昭和51年

年次経済報告

新たな発展への基礎がため

昭和51年8月10日

経済企画庁


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第3章 根強い物価上昇圧力とその背景

第1節 比較的落着いた推移を辿つた消費者物価

1. 消費者物価と卸売物価は乖離縮小に向う

50年度の消費者物価は,異常気象による野菜価格の高騰など波瀾はあつたものの,全体としては騰勢鈍化の基調が続き,年度末一桁の目標も達成した。

年度中の動きをみると,景気の谷にあたる50年1~3月の消費者物価の上昇率(前年同期比)は従来に比べて非常に高かつたものの,その後の上昇テンポは徐々に低下し,50年10~12月期以降,対前年同期比上昇率は一桁台となつている。内訳をみると( 第3-2図 ),まず,工業製品が大企業性製品,中小企業性製品ともに50年度前半の卸売物価の落着きを反映して上昇率が鈍化してきており,寄与度が低下している。加えてサービスや農水畜産物の上昇率も依然かなりの高水準ながらしだいに落着く傾向をみせている。農水畜産物のうち季節商品の動きをみると50年度前半までは落着く傾向が続いていたが,年度後半にはいって,野菜の上昇もあつて,やや上昇率が高まつた。最近の動きで品目別にみると,(1)米(51年3月の対前年同月比上昇率で16.4%上昇),(2)野菜(同27.8%上昇),(3)水道料(同45.7%上昇),(4)教育(同27.8%上昇),(5)たばこ(同47.9%上昇)などの上昇が目立つている。

第3-3表 卸売物価,消費者物価の上昇率

消費者物価と卸売物価との関係は,昭和47年秋ごろまでは長らく消費者物価が上昇するのに対し,卸売物価が安定していたため,両物価の乖離ということが指摘されていた。ところが47年後半以降卸売物価の上昇率が消費者物価の上昇率を上回るようになり両者の乖離はみられなくなつたが,50年に入り再び両者の乖離が現われた。

しかし,両物価の乖離という現象は両物価の品目構成の相違を反映する点が多く,両物価指数に共通する品目では 第3-3表 及び 第3-4図 にみられるようにおおむね同じような動きになつている。したがつて,非共通品目が乖離した方向に動いていたことが両者の乖離を生んできた。

50年度についても,非共通品目の消費者物価がかなりのスピードで上昇してるのに対し,非共通品目の卸売物価は前半おおむね弱含みに推移したため両物価の総合指数に乖離がみられたが,後半には非共通品目の卸売物価も上昇に転じた結果それぞれの総合指数は次第に乖離が縮小した。

2. 消費者物価変動の要因分祈

次に,消費者物価関数を用いて上昇テンポが落着いてきた消費者物価の変動要因を探つてみると,50年度において消費者物価上昇率の低下をもたらしたのは,主として卸売物価からの波及要因と賃金コスト要因(賃金+生産性要因)であることがわかる( 第3-5表 )。そこで,卸売物価がコストとして消費者物価に影響を及ぼす関係をみてみよう。

45年産業連関表を利用して,消費者物価の投入構造(=コスト構成)を計算してみると, 第3-6図 のとおりで,物的コスト(原単位)が55.1%,付加価値率が44.9%となつている。この原単位比率の中で,物財の投入に係る部分が,44.8%,サービス投入が10.3%である。また付加価値率のうち19.0%が賃金に相当している。物的投入のうち主要部分を占める32.7%が卸売物価指数採用品目に相当している。このコスト構成をウエイトとして,それぞれ対応する卸売物価の個別指数を合成すると消費者物価に対するコスト指数としての卸売物価指数がえられる( 第3-7-A図 )。ここで注目される点は,最近コスト指数としての卸売物価指数の上昇率が卸売物価総合指数の伸びをやや上回つていることであり,また過去一年位は,中小企業性製品原材料の価格変動と大企業性の製品原材料価格変動とが相互に相殺的な動きをとつて,コスト指数の上昇率を抑制してきたという点である( 第3-7-B図 )。しかし,50年末ごろから大企業性製品の上昇率も高まる兆しをみせている。

3. 賃金動向と消費者物価

51年春の賃上げは,平均8.8%の上昇と昭和38年(9.1%)以来13年ぶりに一桁台の上昇率となり(50年は同13.1%),賃上げ率,賃上げ額とも2年続いて前年を下回る結果となつた。

景気全体が谷となつたあと間もなく決定した50年春の賃上げでは,業種間,企業間に著しい賃上げ率の格差がみられたが,全般的な景気回復が進む中で交渉妥結をみた51年春の賃上げにおいては,業種間の収益動向が50年に比べればばらつきが縮小傾向にあつたことなどから,業種別にみた賃上げ率の格差は50年に比べてやや縮小することとなつた( 第3-8表 )。

消費者物価と賃金上昇率とは,相互に影響し合う関係にある。51年の賃上げ率については,これまでと同様,企業の支払能力,物価上昇率,労働需給の状況といつた経済的要因でほぼ説明されうる水準に決つており,その意味ではわが国の賃金上昇率の伸縮性が引続き失われていないということができる( 第3-9図 )。すなわち,51年春の賃上げ率が大きく鈍化したのは,50年度末にかけて消費者物価が安定化したことに加えて,労働需給が大幅にひきゆるんだこと及び企業の収益がかつてないほどの低水準に落ち込んでいることの結果である。

このように賃金上昇率が落着いたことや景気回復局面おいにては生産性上昇率が高まる傾向があることは,サービス,中小企業性製品の占めるウエイトが高く,賃金コストの動向に左右されやすい消費者物価に有利に作用するので,当面,落着き基調が急速に崩れるとは思われないが,現在のような卸売物価の上昇テンポが続くことになれば,次第に消費者物価に波及していく懸念がある。

そこで問題は,やはり卸売物価のこれからの動き如何であるということになるので,以下最近における卸売物価の動きを検討することとする。