幅黒字を示した( 別表6 参照)。48年度の大幅赤字の主因は91億ドルという長期資本収支の赤字にあり,その後この項目の赤字幅は急減した。経常収支はほぼ総合収支と同じ動きをしており,47年度までの黒字のあと,48,49年度と赤字になり,50年度はほぼ均衡,52年度は140億ドルの黒字となった。
このような経常収支の推移を外国と比べてみると( 第3-1-1表 ),OPEC(石油輸出国機構)諸国が石油の大幅値上げにより1974年に600億ドルを越える黒字を生み,以後300~400億ドルの黒字を続けている結果,それまで黒字であったOECD(経済協力開発機構)諸国が74年以降かなりの赤字に転じており,これら先進国の赤字がその後も続く中で日本が急速に黒字に転じ,最近は黒字幅が大きくなったのが目立っている。
このようなわが国経常収支の黒字転化の主因は輸出の増加と輸入の伸び悩み( 第3-1-2表 )であるが,ここではまず輸出の動きを分析してみよう。
前述の 第3-1-2表 でわかるように,経常収支が黒字になった51,52年度の輸出は,ドルベースでは2割前後の増加をみせたが,52年度は,数量ベースでは7%台の増加にとどまっており,52年度に輸出が増加したという場合,その多くは円高を主因としたドル価格の上昇によってもたらされたものである。しかし実態経済に及ぼす影響は数量ベースの動きであり,これはむしろ,51年度の21.5%増に比して増加率が急落している。ただ52年度の輸出については,この増加率の低下が特徴であったとはいえ,水準がかなり高かったことが黒字の大きな要因となった。
そこで,数量ベースの輸出増加の要因を所得要因(世界貿易の伸びに伴うもの),相対価格要因(日本と外国の輸出価格の動きの差),需給要因(日本国内の需給状況,すなわち,輸出ドライブのかかり方)の3つにわけてみよう( 第3-1-3図 )。
ここでは国民所得統計ベースの実質商品輸出の動きを対象にしているが,年全体としてみれば51,52両年とも所得要因の寄与が最も大きい。すなわち,世界貿易の伸びが日本の輸出を支えたことがわかる。しかし,52年の実質輸出の伸びの鈍化の主因も所得要因である。四半期別にみると,52年下期には世界貿易はむしろ減少を示している。需給要因は輸出にとって51年はマイナス,52年はプラスに働いたが,いずれも比較的小さかったといえよう。注目を要するのは相対価格要因である。52年は,この要因はかなりのプラスになっているが,これは9月以降において円高にもかかわらず,我が国の工業品輸出価格の上昇は世界のそれにくらべ,なお低かったことや,後述するように価格変化が数量変化に影響を及ぼすには時間的遅れ(ラグ)があったことによっている。
そこで,日本の輸出に大きな影響を及ぼす世界貿易の動向について一べつしてみよう。その際,世界貿易の地域別構成と日本輸出の地域別構成の違いを考慮に入れる必要がある。世界(共産圏を除く)の輸入に占める発展途上国の割合は1977年において22.8%(国連統計月報による)にすぎないが,日本の輸出(同じく共産圏を除く)の中で発展途上国向け輸出は49.7%とおよそ半分を占めているので,地域別の輸入数量の伸び率に差がある場合,世界輸入全体の伸びと日本のマーケットの輸入の伸びは異なってくる。これを具体的にみてみると( 第3-1-4表 ),49,50年には,発展途上国の輸入が数量ベースで順調であったため,世界輸入の指数が示すよりは日本の輸出環境は順調であったとみることができる。しかし,51年の輸出増加の背景としては,先進工業国の景気回復,輸入増大,によって支えられた世界貿易の拡大という側面に注目する必要があろう。
さらに52年になると発展途上国の輸入は減少に向かうなど,日本の輸出にとって不利な動きもみられたが,アメリカの輸入増加が大きかったため,日本の側からみた世界輸入の動きは,世界輸入数量指数の示す動きとあまり変らないものとなった。なお,51,52両年にわたったアメリカの景気回復が日本の輸出に与えた影響は大きく,これが日本の貿易収支を日本側の大幅黒字にする要因となったわけである。
ドル建ての世界の輸出価格と日本の輸出価格の動きを比較してみると( 第3-1-5図 ),上下変動の形は似ているが,49年後半以降,日本の輸出価格の方が世界を下回っており,価格面の輸出競争力は強まっていた。しかし,52年に入ってからの円レートの急激かつ大幅な上昇により,日本の輸出価格は急速に上昇し,今や49年1~3月を基準にして世界輸出価格並みの水準となっている。その意味では国際競争力が急速に弱まっているわけであるが,その数量効果が出遅れているのは前述のとおりである。
なお,日本の円建ての輸出価格と卸売物価の動きを比べると,輸出価格の方が変動は大きいが,趨勢的には両者は同じ動きをしていることがわかる。
既にみたように,日本の輸出は相手国の需要動向の影響を強く受けている。しかし,それとともに世界輸入の増加率よりも大きい増加率が日本の輸出についてみられた。これは日本の輸出の世界貿易に対する弾性値(日本の輸出数量の変化率/世界輸入数量の変化率)が1より大きいことを意味するが,これを国際比較してみると( 第3-1-6表の「所得弾力性」 ),日本は主要国より高いことがわかる。これはいかなる要因によってもたらされたのであろうか。
日本の輸出弾性値が高いということは,世界における日本の輸出シエアが高まっていることを意味する。この日本のシエア拡大は,三つの要因に分解して考えることができる。第一は,日本の輸出市場構成に偏りがあって,その中で比重の高い部分が急速に成長した場合には,日本の輸出の伸びが世界の輸出の伸びを上回る。日本の輸出の地域別構成が有利であった,という要因である。第二には,日本のある国へ向けての輸出が,その国の輸入のなかで特に急速に増えている商品を多く含んでいた場合にはシェアが増大する。つまり日本の輸出の商品別の構成が有利であった,という要因である。第三は,日本製の商品の競争力が強く,特定国の特定商品の輸入に占める日本のシェアが高まったというものである。
まず,やや遡って45年から50年までの日本の輸出の伸びを分解してみると( 第3-1-7表① ),名目の金額どうしを比較していることもあって,大部分は世界貿易の伸びに平行したものであったが,上記三要因いずれもプラスであり,これらも日本の輸出増大に寄与したことがわかる。しかし,市場構成より商品構成,競争力の要因の方がやや大きい。
しかし,51,52年には世界貿易の伸びに平行する部分のウエイトが下がり,商品構成と競争力要因が増え,51年などは市場構成はむしろマイナスの寄与となっている。52年について商品構成と競争力への分割がデータの関係上できないこともあって,主要輸出国であるアメリカについてみると( 同表② ),商品構成要因は51年,52年ともマイナスであるが,51年の競争力要因の大きいことが極立っている。競争力要因は52年にはマイナスになっているが僅かなものであり,高い競争力水準を維持したことになる。この結論は,近時アメリカで増加している石油輸入を除いてみても変りはない。従って,51,52年の日本の輸出増加を問題にする場合,以上を総合して考えると日本の輸出競争力の強まりに注目する必要があることになる。
第3-1-8表 アメリカにおける乗用車及びカラーテレビの販売状況
このことについて,アメリカ市場においてやや具体的にみたのが 第3-1-8表 及び 第3-1-9表 である。上記の競争力の考え方はアメリカの輸入に占める日本品のシェアの高まりによって競争力を示すものとするものであるが,ここではアメリカの国産品を含めた市場全体での日本品のシェアも示してある。これでみると,自動車の日本のシェアは傾向的に高まっている。
他方,カラーテレビについては1976年には3割を超えるに至り,アメリカ国内において輸入制限的動向が高まり,こうした動きを回避する形で77年にはシェアを下げるに至っている。他の主な品目についても,総じてシェアが高まっているが,オートバイ・スクーター,ラジオ・テレビ以外の通信機器,鉄鋼などかなり高いシェアに達したものは最近シェアが下がっている。また,これら品目については輸入制限的動向が同時期にみられるものがあり,後述の貿易摩擦との関連が注目される。
第4章でみるように,石油危機後わが国の生産性の上昇は産業別にかなりの格差があった。我が国の賃金コストの上昇率や全産業平均での生産性の上昇率は特に競争力を強めるような動きを近年みせなかったが,産業別に生産性の上昇率をみると,輸出部門では他の部門よりかなりこれが高かったことによって,上記のような我が国輸出の増加に占める競争力要因が高まったものと思われる。この意味でこうした輸出商品の強い競争力は,結局のところ,日本の産業活動のもたらしたものといえ,第4章での検討のひとつの重要な視点になるが,ここでは主要輸出品目について若干の例を紹介することにしよう。
我が国の輸出の金額の多いもの上位3品目は,52年度において,自動車(128億ドル),一般機械(110億ドル),鉄鋼(105億ドル)である。かつての「輸出御三家」のうち船舶は82億ドルと圏外へ去った。次に50年度から52年度までの2年間に輸出増加額の多いもの上位5品目は自動車(59億ドル),一般機械(42億ドル),船舶(20億ドル),科学光学機器(13億ドル),ラジオ(10億ドル)ということになる。輸出総額の増加277億ドルのうちこれら5品目で144億ドル,52%を占めている。我が国の輸出は最近このような高加工度の機械類を中心に増えているのである。なお最近の伸びの高いものの例としては,腕時計が50年の1,280万個から52年は2,070万個と増加しており(61%増),ビデオ・テープレコーダーはごく最近増えはじめたが,本年1~4月は前年同期に比して3.4倍,金額にして年率4億ドルと対米カラーテレビ輸出に匹敵する規模になりつつある。
そこで,まず自動車についてみると,これは商品を比較可能なように規格化できないのでコストの国際比較は難しい。しかし,最近では円高のせいもあり,販売価格はアメリカ市場では同クラス車に比してかなり割高になっている( 第3-1-10表 )。したがって,価格競争力は劣っているのであるが,このような差別化の可能な商品はむしろ非価格競争力で優っているといえる。例えば,アメリカ自動車部品製造協会,西ドイツの自動車雑誌「モート」,イギリスの消費者雑誌「モーターイング・ウィッチ」などのアンケート調査やスウェーデン「強制車検年次報告書」などによって,日本車が,性能,耐用性,欠陥発生頻度の低さ,修理費の低さ,信頼性,デリバリーの迅速さといった長所があることが認められ,これが一般に受け入れられている。また,アメリカなどでは最近燃費に対する意識が高まっているが,アメリカの環境保護庁の燃費テストでは,ディーゼル車を除くと1位から4位までを日本製の車が占めるという結果となっている( 別表7 参照)。
これらの性能や耐用性は仮に我が国の技術水準が低ければ高いコストにつく筈であるが,日本の自動車産業では旺盛な合理化投資がここ数年みられ,石油危機後総じて設備投資が停滞するなかで,50年を除いて,例えば産業用ロボットの大幅な導入が行われている( 第3-1-11図 )。
また, 第3-1-11図 は,自動車産業以外に電気機械産業や一般機械産業も近時合理化に大いに努力したことを示している。これらが,一般機械,科学光学機器,家電製品などの輸出増加につながっていると思われる。
また,消費者の好みに合う新しいアイデアと高い性能,妥当な価格が相まって急速に輸出が増えている例も多い。前記の腕時計はクォーツ式という新しいタイプで世界市場を席捲し,今やこれまでの時計王国スイスをしのぐという状態になった。ビデオ・テープレコーダーもそのような新製品成功の例といえよう。
次に伸びは落ちたとはいえ金額的には大きい鉄鋼業についてみると,これは製品差別化が難しいものであるため,価格競争力が問題になる。そして,1976年についてのアメリカ政府機関の調査によっても欧米に比して日本のコスト安は明らかであり( 第3-1-12表 ),その後の円高を考慮に入れても依然として優位性を保っているとみられる。
このような日本の鉄鋼業のコストの低さは,ひとつには欧米に比べて設備の新鋭度が高いところからきている。例えば,日本には容積2千立方メートル以上の高炉が38基もあるが,アメリカではわずか5基,西ドイツでも7基にすぎない。
52年前後は日本の輸出品に対する海外の輸入制限的な動きがかつてなく高まった時であった。そこで主要事例と摩擦が起った背景,及び円高や貿易摩擦などに対応して最近起きつつある輸出面における目立った変化をここでとりあげたい。
まず,アメリカについてみると,51年にセーフガード(輸入により打撃を受けた国内産業を臨時的に保護すること)的考え方の下に特殊鋼の輸入数量制限措置がとられ,52年7月にはカラーテレビについての同様な考え方に基づくアメリカ国内の輸入制限的動向に対処するため,我が国は輸出自主規制措置をとることとした。またCB(市民バンド)トランシーバーについては関税引上げが既に実施されている。また本年2月にはアンチ・ダンピング法の手続きを改正し輸入鋼材に対しトリガー・プライス制度がとられた。これらはすでに具体的措置がとられた主要なものであるが,現在,調査中のものとしては,オートバイなどがある。
ECにおいても,鉄鋼に対するペーシック・プライス制度などがとられている。その他,ベアリングに対するアンチ・ダンピング措置,船舶の価格引上げや受注抑制,自動車の数量規制要求など多くの事例がある。
これらの問題になった品目には,前述のような近年の我が国の輸出増加品目がみられている。
これらの事例については,前述したような日本における合理化努力や製品開発努力をなぜ相手国は行わず,日本の輸出増を問題にするのかという反論や,日本品の高品質が相手国消費者に認められているのにその輸入を抑えることは非合理的であるという反論が相手国側に対してなされ得るとともに,他方では以下で述べるように,特定地域に特定品目が目立った形で輸出が増えたこと,石油危機後,多くの国で経常収支の赤字と高失業が続き,保護主義的傾向が高まっていることなどの事情もある。
では次に,これらの貿易摩擦が生じた背景を考えてみよう。ここでは,経常収支の黒字が続いていながらあまり貿易摩擦を生じていないかにみえる西ドイツとの比較を中心に検討する。
まず,国際収支全体の動きは,日本については本章冒頭に述べたとおりであるが,西ドイツについては, 第3-1-13図 に示してある。すなわち,経常収支は石油危機の1974年にむしろ黒字幅を拡大しているが,その後は日本の動きと逆に黒字幅は縮小している。また,総合収支は石油危機後あまり大きな変動をみせず,77年には47億ドルの黒字と日本よりかなり少ない。こうした動き,ことに経常収支の動きが国際的な反応と重要な関連をもっていると思われる。
次に,西ドイツの輸出の地域別構成をみると,1977年において,地続きであり分業関係が密接なEC諸国に対して全輸出の45%を輸出しており,全世界的に発言力の大きいアメリカに対しては7%弱しか輸出していない。これに対し,日本はECに対する輸出は全輸出の1割にすぎないが,アメリカに対しては24.5%を輸出している。貿易問題についてのアメリカの関心が日本の方により強く向くことの背景にはこのようなことがある。
第三に,地域別の貿易および経常収支の推移をみてみよう。原理的にいえば,一国のグローバルな国際収支が均衡しているのが望ましい姿であり,どの地域に対しても国際収支,あるいはその一部である貿易収支が均衡していなければならないということはない。多角的な決済関係で二国間のアンバランスは解消するはずだからである。しかし,貿易摩擦のように非経済的な側面も多分に併せもっており,赤字国の失業問題がからませられている場合には,二国間の貿易収支が強く意識されることになる。
そこで,日本の地域別の貿易収支の姿が貿易摩擦を起こし易い形のものであったかどうかをみてみよう。まず石油危機以前をみると,オセアニア,OPECなど一次産品輸出国に対し入超であり,先進国や非産油発展途上国に対しては出超であるという形がすでに生じていた( 第3-1-14表 )。この傾向は石油危機前後の一次産品価格の高騰による交易条件の変化によって助長された。そして51年以降の大幅な貿易収支黒字の時期には,資源保有国に対する赤字は減少せず,逆に僅かではあるが拡大を示すといった状況で,黒字はもっぱらアメリカ,ECとの間で増加するという現象が生じた。貿易摩擦を回避する上で不利な状況が作り出されたといえよう。これを経常収支でみても,先進国との間で貿易外収支が赤字のため収支差は貿易収支の場合より縮小するが,基本的なパターンは変らない( 第3-1-15表 )。
他方,西ドイツの経常収支の地域別状況をみると( 第3-1-16表 )。石油危機前において黒字幅の大きかった対先進国の収支が,その後縮小していること,特に対米収支は赤字になっていること,他方,一旦赤字幅が拡大したOPEC諸国に対する収支も縮小し,ほとんど均衡に近づいていること,非産油開発途上国の対しても赤字であることなどが目立っており,要するに地域別アンバランスが縮小し,貿易摩擦が生じ難い形になってきている。このようなことは日本の地域別輸出入動向の今後のあり方について示唆的である。
なお,輸出品の構成を西ドイツと比較してみると( 第3-1-17表 ),日本より構成比が非常に高いのは化学製品と電気機器を除く機械類であり,日本の構成比が高いのは鉄鋼,輸送用機器及び電気機器である。すなわち,日本の場合,鉄鋼,自動車,家電製品といった大量生産型であるが,西ドイツの場合は化学品や工作機械,プラント類といった高付加価値,多品種(化学,機械類とも)で一件当り金額が大きい(機械類)といったものである。
円高は低生産性輸出品に対して大きな打撃を与えるはずである。高生産性輸出品の多くは貿易摩擦にぶつかっている。このような事態に対応して我が国の輸出の姿はどのように変ろうとしているのであろうか。もとより未だ流動的であって確たる動きが出ているとはいえないが,最近の動きから推察できる傾向を探ってみよう。
まず第一は,船舶輸出激減の傾向である。これは,円高や貿易摩擦によるというよりは世界的な船腹過剰の結果という面が基本である。我が国の船舶輸出は52年度において1,218万トンに達したが,52年度中の輸出船受注量が369万トン,53年3月末の手持工事量が国内船も含めて775万トンという現状の下では,53年度の船舶輸出が激減することは目にみえている。そして輸出御三家からはずれたとはいえ,未だ52年度において第4位,全輸出額846億ドルのうち82億ドルを占めており,それが数割減少するとすれば日本の輸出にとって大きな影響を及ぼすはずである。
第二は貿易摩擦の影響である。 第3-1-18図 に示すように,テレビは既に昨年中から目立った数量減を示している。鉄鋼も昨年10~12月期以降顕著に減少している。
第三は円高の影響である。繊維製品が数量的に減り始めており,最近,自動車も減少に向かっているのは円高のためと思われる。さらに,ドルベースでみた雑貨が52年1~3月期には前年同期比33%増であったのが,その後傾向的に増加率が下がり,本年1~3月期には,16%増にまで落ちているのも円高と無縁ではなかろう。
他方,円高にもかかわらず輸出数量が伸びているのは,同図では一般機械と科学光学機器と化学である。化学が増えているのは,競争力とは別の要因で増えている面もあろうが,科学光学機器は技術革新等による高品質の維持,一般機械は西ドイツ同様,非価格競争力によって増加している点が注目される。その他,前述のビデオ・テープレコーダー,腕時計(本年1~4月期の数量の前年同期比21%増),さらには35mmカメラ(同28%増),高級オーディオ関連品(レコードプレーヤー:同65%増,カセット・テープデッキ:11%増,スピーカーシステム:35%増,アンプ:45%増)などの高付加価値品の増加が目立っており,輸出品の多様化が進んでいる。
また,後述するように円高によってドルで測った日本の賃金水準はアメリカにかなり近づくほどになっており,経営資源の移転など多面的な問題があるので単純にはいかないが,投入コスト面から,海外生産の有利性が高まりつつある。その上,それが貿易摩擦対象品目であれば,余計海外での生産,特に現地生産の条件が増えることになる(ある地域への輸出量がそこでの最適生産規模に近くなる可能性を示す)。まだ,そのような動きは端緒的なものであるが,例えば本邦資本の直接投資が本年1~5月累計で8.3億ドルと前年同期の6.8億ドルを若干上回っているのはそのような動きを一部反映しているものとも思われる。