昭和52年
年次経済報告
安定成長への適応を進める日本経済
昭和52年8月9日
経済企画庁
第II部 均衡回復への道
第3章 国際収支黒字の背景と課題
51年度の貿易収支は11,148百万ドルの黒字と前年度に比べ,大幅な改善を示し,史上最高の黒字を記録した。これは,輸出が前年度に比べ大幅に増加(前年度比23.9%増)したのに対し,輸入は輸出に比べ緩やかな伸び(同16.1%増)にとどまったからである。この間の動きをみると輸出は51年前半においては,先進国経済の景気拡大を主因として急増したあと,後半においては,先進国経済の同時的な,景気回復テンポの鈍化により伸び率は大幅に低下したが,52年に入ると,再びアメリカ経済を中心とした海外需要の拡大を背景に堅調に推移している。一方,輸入は51年前半において原材料在庫率の水準が高かったことなどから伸び悩んだあと,後半において海外市況の上昇や石油値上がり前の駆け込み輸入などからやや増加したものの年度間では比較的緩やかな伸びにとどまった。
これに対し貿易外収支は用船料,港湾経費の支払の増加,旅行収支の悪化などから51年度は赤字幅は拡大したものの,貿易収支の大幅黒字から,経常収支では4,682百万ドルの黒字と前年度(134百万ドルの黒字)に比べ大幅な改善を示した。
一方,資本収支についてみると,長期資本収支の流出幅は前年度に比べ大幅に拡大した。これは,内外金利差による対日債券投資が高水準であったことや,本邦企業による外債発行により外国資本の流入がかなりみられたものの,船舶を中心とする延払信用供与の急増や,借款供与の増加によって大幅に本邦資本が流出したためである。これに対し短期資本収支は前年度の流出超から,51年度は輸入ユーザンスの享受増によって小幅ながら流入超に転じたため,資本収支全体では,1,204百万ドルの流出超にとどまった。こうした経常収支,資本収支の動向を反映して,51年度の総合収支は3,252百万ドルの黒字と47年度以来4年振りに黒字になった( 第II-3-1図 )。
また,51年度中の外国為替市場における円相場は,上記の国際収支の動向を反映しておおむね円高基調で推移した。すなわち,51年前半は,貿易収支黒字幅の拡大や外資の流入を反映して,3月央に半年振りに円相場(対ドル直物,中心レート)は300円の大台を割込んだ後,9月央までほぼ一貫して円高基調に推移した。しかし,12月初めにかけてやや円安で推移したものの,52年に入ると再び輸出の増勢の高まりや,円先高観の強まりから円高基調で推移し,3月に270円台となった後,その後も基調としては堅調に推移していた。そして,6月末頃から一段と円高を強め,7月5日には3年11か月振りに265円を割った。
以上にみたように,51年度の日本の貿易収支は全体としては大幅な黒字を記録した。これを地域別の貿易収支でみると,対主要先進国バランスにおいて大幅な貿易黒字がみられた。例えば,1976年の対アメリカ貿易収支は5,531百万ドルの黒字,対EC貿易収支も3,907百万ドルの黒字となった。このような貿易の不均衡を契機として,EC諸国は,鉄鋼,造船等の輸出自主規制を要請し,アメリカも鉄鋼,カラーテレビの輸出増加に対する対策を提起した。またわが国の輸入に対しても,自動車型式認定制度の運用改善,53年度排ガス規制の外国車への適用延期,医薬品検査制度の改善などの要求がなされた。とりわけ,アメリカ,及びEC諸国の日本製品に対する輸入規制問題が顕在化した背景にはアメリカ,西欧市場という特定地域に対して日本の輸出が特定品目に集中して著増したという面もあった。( 第II-3-2表 )。
そこで,この点をまず,アメリカの製品輸入についてみると,日本とECのシエアは76年中対照的な動きがみられた。すなわち,アメリカの総輸入は前年比25.5%増となったが,日本からの輸入のシエアは上昇(11.7%から12.8%へ)したのに対し,ECのシエアは逆に低下(12.7%から10.6%へ)した。品目別に見るとこのシエアの変化は一層顕著となり,機械機器では日本からの輸入で前年比56.0%増と大幅増加し,シエアも大幅に上昇(23.8%から29.3%へと)し,なかでもラジオ・テレビ(前年比100.9%増),自動車(同64.1%増)におけるシエアの拡大は著しかった。一方,ECからの機械機器の輸入は前年比1.4%の伸びにとどまり,シエアもかなり低下(21.8%から17.4%へ)した。
次に76年の西欧の製品輸入市場の動きを,OECD加盟西欧諸国の輸入に対する日本とECの輸出についてみると,日本のシエアはもともと大きくはないが,輸出の増加幅は著しく,OECD加盟西欧諸国の76年の総輸入が前年比13.1%増であったのに対し,日本からの輸入は同22.7%増とこれを大きく上回って増加した。
一方,ECからの輸入は同12.6%増にとどまり,アメリカからの輸入も同7.1%増であった。品目別にみると,鉄鋼,自動車ともECのシエアが低下するなかで日本のシエアの上昇が目立っている。
以上のように,76年のアメリカ,西欧市場における需要拡大のかなりの部分を日本の輸出が占めたことが,各国との摩擦を増大させる一因にもなったといえる。
次にこのような大幅な貿易収支の黒字となった要因を輸出と輸入について分析してみよう。